madness blossom(R15)
(古→日黒←花)



突然、背後から腕が回されて、強く抱き込まれた。

「本当、ウザすぎてキモいなぁ」

左脇から入れられた腕が反対の肩を掴んで、深く密着される。もう片方の腕で顎を掴まれると、それでなくても恐怖で硬直していた体が、更に身動きできなくなった。左肩に顎が乗る。ずしりとした重みと共に、不快な低音が耳に直接入り込んだ。喋る度に漏れる吐息が首筋を擽る。嫌悪だなんだと言う前に恐怖が勝って、黒子は小さく体を震わせた。

「黒子…!」

駆け寄ろうとした日向も、羽交い締めにされてそれを阻まれた。

「はい、あんたは此処」
「手前…!」

束縛を解こうと体を捻るが、古橋に無表情のまま足に蹴りを加えられ、それをいなされた。バランスを崩し膝をつきかける日向を、腕を後ろに捻って引き摺り上げる。

「ぐっ…」
「いいから見てなよ」

前髪を引っ張られ、日向は顔を歪める。それも、目の前の光景に直ぐ様驚きへと変わった。

「古橋、しっかり捕まえとけよ」

念を押して、花宮は視線を日向に向けたまま、黒子の首筋に唇を寄せた。はぁ、と息を吹きかけられ、体が震える。そこに啄むように唇を落とす。

「はな…っして…」

怯えた声が、反らされた喉仏が上下する度に頭上から降ってくる。花宮は何も言わず、代わりに一番高くなったそこに噛みついた。

「ひっ…!」

ひゅぅ、と空気を吸う音。その反応に思わず笑みを溢し、花宮はベロリと首筋を舐めあげた。首筋を通って、耳元まで。耳裏にキスを落とすと、小柄な体は一際大きく震える。

「っ黒子を離せ!」

腕を振り払い駆け出そうとした日向は、強く後ろに引かれた。片手で日向の腕を一纏めに捻り上げ、もう片方で古橋は彼の顎を固定した。

「黙って見ていろ」
「……っ」

両頬を押し潰すみたいに掴まれて、喋ることすら封じられる。日向は強く、下唇を噛み締める。そんな彼を嘲るような笑みを湛えながら、花宮は黒子の顎を引っ張った。

「!?」

晴天の空を映す水溜まりみたいな瞳を、間近で見つめ返し、花宮は日向を横目で一瞥する。茫然としていた彼は、しかし直ぐに憤怒の色を露にする。それを確認してから、花宮は重ねただけのそれに舌を捩じ込んでいく。
固く閉じた水溜まりから、雫が一粒、溢れ出た。そんなことを気にも止めず、逃げる舌を捕らえて更に口付けを深くする。背後から抱き締める腕を解き、片方は顎に添えたまま、正面から背中に手を回した。体の間で弱々しく押してくる腕があったが、気にせず舌を絡めた。息継ぎができなくて苦しいのか、眉間に皺が寄る。花宮は混ざりあった唾液を送りながら、ジャージのチャックを、ゆっくりと下ろした。黒子は苦しくて、送られた唾液を少しずつ飲み込む。全部飲んだ頃に漸く唇は離されて、代わりにTシャツの下に冷たい手が入り込んだ。

「ひぁっ!」

溢れた唾液が、顎から首筋に落ちる。それを舌で舐めとりながら、花宮は黒子の体に手を這わす。

「やめろぉ!!」

日向は首を捻って古橋の手を払うと、叫んだ。鎖骨を甘噛していた花宮は彼を一瞥して、動きを止めた。ほっ、と安堵の息を漏らす黒子を強く胸に抱き込み、悪童と云われる所以の笑みを浮かべる。

「古橋。黙らせろよ、そいつ」
「暴力で、か?」
「暴力で、だ」

仕方無いとでも言う風に溜息を吐いて、古橋は日向の顎を引いて横に向けさせた。突然のことに対応出来ないでいる日向の唇に、古橋のそれが重なった。目を見開く日向の横顔に、満足したのか笑みを浮かべて、花宮は黒子の首筋にまた、唇を落とした。

「…ぁ…っ!」
「…んぅ…!」

黒子の声に気を取られて薄く開けてしまった唇の隙間から、舌が入り込んでくる。横を向いているから只でさえ辛いのに、口内で暴れられ、すぐに息が上がってしまった。苦しくて、早く束縛から逃れたくて、日向は古橋の舌に噛ついた。じわり、と鉄の味が広がる。古橋は小さく眉をひそめて、お返しとばかりに日向の舌を甘噛した。びり、と電気のような痛みが走る。銀糸を引いて離れていった古橋の唇の端には、血の混じった唾液が光っていた。

「…っは…」
「……」

荒々しく息を吐く日向とは対照的に、古橋は落ち着いた様子で唇の端の唾液を舌で舐めとった。古橋が右手首を掴んで、日向の体を壁に押し付ける。バン、と顔のすぐ横にもう片方の手が置かれた。

「…っやめ…ぁ!」

黒子の掠れた声が聞こえる。トサリ、と床に何かが落ちた。黒子と違って、日向はジャージの前を開けっ放しにしていたから、古橋はそのままTシャツの下に手を差し入れた。ビクリ、と体が強ばる。もう一度近づいてきた古橋の顔は、眼鏡の縁に当たって、また離れてゆく。

「…ああ。邪魔だな」

スッ、と。音も無く指が伸びてきて、眼鏡を奪う。視界がぼやけたのは、それの所為だけじゃない。

カチャン、

無機質な金属音が耳につく。

日向は固く目を閉じた。





2011.01.29
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