妄想101Qおまけ
(青峰と花宮)
「あ〜ダリぃ〜」
青峰は自販機の前でしゃがみ、あからさまな溜息を吐いた。無理矢理連れてこられた試合。興味なんて更々なくて、退屈の一言につきる。
(…ま、テツの新技見れたし良しとするか)
桃井もだが、彼も大概黒子に甘い。ふと隣に誰かが立った。その人物は何かを購入した後、青峰に気がついたらしく、のんびりとした声を上げる。
「あれー君桐皇の…そうそう、青峰、だっけ」
ねちねちとした声。忘れる筈がない。
青峰は立ち上がると、目の前にあるいけ好かない顔に、思いっきり拳を叩きつけた。相手は吹っ飛ばされたように尻餅をつく。
「いった…」
口の中を切ったのか、唇の端に血を滲ませている。その原因である青峰は手を貸すこともなく、冷やかに、先の試合で自分の元相棒を傷付けた男―――花宮を見下ろした。
「さっきはよくもテツを…」
「足が滑ったんだって。ファールになったろ?」
ニヤニヤと薄ら笑いを浮かべながら立ち上がる。
「案外君ら、執着心強いな」
「手前には関係ねぇ」
彼とは一度対戦したことがある。緑間ではないが、ヘドが出るような試合だった。あの頃から何も変わっていない。寧ろ酷くなっている。青峰が睨み付けると、花宮は肩を竦めた。
「そう睨むなよ。俺とお前は似てるとこあると思うけどな」
バスケに不誠実なところ。片や勝利を求め、片や好敵手を求め。
「…っは。かもな」
だが、嬉しくはない。同族嫌悪なんて括りにしたくない程、いけ好かない。
「手も上げてくれちゃって…。出場停止になるかもよ?」
唇の端の血を人差し指で拭って、人の悪そうな笑みを浮かべる。脅しているのだろうか。だとしたら、とんだお笑い草だ。
「構わねぇよ。俺がいなくても、勝つからな」
捨て台詞みたいに言って、青峰は踵を返した。背後から、意外だな、と確かに驚いたような声が聞こえる。
「信頼してるんだ、チームのこと」
やっぱり似てないわ、俺とお前。
思わず足を止めてしまう。遠ざかる足音が、静かな廊下に反響した。
(信頼してる?俺が、アイツらを?)
実力を認めているという意味ならイエスだ。それが、キセキ達と―――まだ、三連覇する前の彼らと繋いでいた『信頼』と、同じかと問われれば。実力を認めているから、互いに必要とする。今の青峰とチームメイトを繋ぐのは、そんな打算にまみれた『信頼』だ。
それに違和感を感じている―――いやその形に変化を感じているのは、あの時から。
(…俺も甘いな…)
頭をかいて、青峰は歩き出した。後半が始まったのか、幼馴染みが怒った調子で呼んでいる。その隣に並んでいるチームメイトに、自然と頬が弛んだ。
2011.01.09