きみといっしょなら
(日黒)
お出掛け日和、とは言い難い灰色の寒空の下。冷たい風を防ぐようにしてマフラーに顎を埋めた日向は、両手に湯気立つ紅茶を持って、足を急がせていた。クリスマスを先日に終えたものの、辺りのアトラクションにはクリスマス用の飾り付けがされている。係員もサンタの格好をし、園内は未だクリスマスの香りが強く残っていた。日向は先程の通り雨の所為で溜まった水を足で弾き、白い息を吐いて空を見上げた。灰色の雲間から、青が見え隠れする。少しは晴れていくのだろうか。
「黒子!」
人気の少ないところに、ポツンと置かれたベンチ。そこに座っていた黒子は、その声に、青白くなった顔を上げた。日向は手に持ったカップの一つを彼に渡し、隣に腰を下ろした。
「平気か?」
「はい…」
「ったく…絶叫系苦手なら言えよ」
「すみません…」
しゅん…と項垂れて、黒子は日向から受け取った紅茶を口に寄せた。
久々に取れた休日。この機会に、と日向は恋人の黒子をデートに誘ったのだ。しかし。パッとしない天候の所為か、ことごとくイベントは中止。何とか乗れたジェットコースターも、降車と同時に黒子が体調を崩してしまう。
「無理すんなよ」
黒子の頭を撫で、日向は膝に肘をついた。
さて、これからどうしようか。絶叫系が苦手ならば、乗ることのできるアトラクションは限られてくる。まだ昼飯にも早すぎる。いっそのこと、遊園地から別の場所に移動するか。
「…日向先輩、すみません…」
そんなことを考えていると、黒子が服の裾を引いて小さく呟いた。
「…久しぶりのデート、なのに」
「あー…気にすんな」
あやすように頭を撫でれば、すまなさそうに黒子が上目使いで見上げてくる。
「…僕、先輩と楽しみたくて…」
苦手な絶叫系も頑張って乗った。結果は散々だったけど。
「…黒子」
日向は衝動的に黒子を抱き締めた。
「せ、先輩…?」
顔を真っ赤にする黒子を気にせず、日向は彼の手からカップを取り上げると、流れる動作のままに口付けた。
「んぅ…」
甘い声が口の端から、唾液と共に流れ落ちる。舌を絡ませ、銀糸を引いた。ぷはっ、と音を立てて黒子は大きく息を吸う。
「ひゅ…が…先…輩…」
まだキスの余韻で焦点の合わない瞳で日向を見上げる。口の端の唾液を舐めとっていた日向の理性は、容易く切れた。
カップを花壇に置いて、更に深く口付ける。誰かに見られるかもしれない、なんて危惧は何処かに捨ててしまった。黒子の小さな抵抗をする手を掴んで、指を絡める。いつしか、黒子の方からも、指を強く絡めてきた。たっぷり口内を味わって、舌を抜く。くたり、と力の抜けた黒子の体が、日向に凭れかかってきた。
「…俺は黒子と一緒にいれれば、それで楽しいからさ。―――――無理するなよ」
「…はい」
頭を撫でて言えば、照れたように微笑む。また切れそうになる理性を必死で押さえ、日向は誤魔化す為に立ち上がった。
「行こうか」
手を差し伸べる。驚いたように目を見開いた黒子は、
「―――はい」
表情を弛めて、その手を取った。雲間から溢れる太陽が、二人を照らしている。
2010.12.26