これがXXなのか
眩しかった。目が眩んだ。それは陽射しが強かったからか、少女たちが身に着けた装飾品が乱反射していたからか。どちらかだと、そう、思いたい。
真っ青な背景に白い花を散らかして、同じ色の水が覆う地面に素足をつける。いつもは瞳を隠している硝子も、髪を結んでいる飾りもとって、彼女は佇んでいる。視線は他の少女たちと同じようにカメラへ向けられることなく、どこか遠く、物理的ではない遠くを見つめているようだった。
彼女が纏うのは、青に映えるような真白いノースリーブのワンピース。露出が一切ない操縦服と比べれば、とても無防備で頼りない服だ。花や髪、裾と共に風に舞う赤いリボンは力なく垂れた手に握られており、視線が思わず、宙に浮いた端を追っていた。
ほどなくして撮影は終り、少女たちは身体に張りつめていた緊張をほどいた。彼女もホッと息を吐き、伸びたリボンを手元へ手繰り寄せる。思わず、ミツルの足は一歩踏み出していた。
「イ、」
「お疲れさま」
す、とその隣を当たり前のように通り過ぎ、ミツルよりも早く彼女の元へ向かって行った影が一つ。ミツルよりも大きな身体を持つ彼は、頬に貼りつく髪をとる彼女へ、ニッコリと微笑かけた。
「綺麗だったよ」
「……ありがとう。ちょっと恥ずかしかったけどね」
真正面からの賛辞を、彼女は少し照れたように頬を染めながらも微笑んで受けとる。
勝利を得たときでさえ滅多に微笑むことなどなかったくせに、随分無防備な表情を見せるものだ。
ちり、と胸の奥、丁度腹との境目あたりが、熱いものでも落としたように焼けた。
「ミツルくん?」
どうかしたの? と隣から白く柔らかい髪が視界へ入ってくる。そこでやっと、何故か自分の手が宙に浮いていることに気が付いた。まるで、彼女へ声をかけるために持ち上げたかのよう。
あ、と彼女が小さく声を上げる。思わず顔を戻すと、彼女が手元に手繰り寄せていたリボンが風に乗ってまた伸び始めていた。リボンはこちらへ向かってきている。硝子を隔てない瞳と目が合った――気がした。
思わず、腕を更に持ち上げる。
ぱし。
「はい」
「ありがとう。助かった」
彼は少し踵を持ち上げてリボンを掴むと、クルクル腕を回して巻き取り、彼女の手へしっかり握らせた。彼女は両手で包むようにリボンを握り、その手を胸へ持って行く。
「借り物だもんね」
「……くれるらしいけど」
「あ、じゃあ、今度からそれで髪を結ぶの?」
「ゾロメやココロくらいならともかく、私じゃあ髪の長さが中途半端で難しいかも」
こちらの存在など気にしていないという風に、二人は並んで歩き出す。一言もないまま、視線もくれぬまま、横を通り過ぎて行く。
「そんなことないと思うけど……見てみたいなあ」
「……考えておく」
「ミツルくん」
背後で交わされるその会話に気を取られていた。突然視界に入ってきた少女の顔に、ハッと息を飲んだ。小首を傾げてこちらを見やる少女から顔を背け、慌てて下ろした手を握りこむ。
「……何でもないです」
嗚呼、思いだした。白い光に溶けていくような彼女はもう、自分のパートナーではないのだと。
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