20180426
・心尾ワンライ「手」
・ナチュラルに同棲中。多分未来の話。

ぱち。目を開くと、辺りはまだ薄ぼんやりとしていて、夜明けはまだだと報せている。頭は起きてもまだ身体は眠っているようで、指先も動かない。薄く開いた視界に映った金色の頭もまだ眠っているようだ。心操は目を閉じた。
それからどれくらいたっただろうか。すり、と生温かいものが手の平に触れた。その感触で、心操は目を開く。
刺激のためか、意識は先ほどよりも明瞭としていた。しかし身体はそれについていかず、薄く目を開くのがやっとだ。その視界でもぞもぞと動く金色の塊。隣で寝ていた尾白の頭か尾か、判別に多少時間がかかった。やがて上下に動く様子から、どうやら尾であるらしいと推測する。
尾白がベッドに手をついて、欠伸をした。尾はペタンと横たわるようにベッドに落ちる。ふと、尾白は心操を見やって――尾があるためいつもしているように――うつ伏せにゴロリと寝転んだ。
ペタリ、と尾白の手が心操の頬に触れる。寝起きで生温く、マメが何度も潰れたため皮膚の固い手の平が、手入れしていない口周りの感触を楽しむように動く。少し擽ったいが、それよりも眠気が上回って反応するのも億劫だった。心地良い感覚に、意識が、まどろみ始める。
好きにさせるかと心中独り言ちて、心操は目を閉じる。少しして、尾白の手が頬から離れた。心地よかったため、残念さが胸中に浮かんだ。
すり。シーツに投げ出していた心操の手が取られ、暖かいものに押し付けられる。それがスリスリと手の平に擦りつけられたので、心操の意識はハッと覚醒した。
目を開くと、少し身体を丸めるような形で横臥位になった尾白が、自身の頬へ心操の手を乗せ、猫のように擦りつけていた。他人より細めの目はより一層細くなり、口元も心無しか弛んでいるように見得る。
じわり、と心操の頬が熱くなり、手の平に汗が滲んだ。
それで気づいたわけでもあるまいが、尾白は目を開いて心操を見上げる。少し恥ずかしそうに微笑んで「起しちゃった?」と訊ねる彼を、心操は思わず抱きしめた。
「しんそ、」
「……俺のことも撫でてくれない?」
ただ心操の腰に乗せるように垂れた尾白の手をとり、自分の頬へ導く。キョトンとした顔の尾白の頬へもう片方の手をやり、心操は少し視線を逸らした。
「アンタの手、好きだから」
蚊の鳴くような小さな声である、今更何を恥ずかしがっているのだろう。寝起きでも冷静な自分が、そう頭の中で呆れている。きょとんとしていた尾白はクスクス笑って、添えら荒れた心操の手に頬を擦りつけた。
「俺も好きだな、心操の手」
ゆるりと尾が揺れる。それが喉を撫でたときの猫のようで、やはり彼は猿ではないと心操は心の中で呟いた。
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