20180421
・心尾ワンライ「夢」
・最新18巻、仮免講習のちょっとしたネタバレ有
・幼少期捏造

「は、何それ、保育園研修かよ」
心底怪訝そうに顔を顰める心操に、尾白は思わず吹き出した。同じ感想を尾白も抱いていたし、同じようなことを爆豪も叫んだと聞いていたからだ。
「俺も同じこと思った」
ケラケラ笑いながら、尾白は少し足を浮かせてクッションを抱きこむ。心操は少しムッとしたように眉間へ皺を寄せ、尾白の隣に腰を下ろす。ソファの前に設置したローテーブルへ湯気二つのカップを置き、背凭れへ身体を預けた。
「……何、仮免の試験てそんなんなの? 大丈夫かよ、ヒーロー」
「まあ、補習で、しかも一部に対する特別措置だったみたいだけど」
「で、その対象者にうちのヒーロー科が二人もいたんだろ? そんな奴らに……」
心操は吐息を漏らすと、カップを手に取り口をつけた。尾白は曖昧に笑って、心操と同じようにカップを持ち上げる。
「最後はしっかり子どもたちの心を掴んで課題クリアしたらしいんだ。爆豪たちも、結構面倒見良いんだよ」
「……俺が小学生だったら、あんな凶悪面と不愛想なヒーロー、近づきもしないがな」
幻滅してしまう、と心操はぼやいてカップを置いた。尾白は両手でカップを包み、尾を足の間に挟むように浅く座る。
「まあ、普通の小学生ならなぁ。オールマイトみたいな笑顔の似合うヒーローに夢見てるだろうし」
「……へえ、アンタ、オールマイトに憧れてたんだ?」
てっきりガンヘッドのようなゴリゴリのファイター系を目指しているのかと思った。
尾白は少し照れたように笑って頬を掻いた。
「そりゃ、今でこそ格闘系のヒーロー志望だけど、初めてヒーローを恰好良いと思って憧れたのはオールマイトだよ」
心操だってそうだろう? と尾白は小首を傾げて訊ねる。心操は口を引き結んで、カップを煽った。「あ、でも」と、尾白は何かを思い出したように声を漏らした。
「その前に別の何かに憧れてた気がするなぁ」
何だったろうと呟いて、尾白は顎を撫でる。心操は空になったカップをローテーブルに置いて、代わりにリモコンを取り上げた。
「忘れるくらいなんだから、大したことじゃないんだろ」
「まあ、今に比べたらかもだけど……」
まだどこか腑に落ちない様子だったが、尾白は「まあいっか」と呟いてカップに残っていたカフェオレを飲み干した。「そうだろ」と同意を返して、心操はテレビの電源を押した。

もふもふと白い毛で覆われた尾を揺らし、その白い少年は砂の上に線を引いていく。それを、自分は隣でじっと見ている。二人して膝を折って座りこみ、地面に描かれた絵の完成を待っているのだ。
「できた」と、少年は嬉しそうに声を上げ、こちらを見やった。齢にして五歳ほどだろうか、まだ頬はふくふくと赤く、全体的に丸みを帯びた輪郭をしている。そんな彼を正面から見つめる自分もまた、五歳ほどの姿をしていた。
「これがおれたちのアジト!」
三角屋根に長方形の家。家からはみ出すようにして大の字になっているのは、尾を持っているから少年か。隣には目つきの悪い人間がもう一人。
「おっきくなったら、二人でヒーローになろう!」
先日テレビで見た、オールマイトとナイトアイのように。互いを信頼し、協力し合う相棒に。
「なろうね!」
少年はニッコリと笑って、小指を差し出した。背中では、ユラユラと綿毛のような尾が揺れている。自分は小さく頷いて、小指を絡めた。
「なろう」
そう呟くと、少年はとても嬉しそうに笑った。

「……」
時たま、自分は本当に単純な人間だと思う。
ムクリと身体を起し、頭を掻く。目ざめは特に悪いわけではない。ただちょっとした自己嫌悪に似たものが、心を占めるだけで。
「どうかした?」と、心操につられて目を覚ました尾白が、肘をついて身体を少し起した。欠伸をする彼の後頭部を見やると、自然、腰から伸びる尾も目に留まった。
全体を毛で覆われているわけではなく、先以外は肌のように滑らかだ。
「……」
「ひ!」
心操が尾を何気なく掴むと、尾白は肩を飛び上がらせた。慌てて飛び起き、尾白は心操の方を肩越しに見やる。
「何するんだよ、急に」
「いやちょっと……ほんと、先以外は肌みたいなんだなって」
「今更……」
何を言いだすんだと呆れる尾白を気にせず、心操は尾を抱きこんだ。フワフワとした毛先と滑らかな部分が肌に触れ、心地良い。僅かに目元を和らげる心操を見て、尾白は眠気を吹き飛ばされた文句を言う気力もなくなった。
「昔は全部毛で覆われてたんだけどね」
ぼそりとした尾白の呟きに、心操はハッと硬直する。突然様子が変わった彼を見て、尾白はどうかしたのかと目を瞬かせる。
「……それ、本当?」
若干暗い顔で、心操は尾白に詰め寄る。切羽詰まったというか、焦った様子の心操に、尾白の悪戯心がムクリと頭を擡げた。
「……どうだろう」
「は?」
どういうことだよ、という心操の声を背に、尾白はさっさとベッドから降りた。サッと床に落としていた上着を取って着替えるために部屋を出ると、慌てたのだろうか心操がベッドから転げ落ちたらしい派手な物音が聴こえてくる。尾白は思わず笑い声を上げた。
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