20180414
・心尾ワンライ「放課後」

本日の授業が全て終了し、緊張から解放された安堵の吐息が教室のあちこちで上がる。明日の休日をどう過ごそうかとぼんやり考えていた上鳴は、慌ただしく荷物をまとめて立ちあがる背中に目を止めた。
「尾白、どうした?」
なんだなんだと独特の頭を揺らしながら峰田も首を伸ばす。尾白は鞄を肩にかけ、少し困ったように笑った。
「ちょっと、ね」
ゆら、と尾が揺れる。白い髪の間から覗く耳がほんのり赤く、上鳴と峰田の顔が強張った。二人の真顔に気づかない尾白は、時計を一瞥すると慌てたように教室を飛び出した。
「……どう思う」
「……女だろ」
二人は顔を見合わせて頷くと、ガッと鞄を持って立ちあがった。と同時に教室の扉が開く。顔を出したのは、ロードローラーだ。
「丁度良かった。残っている生徒は手伝ってくれ」
ロードローラーはグイと親指で背後をさす。扉の隙間から見得た大量の段ボール。教室にはいつの間にか上鳴と峰田しかいない。二人はスプリントを切ろうとするが、もう一方の扉では笑顔の発目が控えており、鞄を取り落としたのだった。

ゆらゆらと尻尾が揺れる。少し離れた場所からも分かる大きさと毛艶。心なしか口元には笑みが浮かんでいるように見得る。相手はこちらに気づくと、パアと顔を輝かせて手を振った。
むず痒い口元を撫でながら、心操は平静を装って待ち合わせ場所に立つ尾白の下へ向かう。ニコニコとこちらを見やる尾白に、心操は口を引き結んだ。そのせいで顔が強張ってしまった気がする。慌てて顔を背け、誤魔化すように首元を掻く。
「浮かれ過ぎじゃねえの」
「べ、別に良いだろ。楽しみにしちゃ悪いかよ」
「……別に、悪いとは、言ってない」
心操自身も楽しみだったのだ。小さく呟くと、尾白も微笑んだ。
「こんな日も良いよな」
並んで歩きながら、尾白は身体を解すように伸ばす。同意を返しながら、心操はポケットへ手を入れた。
いつも放課後は教室棟から離れたトレーニングルームで身体を鍛えているから、二人でこうして娯楽目的で外出するのは珍しい。誘ったのは心操だった。
「どこへ行く?」
する、と心操の手に柔らかい尾が触れる。心操はビクリと肩を飛び上がらせ、手を挙げた。予想外の反応に尾白も驚いて伸ばした尾を猫のように立てる。こういった仕草をするため、心操は本当にたまに、彼は猿じゃなくて猫なのではないかと思う。
「な、なに……」
「いや……ちょっと」
ちょいちょいと尾白は腕を下ろすよう手を動かす。言われるまま心操は手を下ろすと、彼の手にスルリと尾が巻きつくように触れた。太い尾がそれより細い手首に触れたから、しっかり巻き付いたわけではない。それでも尾の先が少し擽るように手の平を撫でたので、心操は思わず身体を硬直させた。
とん、と尾白は肩を心操のそれにぶつける。少し視線を動かすと、俯いた項が少し赤くなっていた。
「……なに、急に」
じんわり汗の滲む手の平を握りこみ、指先で擦り寄る尾の毛を撫でる。尾白は両手でショルダーバックの紐を掴み、俯いたまま。
「……デートなら、良いじゃん」
心操の指に応えるように、尾がまた動く。心操は思わず奇声を発しそうになり、下唇を噛んで吐き出しそうなそれを飲み下した。
「……じゃあ、遠慮なく」
「おう」
人前で男二人が手を繋ぐわけにいかない。そうでなくても気恥ずかしくてできっこない。代わりに心操は柔らかい尾を指で撫でながら、尾白と足を並べた。どのタイミングで鞄を掴む手をひったくり握りしめてやろうか、それを考えながら。
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