20180106-3
・お題「おやすみ」
・同棲心尾

くぁ、と気の抜けた音が喉から零れた。うまく噛み殺せなかったそれは、しっかり轟に聞かれていて、「俺も帰るから一緒に抜けるか」と気を使わせてしまった。
「悪い」
「気にするな。俺も眠かった」
学生時代から誰よりも早く床についていた轟だ。逆に、この時間までもつようになって成長したというところか。轟と一緒に荷物を持って抜けることを伝えると、峰田や上鳴といったお祭り大好き組からは残念がる声が上がった。笑いながらなんとかいなし店の外へ出ると、電話を切った青山と鉢合わせた。いつから外にいたのか、自慢の高い鼻は赤くなっている。
「もう帰るのかい?」
「ああ。青山はもう少しいるのか?」
「もう少ししたら僕も帰るよ」
ズズっと鼻を啜るが、ウインクの煌めきは影っていない。さすが、止まらない煌めきを自称するだけはある。
「待つ人がいるなら、早く帰るべきだよね」
それは尾白たちに向けられたものだったのか、自身に対してなのかわからない。青山は鼻歌を口ずさみながら店内へと戻っていった。尾白は轟と顔を見合わせる。
「熱愛報道なんてあった?」
「さあな。でも、アイツならありそうだ」
駅まで轟とは同じ道だった。しかし方向は逆で、尾白は向いのホームに立つ轟に手を振ってから電車へ乗りこんだ。

「ただいまー」
小声で言い、音を立てぬよう靴を脱いで室内を進む。部屋は既に明かりを落としていたから、同居人はもうベッドに入っている筈だ。試しに寝室を覗いてみると、やはりベッドの片側が膨らんでいた。小さな寝息も聴こえてきて、尾白は思わずクスリと笑った。尾白も眠い。シャワーで身体を温めて、寝間着に着替える。この温もりが消えないうちに、と尾白はベッドの膨らみの隣へ滑り込んだ。
「ん……」
枕の位置を直していると、隣から小さな声が上がった。上体を腕で支えて見やると、いつもより随分細くなった目が、ぼんやりとこちらを見つめていた。
「起しちゃった?」
「んー」
いつも眠そうな顔をしているが、本当に眠いときは言葉すらなく動きで要求するということは、一緒に暮らし始めて分かった。ぽすぽす、と何気なく尾で頬を撫でると、ガシリと
捕まれた。そのまま抱きこむように腕を回されてしまい、尾白は身動きがとれなくなる。心操はやっと安心したという風に尾へ頬を埋め、穏やかな寝息を立てていた。
「おやすみ、心操」
思わず笑みが零れ、尾白は胸に移動したポカポカとした温もりを感じながら布団をかぶった。明日も良い日になりますようにと、小さく願って。
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