20180106-2
・お題「初秋の香り」

秋と言えば。そんな問答が出たのは、食事の席だった。誰が言いだしたのかわからなかったが、結構盛り上がったものだ。
「やはり秋刀魚だろう」
文字に秋と入っているしな、と飯田は眼鏡へ触れながら言った。確かに、と尾白は頷きながらご飯を頬張る。うんうんと頷きながら、瀬呂は腕を組んだ。
「秋は美味いものが多いよなぁ。つい食欲の秋になっちまう」
「身体が資本のヒーローとしては、節制も必要だ」
「旬のものの匂いは、秋が来たって感じするな」
「ふ〜ん。具体的には?」
尾白の問いに瀬呂はお茶で口を潤し、「そうだなぁ」と首を捻る。
「栗ご飯の匂いとか。炊き立てのご飯に混じったやつ」
「俺は先ほども言ったように、秋刀魚の焼けた匂いだな」
「分かる! 尾白も何かあるだろ」
「ん〜……」
匂い、匂い、と頭の中で繰り返しながら、尾白は頬張った米を飲みこんだ。秋刀魚も栗ご飯も、確かに秋を感じさせ食欲そそるものだ。
そのとき、フワリと何かの香りが鼻を擽った。それを追うように顔を動かし、窓の方を見やった。黄色い風景が目に飛び込み、それと一緒に鼻へ抜けた香りが脳を刺激した。

「尾白」
名前を呼ばれて振り返ったのは、はらはらと黄色い葉が舞い散る道でのこと。花弁のように頭に乗ったそれを手で払い落とし、彼はそっと視線を落とした。
「――」
そのときの声も言葉も、風と一緒に鼻孔を撫でた匂いと一緒に、記憶に刻まれている。

ぼ、と尾白の顔が紅葉のように赤くなった。
「どうかしたのか?」
「尾白?」
飯田と瀬呂が不思議そうに顔を覗きこんできたので、尾白は慌てて腕を組み二人の視界から顔を隠した。二人は顔を見合わせるが、尾白は弁明もできずズルズルと机に額をつけた。
(何で思いだすかな〜……!)
匂いで秋を思いだすのなら、今思いだした記憶も匂いが起因だ。そしてそれは秋になるたび、思いだしてしまうのだろう。そんな予感がした。
(……今晩にでも文句言ってやる)
密かにそう心に決め、尾白は息を整えると顔を起した。
「銀杏、俺結構好きだなぁ」
ホクホクと幸せそうな顔で、瀬呂は匙で掬った茶碗蒸しを口へ運ぶ。「尾白くんも食べるかい?」と飯田が自分の茶碗蒸しを持ち上げて見せた。尾白は苦く笑った。
「あとでもらうよ」
今は記憶のそれでお腹がいっぱいだった。
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