20180101
・お題「嘘」

いくつもの、嘘をついて生きてきた。
生きていれば、嘘くらいつく。利己的なものから偽善的なものまで、タイプは様々だろう。一度も嘘をついたことがない人間は聖者じゃない、世渡りがへたくそな愚者だ。だから俺も、嘘をついて生きてきた。
「ヒーローやりたいの?」
幼子のごっこ遊び。既に一人の手には、ヒーローのお面と紙で作った剣が握られている。視線の意図を察し、幼い俺は挙げかけた手をそっと握りこんで、脇へと垂らした。
「ううん。俺は、ヴィラン役で良いよ」
覚えている限り、それが初めての嘘だった。
そして今、自分でも最低最悪な嘘をついた。
俺の嘘を真っ直ぐ受け止めた尾白は、一見いつもと様子が変わらないようだった。真顔で「そう」とだけ言って、机に広げていた勉強道具をまとめると、立ちあがった。
「悪かったな」
それだけ言って、尾白は部屋を出て行った。

で、何だこの状況。無理矢理引きずりこまれたA組寮。誘拐犯は俺を床へ座らせ、仁王立ちで見下ろした。
「あーはっははは。情けないなぁ!」
「ニッシッシッシ」
主犯は十中八九、葉隠だ。彼女の両隣には共犯の麗日と芦戸が、威嚇するように丸めた手を持ち上げている。どうでも良いが、何故文化祭で使用していたファンタジー衣装を着ているのだ。
「何の茶番だ」
「使命を与えてしんぜよう」
「聞けよ」
「君の捜し人は岩戸に閉じこもってしまったのじゃ」
「世界観の統一と台本作りからやり直してこい」
俺の小言は一切無視。ゴホンと麗日はわざとらしく咳払いし、腰へ手を当てた。
「捜し人を取り戻したければ、我らを倒していけ!」
「いけー!」
「麗日、葉隠、俺はいつまでこうしていればいいんだ」
勝手に盛り上がる女子三人へ水を差すように、ヌッと大男が姿を現した。
「障子ー、ちょっと早かった!」
「すまん」
顔の半分をマスクで覆った、高校生には大きな体躯の男。何故か背中がカタツムリかラクダのように膨らんでいる。その背中がもぞもぞと動いて、白い見慣れた尾が顔を出した。
「ぷは。もう出ていい? 葉隠さん……」
顔を出したアイツは俺を視界に捉えるなり、語尾を小さくしていく。障子が「尾白?」と声をかけると、素早い動きで障子の触手のドームの中へと潜りこんでしまった。
「え」
表情をあまり読み取らせない大男も、さすがに驚いて言葉を失う。そこまでして、俺と顔を合わせるのは嫌か。思わず、自嘲的な笑みが口元へ浮かんだ。それを見ていた障子が、クルリと振り返って背中を俺へ向けた。それからパカリと羽根のような触手を開いて、中に隠れていた男を俺の上へ落としたのだ。
「わ!」
俺は重さに耐えきれず、背中を床へぶつける。障子は床に転がる俺たちを見下ろした。
「嘘でもそんなことは言うもんじゃない、尾白。言葉は時に取り返しがつかない……お前もよく知っているだろう」
「……」
俺の上へ落ちてきた尾白は身体を起して、無言のまま障子を見つめ返した。障子は触手を伸ばして葉隠たちを掴むと、「後は二人で話し合うんだな」と言い置いて、僅かに抵抗する女子たちを連れて行ってしまった。残された俺はどうしたものかと思案しながら、後ろ手をついて身体を起す。
「……取敢えず、部屋に来いよ」
尾白がやっとそれだけ言ったので、俺も頷いた。

「えー、なんでー。これから良いところだったのに」
「葉隠、お前、いつか馬に蹴られるぞ」
「で実際のところ、どうなん? 尾白くん、何か言っていたの?」
「小さな嘘を」
「嘘?」
「つまりはあれだ。――大切なら嘘などつかず、ちゃんと向き合え。」
「痴話げんか?」
「隣にいなくても、なんて嘘でも言わない方がいい」
何だぁ、と芦戸は詰まらなそうにぼやいて、溜息を吐いた。
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