20171229-2
・お題「喧嘩」
・ABC合同演習妄想
・物間くんのキャラと口調難しい

物間寧人はその日、朝からテンションが高かった。高笑いの頻度も多く、何度拳藤に物理で黙らされたことか。そんな彼が待ちに待っていたのは、午後の授業全てを使って行う、ABC合同演習であった。三組それぞれ一人ずつ一チームを作り、C組は被救助者の一般人、A組B組が救助者のヒーロー役として、救助訓練を行うのだ。A組B組はヒーロー科でない被救助者を相手にすることでよりリアルな訓練をするため、C組はヒーロー科の訓練を間近で見ることで得るものを得るため。物間はこの訓練で、A組を圧倒させるのだと意気込んでいた。他のB組メンバーの言葉を借りれば、またやっている、と言ったところだ。
しかしそんな彼の意気込みは、訓練開始ものの一分で鎮火した。
「……」
というのも、組になった他メンバーの纏う空気が、思いのほか重かったからである。B組からは物間。A組はあまり関わったことのない尾白猿夫。C組は元から関わりが少ないが、体育祭の一件で顔と名前は知っていた心操人使。何故かこの尾白と心操の間に流れる空気が固く、さしもの物間も閉口するほどの気まずさを生みだしていたのだ。
グループが発表されたとき、上鳴や切島から「どんまい」と生温かい目を向けられたのはこのためか。
尾白は補習に引っかかることもなく、度々の物間の挑発には小さな笑みを浮かべるだけで、言い返したり感情を高ぶらせたりすることもない、それなりに成績は優秀で落ち着いた雰囲気の生徒なのではないのか。正直あまり記憶に残っていないので、そんな生徒ではないのかという憶測にすぎないが。対して心操は体育祭の一件から物間がA組と同じように注意している生徒だ。彼の冷静な性格と教室が離れていることもあって、声をかけた回数は少ない。
そんな物間と関わりの薄い二人が、お互い目も合わせないようにぎこちない言葉を交わしている。物間の知る二人の関係性と言えば、やはり体育祭の一件だ。あの頃から確執を抱えたままなのだろうか。A組ともあろう男が、そんな小さい器とは――物間はフッと笑いを溢した。
「よろしく! A組だからさぞかし素晴らしい救助姿を見せてくれるんだろうなぁ!」
「あ、よろしく」
大仰に身振り手振りで詰め寄る物間に、尾白は少々圧倒されたように頬を掻いた。
「今回は協力するのが課題なんだから、仲良くしてほしいな……なんて」
ぎゅ、と何を思ったか挑発するためだけに掲げていた物間の手を、尾白はまるで握手するように握る。顔の前へ出されたからそう誤解するのも致し方なしかもしれないが、予想外のことに、物間は一時真顔になった。
「えっと……」
「ヒーロー科同士、仲良こよしするのは構わないけど、そろそろスタンバイしようぜ」
物間の真顔に戸惑う尾白へ、突き放すような心操の言葉がぶつかった。尾白はムッと顔を顰め「分かっているよ」とやや乱暴に返した。この二人の確執は深いらしい。言い争いとまではいかないが、チクチクと棘を刺すような会話を繰り返す二人の背中を見つめ、物間は顎を撫でた。

USJはB組も何度か使用したことがある。C組は初めてだろう。心操は無表情だが少々物珍し気に視線を動かしている。今回の心操は、足を骨折してしまった一般人の役。座りこむ彼の傍へ駆け寄り、物間は廃墟に転がる布や棒で作った担架を置いた。尾白とタイミングを合わせ、心操を乗せる。ぎゅ、と少々乱暴に尾白が負傷した――設定の――足へ添え木を縛り付けたので、心操は裏返った声を上げた。ギロリと睨む心操から顔を逸らし、尾白は物間へ「運び出そうか」と声をかける。実際は肝の小さい物間は、二人の間に流れる空気に気圧され、頷くしかない。
ドシャ。近くで何か大きなものが落ちる音がした。今回、交代制で幾つかのグループはヴィラン役をやっている。近くに現れたのだろうか。
「俺、少し見てくる」
尾白が名乗り出て、軽やかにジャンプすると、表へ出て行った。
残された物間はチラリと心操を見やる。心操は吐息を漏らして担架にゴロリと寝転んだ。顔へ腕を乗せる彼を見下ろし、物間はちょっと頬を掻いた。
「……しかし先生も皮肉なグループ分けにしたもんだね。よりにもよって君と彼を組ませるなんて」
試しにそう言葉をかけてみるが、反応はなし。詰まらないなと物間がぼやいていると、尾白が駆け足で戻ってきた。
「ヴィランチームが来た。早く離脱しよう」
物間は頷き、心操の担架へ手をかける。しかし尾白は出入り口を睨んだまま、動こうとしない。
「俺が引き止めるから、物間は心操を頼めるか」
「はあ? すごい自信だねぇ、さすがA組。一人で引き受けるって?」
「……」
物間に言葉を返さず、尾白は足を肩幅に開いて構える。イラッと物間の腹が熱くなった。
「ふざけるな」
固い声が室内に響いた。物間は驚いて、担架から身体を起して尾白を睨み上げる心操を見つめる。尾白もやっと振り返って、心操を見下ろした。
「これは救助訓練だろ。一人の自己満で突っ走るな」
「……なんで心操にそんなこと言われなきゃならないんだ」
「言うだろ、俺だって今回の参加者なんだから」
「〜っ心操はいつもそうやって、えらそうに!」
「アンタが分からずやだからだろう!」
なんだこれは。物間の胸に激しい違和感が浮かぶ。利用したされた側の確執とか、A組とC組の格差によるあれそれとか、性格の不一致とか、そういったものが根底にある言い争いではない。もっと単純なもののように、物間には感じられた。
(まさか……そういうこと?)
馬鹿らしい。物間は溜息を吐いた。それから広げた両手を持ち上げ、パンと打ち付ける。言い争いを続けていた二人は、その音で驚いて言葉を止めた。二人の視線を受け、「そこまで」と物間はくっつけた手の平を離す。
「A組が無様な姿を見せるのは構わないけど、今回はこちらの成績にも関わって来るからね。子どもじみた喧嘩はあとにしてもらえるかい?」
尾白と心操は同時に口を噤み、チラリとお互いを一瞥した。
「……悪い」
「ごめん、物間」
ぽり、と首をかき、心操は視線を逸らす。尾白は固い表情で頭を下げた。「分かれば良いけど」と含みを持たせて呟き、物間は腰へ手をやる。どうせならさっさと仲直りしてほしいところだが、そこまで仲を取り持ってやるほどの義理は物間にない。
物間チームはその後、慣れない連携に四苦八苦しながらなんとか課題をクリアし、そこそこの成績で授業を終える。授業後、心操と尾白がお互い足元へ視線をやったまま、何やらボソボソと会話する姿を見かけたが、自分には関係ないことと物間はスルーした。後から――無理矢理上鳴たちに捕まり――聞いた話によると、二三日前から尾白と心操の喧嘩は始まっていたらしく、二人とも感情的になるタイプではないため表立ってはいなかったが、その雰囲気から漏れ出ており、A組メンバーは酷く緊張した数日を過ごしていたらしい。
図らずも彼らに感謝される結末を作ってしまったわけだ。物間は腑に落ちず「そんなことで心乱されるなんて、A組もともあろう方たちが!」と大声を出したため、拳藤から手刀を食らってしまったのだった。
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