20171229
・お題「真夜中の電話」
・同棲心尾
・口田と耳郎の組み合せも密かに推している

真夜中の電話は不幸の報せ。いつかどこかで読んだその文句が、唐突に頭へ浮かんだ。というのも、机に置いた携帯が軽やかな音を流し始めたからだ。時刻はそろそろ深夜0時になるかというところ。迷信に興味などない心操は、先の文句を全く気にしていなかった。だからためらいもなく電話を取り、画面へ浮かんだ名前に口元を緩めながら耳へ当てた。
「はい」
「心操? 覚えているかな、元Aの耳郎だけど」
しかし聴こえてきた声は予想していた低いものではなく、女性にしてはハスキーな声。名前を元に脳内のアルバムを捲り、そう言えばそんな名前のロッキンガールがいたな、と思い至る。
「ああ……なんでアンタが」
「ごめんね、ちょっと困ったことになってさ」
心操の固い声に、耳郎は苦笑したような声色。続いた耳郎の言葉に、心操は思わず立ちあがり、コートを手に取ると慌ただしく部屋を飛び出した。

「あ、こっちこっち」
呼び出されたのは、繁華街の傍らにある公園。まだ営業している店の明かりがあるから、深夜だというのにそれほど暗くない。耳郎はそこのベンチに座って、隣に座る男の身体を支えていた。耳郎の傍らには、岩のような輪郭を持つ男が、暖かそうな缶を持って立っていた。口田という名だったと、心操は記憶している。
尾白猿夫は風呂上がりのように真っ赤な顔で、耳郎の肩へ寄りかかっていた。
「……悪い」
「いいよ。同じ方向なの、私たちくらいだったからさ」
運んだのは口田だと耳郎が言うと、口田は照れたように頭を掻いた。
「さすがに家は分からなかったから、勝手に携帯拝借した。後で謝っておいて」
「いや、別に気にしないだろ」
耳郎から尾白の携帯を受け取り、ポケットへしまう。それから夢見心地で弛緩する尾白の身体を抱え、腕を首へ回した。心操より鍛えた身体は体格が良く、筋肉も多いため重い。運び方に格闘していると、口田がそっと手を貸してくれたため、心操は尾白を背負うことに成功した。
「……悪い」
口田はフルフルと首を振った。耳郎が立ちあがり、「安心したよ」と呟いた。
「え?」
「アンタと尾白、結構仲良くやっているみたいで」
少し心配していたのだと、耳郎は革ジャンのポケットへ手を入れる。やはり傍からはそう見得てしまうかと、心操は目を伏せた。
「尾白に吐かせるために結構飲ませちゃった。ごめんね」
「……変なこと言ったのか」
「幸せそうで何より!」
答えになっていないような答えだが心操には充分で、彼は口早に礼を言うとさっさと歩き始めた。同級生の背中を見送り、耳郎は息を吐く。
「何だかんだ、良いコンビだね」
口田は少し迷ってから、同意するように頷いた。
酒を飲んだからか、背負う身体が熱い。肩から垂れた腕が揺れるたび、心操に当たった。軽く丸まった指を一瞥し、小さく溜息。
「……わざわざ回りくどいことしなくても、迎えくらいいくよ」
ボソリと呟くと、揺れていた指がキュッと丸まった。肩に凭れかかる顔はよく見得ないが、チラリと視界に入る耳は赤い。
「……ツンデレ?」
「どこで覚えてくるんだよ、そういう言葉」
ハッキリとした言葉が返ってきて、少しきついくらいに首元で腕を組まれる。まるでこちらも酒を飲んだようにフワフワとくすぐったさを感じながら、心操は笑みを噛み殺した。真夜中の電話は不幸の報せ。やはり迷信だと、呟いて。
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