君≠僕
(火黒)
―――僕は、君とは違う―――
そう言った奴の顔は何時もと同じように、何の感情も持ち合わせていなかった。其れが他人と自分の間に一線引いているようで、何処か独り善がりに見えた。
君≠僕
「つまんなくねぇの?」
ふと、部活の休憩時間にオレは隣で水分補給をする黒子に尋ねてみた。いきなり投げ掛けられた質問に、黒子は怪訝そうに眉を潜める。
「どういう意味ですか?」
「だから、つまんなくねぇの?アシストばっかりやってて」
こいつのバスケスタイルははっきり言って、自己犠牲だ。自分は徹底的にアシストに回って、自ら攻めようとはしない。周りを活かす、と言えば聞こえはいいが、結局のところ他人に依存することになるから、相棒の実力次第では奴の実力に関わらず、弱くなってしまう。
「自分で点を取りたいとか、思わねぇの?」
資質が無いのは知っているが、其れにしたってこいつは何処か割りきっている。まあ、自分の実力知らないで、帝光中のレギュラーは取れねぇだろうけどさ。
黒子は水筒から口を離すと、垂れる水を手の甲で拭った。俺は床に座り込んでいたので、見下ろしてきた水色の瞳を睨むように見返す。
「…正直、火神くんの言っている意味が分かりません」
「はあ?!」
「人には、得意不得意がある。其れを理解しているから、僕はパス専門の六人目になったんです」
「けど、自分で点を取りたいって、思うだろ、普通」
「…まあ…けど、僕のアシストでチームが勝つなら、嬉しいです」
勝利への純粋な執着。勝つなら、自分の役割も関係ない。はっきり言って、老けてる。
「爺臭いな、お前」
考えも、理解は出来る。が、共感は出来ない。正反対で、よく相棒とか名乗れるな。そう思っていると、向けていた背に重みがかかった。
「…おい」
凄んで言っても、黒子はボールを手で弄びながら、全体重を俺の背に預けた侭。
「………火神くんの考え、理解は出来ます。けど、共感は出来ません」
だから、と黒子は続ける。
「それで良いんです」
「は?」
「火神くんと同じ思考回路だったら、気持ち悪いです」
「おい!」
「考えが違うから、だから相棒なんです。――――僕は君の影で、君は僕の光だ」
それだけのことです。黒子は小さく呟いた。
やっぱり、こいつとは気が合わねぇ。何処か達観した、この態度が気に食わない。けど言い返す言葉が見つからなくて。其れ以上に、背中に当たるこいつの体躯が、俺の一言で崩れそうな程脆い気がして、…少し、怖くなった。背中から伝わる、黒子の熱が心地好い。体がどうしようも無く火照って、この熱があいつに気付かれないようにと、心の中で願った。こいつと俺は違う。だからこそ喧嘩もするし、意見の相違もある。
俺はふと、最近化学で習った、ある記号を思い出した。それで、俺とこいつの関係性を表してみる。至極、簡単だった。
君(黒子)≠僕(俺)(複雑で単純な公式)
title:揺らぎ
fin