鈍色のアイデンティティクライシス
・tri一章視聴後妄想
(光子郎とヤマト)


「どうしてあの形にしたんだ?」
光子郎はリズム良くキーボードを叩いていた手を止め、何のことだと首を傾いだ。ヤマトはハーモニカを弄る指を止めぬまま、太一の、と呟く。光子郎は一二秒ほどおいてから、ああ、と頷いた。
「別に、特に意味は」
ヤマトから視線をパソコンの画面へ戻し、光子郎は指を浮かせて、しかし何も打たぬまま指を下ろした。
「……何でですかね?」
聞いているのはこちらの方だ。ヤマトは心中呟いて、ハーモニカを眼前へ掲げた。
ゴーグルを実際装着する人間は珍しい。周囲へ不審がられないよう歪みを捜すのなら、常時つけていても不自然ではない眼鏡かサングラスの形が良い筈だ。それをわざわざ、しかも昔を象徴させるようなデザインにまでして。
「あれだけの機能と性能を搭載するには、あの大きさが限界なんです。眼鏡やサングラスのように薄型にするには、僕の技術ではまだ不可能です」
ブツブツと、ともすれば自身への言い訳のように、光子郎は呟く。ヤマトはそれを耳に通しながら、ハーモニカへ息を吹きかけた。
「……でも、あれが一番、あの人によく似合うから」
ヤマトは思わず、光子郎を見やった。既に彼はまたリズム良くキーボードを叩いており、その斜め後ろでだらりと寛ぐヤマトに、その顔は見えない。
大方、初めから眼鏡やサングラスという選択肢は、光子郎の頭にはなかったのだろう。太一へ持たせる、視覚的探索機器。たったそれだけで、きっと光子郎はゴーグルを選んだ。しかし何も、あのときの物と同じデザインにしなくとも。
きっとこの男もまた、太一に変わってほしくなかったのだろう。人は変わる。変わらざるを得ないそんな中で、この男は嘗ての彼に固執している。それは己も同じだろうが。
あのときの自分たちにとって、彼はヒーローで、彼の額で煌めくゴーグルはヒーローの証だった。あの日、再びその証を首から下げた彼を見たとき、ヤマトの中に積もる苛立ちが増した。変わらないくせに、変わったなんて。
「……変わらなきゃいけないのか」
昔から愛用のハーモニカが、窓から射しこむ日光を鈍く反射して目を焦がした。


・太一へ渡すもの=ゴーグルだという思考回路が完成していた光子郎
・ヒーローがヒーローたる所以を己が作って渡したことが、戦隊物でいうサポート的役割になれた気がして小学生男子的な優越感に浸る光子郎
・変わっていく太一が嫌なヤマト
・あのときと同じゴーグルをつけてあのときと同じような姿の太一に苛立つヤマト
・取敢えず太一には昔のままでいてほしいと、意識的せよ無意識的にせよ思っているヤマトと光子郎

(20151217)
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