うさぎのおんがえし
(カノセト+ヒヨリ)


「はい」
柔らかい声と暖かい微笑と一緒に手の平へ転がり落ちてきたのは、可愛い可愛い花柄の包み紙。ぱちり、と瞬きを一つして顔を上げると、セトは緩んだ頬を更にへにゃりと綻ばせた。
「あげるっすよ」
「……これ」
「イチゴ味。あ、嫌いだった?」
グレープもレモンもある、とセトは片手に持っていた袋を探る。ヒヨリは咄嗟に手を振り、イチゴ味で良いと言った。
「何で、これ」
「ああ。バイト帰りにコンビニで買ったんす」
曰く、それは期間限定パッケージだったらしい。安っぽいビニール袋に描かれたデフォルメのシロウサギに心惹かれて、購入したのだとか。ヒヨリが手中のそれに目を落とすと、成程、赤い花の影に隠れるように、ウサギのシルエットが描かれていた。
「可愛いでしょ?」
じっと見つめていたからか、セトはニコニコしてそう訊ねてくる。先ほどより縮まった距離につい首を竦めて、ヒヨリは視線を逸らした。
「……ありがとう、ございます」
「いえいえ」
セトは袋から別の包みを取り出すと、中から取り出した飴をよく見もせずに口へと放り込んだ。
「あ、ピーチ」
「……」
ヒヨリも包みを開き、現れた透き通る赤色の、ルビーのようなそれを舌へのせた。
(甘い……)
コロリと転がすと、奥歯に当たってカツンと鳴る。何度かそれを繰り返していると、飴玉は少しずつ小さくなっていった。
バイトの帰り道で……まあ、嘘ではないのだろう。半分は。今日も彼は、あの人と一緒に帰って来たから。
何気なく視線をあげると、セトは既に、少し離れたところでカノと話しこんでいた。その雰囲気に、ヒヨリは「やはり」という言葉を飴と一緒に舌の上で転がす。
幸せのお裾分け、のつもりなのだろうか。セトはカノと出掛けるたびに、何かを購入してはキドやヒヨリといった近しい人たちへ配って回る。この前は、可愛らしい兎の根付だった。動物園にでも行ったのだろう。桃色のそれは今、ヒヨリの携帯に吊るされている。
そういえば、先ほどの飴のパッケージにも兎がいた。大方、マリーやヒヨリといった女の子へのプレゼント=可愛らしいもの=兎、という思考回路が働いたのだろう。
そんな気遣いもマリーには綺麗に誤解されていた。好きでしょ?と小首を傾げたマリーから、安物だが愛らしい兎のピンを贈られている姿を見たのは、三日ほど前だったか。少し困ったように笑っていたセトも、折角の好意を無下にできぬと思ったのか、その日はそのピンをつけて出かけていた。
ヒヨリも、兎は別に嫌いではない。
「……」
ころ、と大分小さくなった飴を歯に当てる。
(兎、か……)
そういえば、この前通り過ぎた雑貨屋の店頭に、兎のキーホルダーがあった。余り物の革で作られたらしい小さなそれはカラーバリエーション豊富で、確か緑と黒もあった筈だ。『お返し』には丁度良い。
ヒビヤかシンタローでもいれば、一文字違うのではないか、と苦い顔で言われたであろう。
ヒヨリは緩く口元で弧を描き、鼻歌を溢しながら、善は急げとばかりソファから立ち上がった。


20141231
20150128再録
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