3年ごしの冬に
(WC後捏造、巻藤くんの可能性)



「嘘つき」

彼の言葉が深く心に突き刺さる。いつもは優しく微笑んで、光のように導いてくれた筈のそれが、今は氷で出来たナイフのように冷たい。

(違う。違うんだ。僕は、ただ)

バスケをしていたかった、だけなのに。

***

「―――そうして、僕は彼のことを裏切ったんです」

きっぱりと言い切った黒子は、さも「もう吹っ切れました」と言わんばかり。そんな態度を、装っていた。黒子の長い昔話を聞き終えた俺たちは、会釈しながら夜の闇に消えていく彼を見送りながら、そっと顔を合わせた。

「黒子の言ってた『幼馴染』って」

先輩たちも帰り、マンションの入口に俺ら一年だけ。見送りに来ていた火神が、ゆっくりと口を開く。俺たちは頷いた。

「アイツのことだろ」

でも多分、あのことを黒子は知らない。中学のあの時から、会っていないと言っていたから。

「なあ、」

福田が提案する。それに、俺たちは一二もなく頷いた。

***

バスケ部WC優勝。そんな文字が印刷された校内新聞を指でなぞり、黒子はそっと息を吐いた。降旗たちが呼び出したのは、この先の1年C組の教室だ。微かに白くなる息を吐き、黒子はゆっくりと足を進めた。
部室でも良いだろうに、何故こんな場所を指定してきたのか。というか、呼び出された理由が思い当たらない。
そっと手を伸ばし、扉を開く。人気のない教室には、1人しかいなかった。窓際で、外を眺める背中。見覚えのある、けれど記憶のそれより大分成長したその姿に、思わず息を飲んだ。
扉の開く音で気付いたのか、背中がゆっくりと動く。振り返った彼は黒子を見つけると、くしゃりと笑った。

―――可笑しいと思ったことはある。今年度の1年新入部員は、黒子を入れて6人。けれど練習にはいつも5人しかいなかった。けれど6人目の存在は、確かにあって。背番号14の部員。本来、福田と河原の間に立つ筈の、部員は。

「…何となく諦めきれなくてさ。強豪よりかはと思って新設校に来たんだけど」

まさかお前がいるとは思わなかった、と彼は笑う。

「入部はしたが、なんか行辛くて。すっかり幽霊部員だった」

折角ユニフォームももらったのに、勿体なかったな。手に持っていた背番号14のユニフォームを、手近の机に置く。真新しいそれは、あまり使い込まれてはいなかったけど、手入れはよくされているようだった。

「そろそろ出てこいって怒られちゃったよ。カントクと降旗たちから」
「…巻藤くんっ」

僕は、と言いかけた黒子を、手を挙げて黙らせ、彼は、巻藤俊忠はニカリと笑った。

「優勝おめでとう、黒子」
「…ありがと、ございます」
「俺も部活でるよ。一緒にバスケやろう」
「…はい…っ」
「…これから、よろしくな」
「…巻藤くん、僕は」

ずっとずっと、君と一緒にバスケがしたかったんだ。

嗚咽交じりの言葉に、泣き虫なやつ、と巻藤は笑って、俯いた水色を撫で繰り回した。そんな彼の目尻にも小さな水滴が浮かんでいた。


20130627
20140228再掲載
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