陰日向に咲く
(黒子独白)
影が薄いのは生まれつきだ。慣れすぎてしまって、不自由だとは感じなかった。寧ろ有り難いとも思っている。この特性のお陰で、体格不利なこの僕がバスケを楽しめるのだから。
けれど、
――テツくん!
――テツ
慕ってくれる幼馴染み組や、
――居た居た
――俺の目からは逃げらんないよ
特別な目を持つ二人や、
――ぅお!居たのかよ!
本能的に寄ってくる光が、僕を闇から引きずり出す。
やめて。そっちには行きたいけど。ここからでたら、僕は。『存在価値』がなくなってしまう―――
「存在があやふやな癖して存在価値とは、とんだお笑い草だ」
そうでしょ?と光の中に立つ僕が言う。僕はまだ闇の中にいたまま、何故だか涙を溢していた。
「僕は、皆とバスケがしたい…っ」
「だったら出てくればいいのに」
ほら、と差し伸べられた手。けどそれを取ることは許されない。影が薄くなくては、僕は素人以下の価値だ。そんなの、コートにいる資格はない。
「辛いくせに」
辛いさ。誰にも気づかれず過ごしていくことの苦痛。悪意のある無視の方がどんなにまだいいか。無意識に存在を否定されるのが、どんなに辛いか。けれど、
「このお陰で、僕は仲間に出逢えたんだ」
キセキに誠凛に。たくさんの人々に。出逢えた。
「…それがどういう意味か解ってるんですか」
「…」
「たくさんの人に知られるってことは、存在が認められるってことだ!影が薄くなくなるってことだ!本末転倒もいいとこだ!」
「知ってます」
けれど、
「これが僕の、存在価値だ」
馬鹿だと、最後に罵られた。
***
目を覚ますと、心配そうなたくさんの顔が、僕を覗き込んでいた。ああそうだ。練習中に倒れたんだ。
「大丈夫か、魘されてたぞ」
僕の無事を見て練習に戻って行く流れの中、火神くんはそっと声をかけてくれた。大丈夫ですと返して、ふと思い付いた疑問を訊ねてみる。
「火神くんは、僕が目だっていたら、どう思います?」
「は?気持ち悪い」
…純粋に傷ついた。
「ま、あれだな。影が薄かろうが濃かろうが―――お前はお前だろ」
「…!」
自信持て、と。叩かれた背中が痛んだので、お返しにボールを投げつけた。
20131219再