おいでませ、灯屋荘!
(ネタ帖に放り込んだ停電少女現代パロ)



柩の朝はとても早い。下宿屋の三食は彼の持ち分だったからである。人数はいないが、一人よく食べる者がいるため、少し多めに作らなければいけない。まだ日が完全に顔を出さぬ刻に起床し、布団を片付けて着替える。自らの領地をはみ出して眠る同居人をひょいと跨いで、欠伸を一つ。さて、今日の味噌汁の具は何にしようか。

漆黒と紫苑の朝はそれなりに早い。二人して寝起きが良いのだ。揃って起きて、互いに顔を見合わせ、小さく笑う。長年続けてきたこの日課に、今更照れ臭いだなんて、言えない。ゆっくりと漂ってくる朝食の匂い。ああ、今日の味噌汁の具は何だろうか。

灰羽の朝は早い。鍛錬と銘打って素振りを日課にしているからだ。柩より少し遅めに起床して、竹刀片手に庭に出る。細く息を吐き、そして吸う。素振りは毎朝数百回。その日の体調や気分に合わせて調節している。玉のように汗が滑り、首に下げた手拭を使うことすら煩わしくなった頃、ふわりと良い香りが鼻孔を擽る。ふむ、今日の朝食も味噌汁か。

橘の朝は少し遅い。カーテンの隙間から射し入る日光の直撃を受け、漸く意識は覚醒する。意味のない言葉が口から漏れる。体が重い。掛布団は離れたところにある。ではこの腹部にかかる圧迫感はなんだ。鼻を掠める、味噌汁の香り。今日の味噌汁の具は、大根が良い。ゆっくりと体を起こす。ふと下ろした視線の先にあったもの。それが何かを視認した橘は、一瞬の間の後、大声を上げて飛び起きた。

ネムの朝は遅い。夜一緒に布団にくるまった相手は、鍛錬だとか言って朝早くに出て行ってしまう。ぽっかりと空いた布団の空間が寂しくて、ぐるぐる辺りを転がれば、別の温もりにぶち当たる。ようやっと安堵出来た気がして、すう、と安らかな寝息が漏れる。浅い覚醒の後に落ちた二度目の眠りは、しかし大きな悲鳴によって遮られる。





2013.08.31
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -