裏切りのガイラルディア(仮)



一度は解散したパーティだが、各地で起こった奇怪な事件をそれぞれが辿るうち、自然とダアトに集まっていた。まだ再会していないのは、イオンとアニス、そして。
「ジェイド」
同じ国へ帰っていった筈の男がその存在を言及しないため、少し遠慮がちにルークは死霊使いへ声をかけた。
「ガイは? 来ないのか?」
ジェイドは少し目を細めて、眼鏡に触れた。
「大佐?」
常なら口の回る男の様子にしては可笑しく、ナタリアとティアも眉を顰める。
「……ガイは、来ませんよ」
「そうですの? 何か、マルクトでやることでも?」
「違います」
「では……」
何故、とティアが問う。ジェイドは眼鏡から手を放し、一つ息を吐いた。じわり、とルークの背に嫌な汗が浮かんだ。
「――ガイは、行方不明です。丁度、ディストが脱獄した時期から」

顔を上げると、金の光に照らされたステンドグラスと目が合う。いつか過去の記憶を取り戻したとき、心を落ち着けるために祈りを捧げた場所と同じだ。あのときも、今だって、この場を尊ぶ信仰心など持ち合わせていない。――持ち合わせる資格すら、自分にはないのだ、今も昔も。
「――ガイ!」
乱暴に扉の開く音、そしてよく知る声が背中を叩いた。ガイは持ち上げていた首を下ろし、腰に携えた剣に触れながらゆっくりと振り返った。
「よお、ルーク」
ガイがニコリと微笑むと、階段の下に集まっていたルークたちはくしゃりと顔を歪めた。
「……随分と、悪趣味な恰好をしていますね、ガイ」
一人顔色を変えず、ジェイドは目を細める。ガイは頷いて身に纏った黒い衣服の裾を持ち上げた。
「似合わないか? 俺の騎士が選んでくれたんだ」
「騎士……ヴァンのことですね」
「そんな! あなたは確か、ヴァンとはもう決別したと!」
「一度はな、そうしようと思った」
自分に課した賭けのため、復讐心と共に過去の思い出は捨てようと、そう思った。あの事実を知るまでは。
「母上を斬り捨てたのはファブレ侯爵。侵攻を指示したのはキムラスカ国王。ホドを見捨てたのはマルクト。そしてヴァンデスデルカを利用したのは……」
そこで言葉を止め、ガイはジェイドを見やる。微かに身体を強張らせる彼に微笑みかけて、ガイは視線を逸らした。
「ホドはこの世界すべてから見捨てられた。その生き残りである俺は、どこで呑気に暮らせば良いっていうんだ」
「ガイ……」
「ヴァンデスデルカのレプリカ計画には反対する部分が多いが……世界に復讐できるならもう、何でも良い」
「その手始めが、ファブレ侯爵家ですか」
イオンとの別れによる悲しみにくれる中、アッシュからファブレ侯爵家に賊が侵入したという報せを受けた。幸い死傷者はいなかった。皆、何者かの譜歌によって深い眠りに落ちていたのだ。賊が侵入したことを示したのは、開け放されたままの扉と、無くなった二つの物――玄関先に飾られた宝剣と、金庫にしまわれていたとある軍人の首級であった。
「おいおい、誰も殺していないだろ」
「侯爵家から盗みだしたのは、その剣ですね。首級の主は……」
「盗んだんじゃない」
ジェイドの言葉を、ガイは強い口調で遮った。カツンと音を鳴らし、ガイは一段降りる。
「取り返したんだ。この、宝剣ガルディオスと、ガルディオス伯爵――父――の首級を」
仇の屋敷の玄関先に掲げられ、辱められ続けた宝剣。毎日それを見上げるたび、腹が焼けるようだった。


テイルズ

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