狩人なキセキとその相棒×希少種な誠凛



同じ設定で別話、だと思う。
取敢えず誠凛の中でも伊月と木吉は他メンバーのセコムで攻め寄り




屋内だというのに、そこは屋外のように暖かく明るく、そしてなにより穏やかだった。柔らかいソファに向かい合わせに座って、リコと日向は裁縫をしている。危なっかしい手つきのリコに、日向が本と睨めっこしながら教えているのだ。二人揃っても危なっかしいのは変わらず、その微笑ましい様子を眺めながら木吉と伊月は顔を見合わせて笑った。壁際のクッションが山積みになった所では、小金井と水戸部と土田の三人がクッションと戯れるようにして腰をおろしている。小金井に至っては埋もれるように寝そべっているが。ふと顔を上げた土田が何かに気付いたように頬を綻ばせた。それを見た小金井と水戸部が首を傾げると、彼は人差し指を口にあて、それからその指でそっとある方向を指さした。一方、伊月も気付いたらしく笑みを零す。隣に座っていたリコがいち早くそれに気づき、変なものでも見るように彼を見やる。日向と木吉も顔を上げると、伊月は土田と同じ方向に指を向けた。全員の視線が集って、彼らは一斉に頬をだらしなく綻ばせる。一番日の当たる窓際に縫い包みやらクッションやらを集めた山があった。その真ん中で、一番大きな火神と一番小さな黒子が手を繋ぐようにして、火神の空いているもう片方の腕に頭をのせ胸に頭を擦りつけるようにして福田が、彼の腕を抱きしめて河原が、黒子の頭を抱きこむようにして降旗が、眠っている。微笑ましい、天使達の午後。



天使とは、純白の翼と澄んだ歌声を持つ、この世のものとは思えないほど美しい生き物であるらしい。らしい、と言うのは清浄すぎるが故毒にも成り得るその存在を、高位悪魔である赤司でさえ目にしたことがなかったからだ。だから眉唾物であると、彼自身は踏んでいる。住処であるという白い白亜の建物を前にして、赤司はそこから聴こえてくる歌声に、成程確かに美しいと、自らの偏見を改めたのだ。彼の隣に並んだ『キセキ』と呼ばれる高等悪魔仲間とその従者も、流れる歌声と微かな甘い香りにうっとりと顔を綻ばせている。



こっちもか、と青峰は額を押さえた。しかし各言う青峰自身も彼らと同じ感想を抱いていたので、人のことを言えた口ではない。天使。その歌声は悪魔である青峰達にとって毒であるが、それ以上に甘美な蜜にもなる。天使自身は尚更だ。ペロリと舌舐めずりをしたのは、ソファに寝転がって頬杖をついていた高尾だ。
「可愛い子っちばっかじゃん。俺、森にいた五人の誰かがいいなー」
「まだ未熟だと思うのだよ」
「それがいいのー。真ちゃんは?」
ソファの背凭れに腰掛けていた緑間は腕を組み、ふむと水晶に視線を向けた。
「無難に、家にいた大人なら誰でもよいのだよ」
「真太郎は堅実だな」
だが、それでは面白くない。一人豪奢な椅子に座っていた赤司が、色の違う左右の瞳を細めうっそうと呟いた。思わず緑間達は身震いしたが、彼のすぐ隣にいた紫原は平然とした面持ちで菓子を頬張っている。
「赤ちんはお気に入り見つかった?」
「ああ。前から目をつけていて正解だった」
うっとりとしたように笑んで、赤司は水晶に映った赤髪と水色髪を指でなぞる。
「向こうは12の、こっちは10か。余っちゃうね」
困ったような声色で、しかしその顔はとても嬉しそうに笑って、氷室は別の方向から水晶を覗きこむ。
「各々好きに食えばいい。二人で分けることになっても文句は言うなよ」
「俺、水色の子が良いっス!」
勢いよく手をあげた黄瀬は、しかしすぐに幾人かからブーイングを受けた。あの中でも歌声が優れた天使の一人だ。そう簡単に渡すわけにはいかない。彼だけではない。赤髪と眼鏡の天使だって別段に美味しそうな匂いが水晶越しにも漂ってくる。
「なら、その三人は隔離しておけば良いだろ」
それで後で、全員で分け合えばいい。淡々と笠松が掲げた提案に、一同は顔を見合わせた後賛成だと言いたげに微笑んだ。悪魔のその微笑みを、天使達はまだ知らない。



「ここから先は通せない」
手に持った槍を互いに交差させ、豪奢な扉を封鎖する。警備隊、その中でも最高位を意味する制服に身を包んだ伊月は、真っ白な翼を控えめに背中で閉じ、キッと目前の侵入者達を睨みつけた。彼の隣には同じく警備隊の木吉が同じようにして、いつもは浮かべている笑顔はどこへやら険呑な雰囲気を漂わせている。しかし侵入者達は二人分の殺気を鼻で笑い飛ばし、二人とは対照的に真っ黒な翼を広げた。
「折角最高の獲物を前にして、そう簡単には引けないな」
赤と金の瞳を細め、赤司はにやりと笑う。ゾワリと肌を撫でた殺気に警戒し、木吉と伊月は槍を構えた。バサリと真っ白な翼が広がる。それを隠すように、倍以上の黒い翼が広がった。
「鉄平!伊月くん!」
大きな音と共に、頑丈で腕の立つ警備の守る扉が破られる。部屋に飛び込んできた木吉と伊月は扉の破片を下敷きにして床に倒れ込んだ。慌てて途中の裁縫を投げ出し、リコは日向と共に二人に駆け寄る。日向が木吉を抱き起こすと、腹を打ったのか彼は苦しげに顔を歪めて蹲った。
「おー、広いじゃん」
最上階ほぼ全ての空間を使って作られたホールの様な部屋だ。天窓から零れる日光で溢れたそこはベージュの柔らかい絨毯で埋め尽くされ、足の踏み心地がよい。そんな白い部屋に現れた黒い集団は染みのように目立った。部屋で活動していた天使達はそれぞれの手をとめ、体を強張らせる。悪魔が侵入してきたことは知っていた。だからこの部屋に皆集まっていたのだ。しかし天使内でも一番腕の立つ二人がやられると思っていなかった。
「!うわっ」
部屋の隅でそんな声が上がる。こっそり移動しようとしたのだろう、土田が悪魔の一人によって床に押し付けられていた。近くにいた小金井と水戸部も声を上げ、彼に駆け寄ろうとしたが、悪魔の能力であろうか、一睨みで床に倒れ伏した。
「つっちー!コガ!水戸部!」
「へえ」
「っ」
グッと顎を掴まれ、日向は青峰に顔を近づけられる。値踏みするように眺めた後、青峰は舌なめずりをした。
「中々じゃん」
「こっちの人もねー」
隣では桃井がリコにしっかりと抱きつき、その白い肌に頬を寄せている。嫌がるリコの表情を、顎を掴んでじっくりと眺め、うっそうとした笑みを浮かべる。その笑顔にリコの背には更に鳥肌がたった。青峰達が捕えた天使を目算しながら見渡した赤司は、ふむと呟いて顎に手を当てる。
「足りないな。報告ではあと五人いる筈…」
「この奥じゃねーの?」
赤司の言葉を遮って、高尾は部屋の隅に引かれたカーテンを思い切り引っ張る。ブチブチと音がして真っ白な布が引き千切られ向こう側に隠されていた空間を露わにした。そこに隠れていたのは、赤司の言った残りの天使五人だ。一番大きいからか四人を守るようにして火神が前に出ている。降旗と黒子、河原と福田がそれぞれ互いの手を繋ぎ、火神の背中を掴んでいた。カーテン片手に鋭い犬歯を覗かせ、高尾はにんまりと微笑む。その背後から覗き込み、赤司達も口角をつり上げた。
「そいつらに、手を出すな!」
噛みつくように叫んだ日向は、青峰によって無理やり黙らせられる。腹を蹴りあげられた日向は絨毯上を転がり、少し離れたところで蹲った。
「日向くん!」
「だーめでーすよーぅ」
動きかけたリコの首筋を伸びた爪で撫で、桃井はそっと耳元で囁く。喉を切られるかもしれない恐怖で、リコは体を強張らせた。大人しくなった彼女に満足したのか、猫よろしく桃井は頬ずりを繰り返す。

KUROKO

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