ご相談がありまして!(攻め編)



・降黒、木日、水福、笠小、早中、緑高、大宮、今諏、若桜、花古
・未完

都内の某カラオケ店。
パン、と机に手をつき降旗が口火を切った。
「主将、ご相談があります」
「……それはいいが――ここでか?」
ストローで烏龍茶を啜りながら日向が一瞥した先を、降旗も目視して頬を引き攣らせた。そっすね……と小さく呟き降旗はすごすごと居住まいを正した。どういう意味かと問いながら笑う本人はしっかり自覚しているのだろう。今吉は両隣に、何故か不機嫌顔な笠松と遠い目をした花宮を座らせ、優雅にジンジャーエールを煽ってみせた。
大人数用であるこの部屋には後五人の男子高校生がおり、いずれもここに集まった理由をいまいち理解できていない顔である。それもその筈、日向と水戸部と降旗以外は、どこからか話を聞きつけた今吉がついでとばかりに引っ張って連れて来た面子であるのだから。取敢えずは大坪の提案で全員飲み物だけは注文して手元に置いてあるものの、そもそもの発端である降旗ですら話題を切り出せず、何とも言えない沈黙に落ちてしまう。
「で、今日は何の用なんすか、主将」
巻き込まれた若松が、コーラを飲んで大分落ち着いた風に訊ねた。因みに彼の左にはメニューに食い付く早川、右には目を閉じて腕を組んだまま動かない緑間がいる。早川の更に隣が笠松、今吉、花宮と続き、緑間の隣が降旗、日向、水戸部、大坪と続く。
「は? そんなの知るわけないやろ」
飲み物を流し込み、ほっと息を吐いた彼から溢された返事は素気無い。
「誠凛さん達がなにやら集まっとったからついてきただけやし」
「態々都外の俺らまで巻き込むんじゃねーよ!」
「丁度こっち来とったんやから、ええやないの」
「次の練習試合の偵察の帰りだったんだよ!」
どうやらスタメン全員で歩いているところを拉致されたらしい。笠松も早川も私服な点を見ると、恐らくこの後どこかへ遊びにでも行く予定であったのだろう。因みに、先程今吉も言った通り降旗達誠凛の三人はマジバへ向かう予定であった。そこを今吉に見つかり――この時点で既に海常組と花宮は捕獲されていた――マジバよりカラオケへ、と言う彼の提案の元ここへ至る。道中遭遇した大坪と緑間もしっかり巻き込んで、ご丁寧に若松に連絡まで入れて。
「で、悩める青少年くんは何を相談したいんや?」
気にせず話せと言う割には、その顔にはからかう気まんまんです、とばっちり書いてある。大分渋っていた降旗も、終には諦めたのか大きく一息吐き、なるべく今吉達を視界に入れないよう日向達をじっと見つめたまま、実は……と口を開いた。
「……俺、付き合ってる奴がいるんすけど……」
「ああ、黒子やろ?」
ガッシャン! 派手な音を立てたのは、言い当てられた降旗ではない。その隣にいた緑間だ。彼は無言でテーブルを滑る緑茶を、水戸部から差し出された御絞で淡々と拭う。一瞬息を詰まらせた降旗も、自分より動揺する人間を見て落ち着いたのか、どもりながらもコクコクと首を縦に振った。
「え、ええ……なんでそれを」
「秘密」
「……妖怪サトリ」
細い目でウインクして見せた今吉は、しかしそれでも花宮への制裁を忘れず、思い切り踵で彼の足を踏み潰した。悶絶する花宮から視線をそらし、日向は話を促す。
「で、俺らに相談って、なに?」
メールでは日向と水戸部の二人に相談があるとあった。まさか恋の相談とは思わなかったが。
「あ、あの……お二人も恋人がいるって聞いて……ちょっと聞きたくて……」
もじもじと肩を揺らし、降旗は居心地悪げに視線を右へ左へ。相談相手は二人と想定していたのにいつの間にやら大所帯、これでは聞きたいことも聞けないだろう。日向が同情しかけた時、腹を括ったのか真っ赤な顔を上げ、降旗はぐっと拳を握りしめた。
「は、ハジメテの時ってどんな感じで持ちこんだんですか!」
ブフッ――――
漸く緑間が片付け終わった頃合いだった。飲み物を飲んでいた者は口内の中のものを噴き出し、それ以外は持っていたグラスを取り落とし。平然としていたのは今吉と早川くらいのものだろう。口元を垂れる烏龍茶を拭い、日向は噎せて頬をほんのり赤くしながら、別の意味で真っ赤になっている降旗を手で制した。
「……敢えて聞くが――何故俺にそれを問う」
カミングアウトすると、日向には同性の恋人が居る。同じ部活の木吉である。しかし生々しいことだが、日向はネコ。確か降旗と黒子では黒子の方がネコであった筈だ――あくまで日向個人の見解であるが――。水戸部も同性の恋人持ちで彼はタチであるから、この質問をぶつけるには相応しいであろうが。
「だって、木吉先輩じゃぁ、あの天然さでちゃんとした答えをくれなさそうじゃないですか。それに、受け側の意見も、ちゃんと聞きたくて!」
どこへ行った、ミスタービビリ。そう、思わず問いたくなるほどその時の降旗は男前だったと、後に日向はリコに対して語っている。
(しかもこいつあっさり本人の了承得ずにカミングアウトしやがった! ていうかなんで俺達がソウイウコトすんだ前提で話してくんの!)
いや、間違っていないのだが、どこでその情報を……。日向は気付いていない、ソウイウコトを彼らが致した翌日、項には必ずその証拠が付けられている事を。
「へーほー。黒子が彼と付き合うてたんも意外やったけど、主将さんもかいな。しかもあの鉄心となー」
面白い玩具をみつけた。そう言って狐が笑っている。花宮は思わず背筋を震わせた。
「この際やから皆カミングアウトせぇへん?」
やっぱりか。花宮は心の中で毒づく。この妖怪、全てを悟っていた。ここにいる全員が同性の恋人持ちだということを。だから態々後輩の若松にまで連絡を入れたのだろう。そして、花宮の予想が正しければ、降旗に呼び出された日向以外は恐らく全員――
「何のことだよ!」
笠松が声を荒げる。しかしその時点で肯定しているのと同じだ。恐らくはまだ鎌をかけただけだというのに、なんて正直な御人。花宮の予想通りにやにやと笑みを深くした今吉は空惚けながら詰め寄る。
「ハジメテ……」
そんな隣の先輩を助けるでもなく、堪能していたカルピスから顔を上げた早川は、何かを考えるように口元を拭った。
「そ(れ)って<ピー>のことか?」
「わ――!!」
既に羞恥で涙目な若松が口を抑えるも一歩遅く、ばっちり聞こえていた単語にもう吹っ切れたのか降旗は力強く頷いた。
「俺は中村と二年の春に……」
「ちょっとタンマだっつってんだろ!」
笠松の肘鉄が後頭部に決まり、早川はソファに沈む。色々消耗した様子の笠松は荒い息を吐きながら、今のですっかり怯えた降旗をギッと睨みつける。
「……で、どういう魂胆でそんな相談を持ちかけてきてんだ一年坊主」
別に笠松に相談する予定はサラサラなかったのだが……などという言い訳を言えるわけもなく、降旗はピシリと背筋を伸ばし実は……と理由を切り出した。
「俺、黒子と付き合い始めて結構経つんすけど、最近やっと初めてキスしたくらい進展が遅くて……」
「良い傾向だろう。高校生なんだから」
「で、でもでも、キスしたら先まで進みたくなるのが男じゃないっすか!」
上手く窘めたと思ったら途端言葉に詰まる大坪。あ、こいつそのまま成し崩した奴だな。その場にいた全員が思った。
「……因みに、この中でまだ致して無い奴は……?」
興味半分といった風の若松の言葉に、場は沈黙に包まれる。暫くしてからそろそろと上げられた手は――四つ。
「花宮、お前童貞やったん!」
「うっせぇ!」
「笠松もかいな!」
「……黙れ。陰険眼鏡」
不機嫌に顔を俯かせる笠松の肩をバシバシと叩き今吉は何がツボに入ったのか爆笑している。
「俺は若松が致し済みってのが意外だな」
「あーそれはわいも思うたわ。桜井相手によう踏み切れたな」
「あー……それは……」
ほんのり頬を赤らめて、若松は頭をかいた。
「……俺だって迷ったすよ。あんな小動物みたいなのに手をだしたら、って罪悪感だらけで。で、いつもはキスだけだったんすけど、ある日やり過ぎちまって……」
口端に垂れた涎、赤らんだ頬、潤んだ瞳、熱い吐息。自分から仕掛けといてアレだが目に毒だと思った。それでも踏みとどまろうとしたのだ。しかし、慌てて背をそむける若松の袖を、つい、と引く手。肩にしがみついた桜井が、赤い目で見上げてくる姿に、思わず唾を飲み込んだ。そして留めの一言は、

『……若松さんなら、僕、嫌じゃ……ないです……』

「あっまぁ……」
「可愛いでしょ!」
「ああ……うん……そやな……」
自分で振っといてなんだが聞くんじゃなかった。今吉の顔が珍しくやつれていた。
「俺的に意外なのは緑間だなー。結構ソウイウコトに淡白そうなのに」
「……ふん」
緑間は眼鏡を正し、足を組む。漸く自分のペースを取り戻したようだ。膝に頬杖をついた大坪が、そんな後輩の姿を珍しそうに見やる。
「高尾だったか?」
「はい」
彼曰く、初めてコトに及んだのは夏、インターハイ敗退後のことらしい――それを聞いて大坪の気が恐ろしげに揺らいだが、そこは言及しないということで――。予想通りというか誘ったのは高尾の方らしい。

その日は突然のにわか雨。二人してびしょ濡れで飛び込んだのは緑間の家で、家族は留守。その状況下で確信犯か天然か、高尾は借りた緑間のワイシャツ一枚で――勿論下には何も履いてなかった――シャワーを浴びて来たばかりでズボンだけだった緑間を待っていたのだ、ベッドの上で。
『……高尾、どういうつもりなのだよ』
『へ?……あー……』
目を合わせない緑間に、何を思いついたのか、高尾はニヤリと笑うと呼んでいた雑誌を置き、緑間の名を呼んだ。それはそれは、楽しそうな声で。
『しーんちゃん』
呼ばれて条件反射で振り返ってしまった緑間の眼鏡は、破裂した。四つん這いになった高尾は、そっと前髪を手でかき上げニヤリと微笑んだ。それが上目使いだったこともあってか、すごく、緑間を煽ったものだから。

「そのままヤッた」
どーん、と効果音がつきそうな表情で、言い切った。大概彼も吹っ切れつつあるらしい。ここにいる奴は皆こんなタイプであろうな、と人事のように花宮は思う。
「……お前ら、インハイ終わってすぐそんなことを……」
「べ、別に直後ってわけじゃ……それに俺知ってますよ、俺。大坪さんだって、テスト休みの時に宮地さんと教室で……!」
「あれは宮地が!!」
焦る緑間の言葉を遮るものの、真っ赤に染まった顔では更に泥沼にはまりに行くようなものだ。今吉は既に呼吸困難に陥りつつある。
「ち、因みに……どんな状況、やったん……」
「それは日の傾きつつある教室で――」
「黙れ緑間!!」
スパン、と大坪の投げた御絞りが見事緑間の頭に直撃する。ぐき、と彼の首から嫌な音がした、気がした。
「……てか、論点がズレてるだろ」
カオスに陥りつつある場で、花宮が一人冷静に溢す。そう、初めの議題はどうやってハジメテを致すかだ。それがどうして、いつの間に暴露大会になった。
「そうやったなぁ、花宮も気になるよなぁ。なんせまだ致してないんやし」
「俺のことはほっとけ!」
「そう言う今吉さんはどうやって諏佐さんを?」
若松の言葉に、それもそうだと全員の視線が彼に向かう。花宮から首に回した腕を手酷く払われた今吉は、それに対する仕返しを机の下で済ましながら、あっけらかんと笑った。
「わし?普通に襲ったけど」
「……」
「てか毎度やな。諏佐、性欲薄いし」
若松は今ここにいない先輩に心底同情した。今度何かあったら出来るだけこの性悪から守りぬこう、とも決意する。
「……全ッ然参考にならないんすけど!」
降旗がとうとう叫び出した。それはそうだろう。今までの体験談は共に受け側から誘われてのことだし、最後のに至っては一歩間違えば犯罪である。花宮としても、いっさい参考にしたくない。
「そーいや早川は途中だったな。一応聞かせろよ」
「俺っすか?俺は……」

二年の春のことだ。理由は忘れたが、その時早川は中村と部室で二人っきりだった。静かな部室で、突然中村が小さく声を上げた。何事かと駆けよって見れば、彼の手にあったのはかなりドギツいエロ本で。早川も中村もそこまで女体に免疫はなかったので、二人して顔を上気させた。変な空気と距離。居心地悪くてきょろきょろと動かしていた視線は、何の拍子か中村のそれと交わった。それまでキスも軽く触れ合うものしかしてこなかった。のに。その時触れた唇は今まで以上に深く交わり。そのまま――

「神聖な部室で何をやっとんじゃ己は!」
笠松の肘鉄、早川はまたも戦闘不能である。
「つまり雰囲気、か……」
「降旗、こんな奴の言うこと本気にするな」
「部室でやったらシメるぞ」
「流石にやりませんよ……」
「と言うか嫌だろ、そんな雰囲気。エロ本がきっかけってなんだよ」
アホか、と呟いて花宮は紅茶を啜る。

KUROKO

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