あのとき、君がいたら(OP)



・死ネタ
・あのとき(頂上戦争)にサボがいたらという妄想をして真っ先に思いついたのが、ナルトのミナクシの最期のシーンだっただけ
・つまりは、赤犬の拳を二人の身体で止めたエーサボ
・サボの記憶は多分、エース処刑の新聞で戻っていると思う


迫り来るマグマの拳。少し前にそれによって腕を焼かれた義兄が地面に転がる姿を捉えていた視界が、その拳によって覆われる。ルフィは、動けなかった。しかし、彼らは違った。
「ルフィ―――!!」
ど。
「え、」
一時、戦場の音が消えた。ルフィは鼻先すれすれで止まったマグマの拳と、それが貫いたものを見上げ、丸い目をこれ以上ないほどに見開いた。
バラバラになって足元に転がった赤い数珠と、それを身に着けていた筋骨隆々な体格。その前に重なるようにして立つのは、白と青の懐かしさを匂わせる色。
がは、と口から零れた赤が、少し焼け焦げたルフィの髪に降りかかる。ぐぐ、と耐えるように俯いた頭から帽子が落ちて、眩しいほどの金髪が零れた。
「……なん、で」
それしか言えないルフィに、小さく口角を上げて微笑みかけ、その男は己の胸を貫くマグマの拳を、手が焼けるのも構わず握りしめた。男の背後に重なって立つエースも、痛みを顔に浮かべながら、男へ何か言いたそうに口を開閉する。
「……っハック、コアラぁ!」
「!」
絞り出すような声に、赤犬は拳を引き抜こうとするが、男の握力が強く抜くに抜けない。ぐ、と足を踏ん張ったとき、赤犬の背後に大きさの違う気配が二つ現れた。ハッとした赤犬が振り返るより早く、その気配は左右に別れ、何かを赤犬に投げつけてくる。どっしりと重い海楼石のそれは、赤犬の四肢に巻き付いて動きを封じると、庇い合う兄弟たちから赤犬を引き離した。赤犬の巨体は小競り合いを続けていた海軍と海賊の群へ、落っこちた。
混乱の声を背景に、とうとう立っていられなくなったエースは、同じように崩れ落ちる男の脇に手を差し入れて庇いながら膝をついた。しかしそれだけでは支えきれず、二人はルフィの左右の肩に顎を乗せる形で凭れかかった。
「―――!」
赤犬に鎖を投げつけた少女が、懐かしい名を叫んだ気がする。彼女は共に鎖を投げた魚人の男に肩を引かれ、悲痛な顔を伏せた。そのまま、二人はルフィたちを捕えんとする海兵たちを抑えようと駆けだす。
ルフィは目を開いたまま、凭れかかってきた二人の身体へ腕を回した。
「何で……何で――――――サボ、エース!?」
ルフィを赤犬の拳から庇ったのは、エースと、とうの昔に死んだと思っていたもう一人の義兄サボだったのだ。
「……そん、なの、俺が聞きてぇ、よ……サボ」
「はは……わりぃ……ちょっと、話すと長くなる、けど……」
よかった、と呟いて、サボはそっとルフィの後ろ頭を撫でた。その温もりにハッとして、ルフィは二人の義兄の身体を抱きしめると、辺りを見回した。
「誰か、誰か医者を!」
「良い……自分の命の終りくらい、自分がよく知ってる……」
「エース!」
「だな……まさか、お前と同じことしてくたばるとは、思わなかったけど」
「サボ!」
「おちつけ、ルフィ……こんな火傷、あのときの炎に比べたら、屁でもねぇよ……」
左目を跨ぐように残り、身体だけでなく記憶まで焼き尽くしたあの炎に比べたら。
兄二人の肩を涙で濡らし、ルフィはグッと歯を噛みしめた。
「そんなこと言うな!サボにまた会えたのに!エースだって、絶対死なねぇって言ってたじゃないか!」
「そんなこと言ってたのか、エース……」
「そういや言ったな……」
か細い声で囁き合って、サボとエースは小さく笑う。しゃくりあげるルフィの背中をそれぞれの手でポンポンと叩き、二人は同じように彼を抱きしめた。
「悔いがあるとすりゃ……お前の、夢の果てを、見届けられないことだ」
「俺も、かな……海へ出て、自由になったお前の姿……見たかった」
最期に、一つだけ。エースは湧きあがる嗚咽を堪え切れず、涙で頬を濡らしながら唇を噛みしめた。サボは柔らかい微笑みを浮かべ、そっと目を閉じる。
「……―――愛してくれてっ」
「……―――生きていてくれて」
―――ありがとう。
両耳を打つその声を最後に、身体へのしかかる重みが増す。するりと腕から滑り落ちた二つの身体を呆然と見下ろし、ルフィは血の感触が残る手をゆっくりと握りしめた。
「――――――っ!!」
直後、戦場の阿鼻叫喚を物ともしない嘆きの声が、曇天の空を突き上げた。

WJ

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