カゲプロで停電少女パロ



―――嗚呼、五月蠅い。これは何て虫の声だっただろうか。夏になると決まって大合唱を始める、ちっぽけな虫けら。何て名前だっただろう。
「……ご主人、ご主人てば!」
嗚呼、五月蠅い。背中に乗って上下に揺すり、耳元で喚くな。辺りの木々に潜む虫けらたちよりも五月蠅い。―――嗚呼、そうだ、蝉だ。この喧しい虫けらの名は。
「ご主人!」
「五月蠅い!」
とうとう耐えかねて、赤いマフラーを巻いた侍―――伸太郎は足を止めるとそう怒鳴った。ついでに腕も離したので、彼の背に負ぶわれていた少女はバランスを崩し、ドサリと地面に尻もちをつく。いてて、と腰を摩りながら青い着物姿の少女―――エネはキッと伸太郎を睨み上げた。
「ちょっとご主人、酷いです!レディーに対するマナーはないんですか!」
「五月蠅い、外国の言葉を使うな!」
ああもう、と頭を掻き毟り、伸太郎は腰を屈めてエネに背を向ける。ぶぅ、と頬を膨らめたエネは、けれど素直に彼の背に抱き着いた。よいしょ、と掛け声一つ、エネを背負って立ち上がった伸太郎はまたゆっくりと足を進めた。
「……」
「……」
「……ご主人」
「……何だよ」
「後、どれくらいなんですか?」
「花鶏までか?もう半日もあれば着く筈だ」
そうですか。エネは呟くように言い、そっと伸太郎の背中に顔を埋めた。


***


伸太郎
義眼を入れた揚羽。エネの停電を治すために旅を続けている。蛍専門の医者として名高い研次郎の店に居候する

エネ
停電した蛍。伸太郎と契約している。足も悪いのでいつも彼に負ぶわれている。昔人間の契約者(九ノ瀬遥)に恋をしていたが、本人の望みで彼の命を絶つ

瀬戸幸助
研次郎と契約する蛍。停電しており、片目は義眼。姉と呼び慕う少女がいたが、自分が彼女の命を吸っていると知り、パニックに陥る。その記憶は失われている

鹿野修哉
研次郎と契約する骸蛍。昔訪れた村で研次郎・彩花と出会う。彩花の最期を看取り、手違いから研次郎に彩花を殺した張本人だと思われる。償いから瀬戸を守ろうと決意する

研次郎
蛍専門の医者。昔蛍に妻と生まれてくる筈の子どもを殺されている。犯人は鹿野だと思い込んでおり、その償いとして妻の心臓を無理矢理食わせる。けど三匹の蛍は愛している

木戸つぼみ
研次郎と契約する蛍。鹿野と研次郎の関係性に疑問を持ちつつ、見ないフリを続けていた。家の一切を取り仕切っている

茉莉
世間知らずの蛍。正体は世界樹そのもので、人間に光は必要か否かを見極めるために実態を持った


茉莉と契約した揚羽。研次郎の店がある村に住んでいる

コノハ
記憶を失った蛍。正体は世界樹と並び立つほど力を持った存在。世界を放浪する茉莉と、次期世界樹であるエネを探している

響也
義眼を入れた蜉蝣。コノハを拾い、共に旅をする。元々は孤児で蛍の生体を研究する組織に収容されていた。生き別れた日和を探している

彩花
研次郎の妻。自称蛍マニア。生まれてくる子どもは男なら幸助、女なら文乃にすると鹿野に話していた。最期は鹿野に看取られる

文乃
瀬戸と共に旅一座に属していた揚羽。瀬戸に命を吸われて生涯を閉じたので、その死は彼の重荷になっている。伸太郎とは生前出会っており、再会を約束していた

カゲプロ

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