マリーの架空世界自己解釈話



黒い世界に、果ての見えぬ扉があった。その前に立ち並び、子どもたちはお互いに顔を見合わせる。
「この先に、ループのない世界が……」
長い間、探し求めていたメビウスの輪の端。それが今、目の前にある。シンタローは汗ばむ掌を握りこみ、コクリと唾を飲み込んだ。嫌だ、と、小さな声が足元に落ちた。子どもたちの視線が、その言葉を落とした少女へと向かう。マリーは下唇を噛みしめて、ぎゅっとエプロンを握った。嫌だ、と彼女は顔を伏せて、溜らずと言った風に言葉を吐き出す。
「嫌だ、嫌だよ。だって、このループが終わったら、いつか皆とお別れしなくちゃいけない世界がくる……そんなの、嫌だ―――ずっと、ここにいようよ」
ねぇ、セト、キド。そう言って、マリーは隣に立っていたセトの袖を掴んだ。マリー、と、セトは思わず彼女の名前を呼ぶ。眉をぎゅっと寄せて、マリーは必死に彼らを繋ぎ止めようと、手に力をこめる。うんと言って、首を縦に振って―――そんな期待と絶望の綯交ぜになった桃色がセトを映した。セトはその色に、思わず言葉を飲み込んだ。
マリーちゃん、とモモも掠れた声で彼女を呼ぶ。少女の辛さを考えたらそうしてあげたいのは山々で、けれど自分たちがずっと望んできた扉を無視することも出来なくて。どうすれば皆を救うことが出来るのだろう。頭の弱い自分には最善策なんて思いつけなくて、モモは泣きだしそうな目を思わず伏せた。
そんな中、シンタローが頭を掻きながら口火を切った。それは出来ない、と。
「悪いが……俺はもう、立ち止まり繰り返すことの無意味さと虚しさを知っている。それはできない」
嘗ての級友から譲り受けたという赤い目が、マリーを見下ろす。その空恐ろしさに、マリーはゾクリと背筋を震わせた。ああ、彼は本当にヒーローなのだ―――マリー以外の者たちにとっての救世主(ヒーロー)なのだ。彼がいたから、メビウスの輪の端は見つけられた―――見つかってしまった。ああ、これではまるで、幼い頃に読んだ絵本の物語のよう。やっぱり自分は、主人公(ヒーロー)に成敗される悪役(ヒール)なのだ。ヒールは、誰にも救われない。それが、物語の定石だ。
「僕も……おばさんたちと違って、僕にはまだ成長して歩みたい未来があるんだ」
ヒビヤが、少々ふてぶてしく言った。じわじわと滲む涙をそのままに、マリーはそちらを見やる。ヒビヤはじっと、涙で潤んだ桃色を見つめ返した。


ここで力尽きた

カゲプロ

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