劇場版BASARAで妄想



(劇場版のIF展開 徳川愛され)

※偽物臭が半端ない
※アニメやゲームの設定ごちゃ混ぜ
※とにかく萌えの赴くままに綴った駄文


混乱の関ヶ原が、それでも静まり返った一瞬。梟雄は少し離れた高所から、それを見ていた。
「龍が太陽を喰らったか……少々逸話と異なるが、まあ良しとしようか」
さて、と呟いて彼の瞳は戦場を彷徨い歩く黒い彼岸花に落とされた。数多の兵士の目が数俊前に起こった出来事を凝視する中、その一輪だけはぼんやりと空を仰視している。
「卿の出番だぞ―――第五天魔よ」
上空では、太陽と月が重なりかけていた。

石田との再戦。止めとも言える伊達の一撃から石田を庇ったのは、敵方である筈の徳川だった。一騎打ちに割り込んできたのは彼の方なのでそれに対する罪悪感はないし、徳川自身も望まぬ筈である。気を失ったように倒れる二人を見下ろし、しかし伊達は拭いきれない心の不快感に眉を顰めていた。何だろうか、この嵐の前の静けさのような感覚は。
「……What’s happened?」
似たような感覚は、関ヶ原の入口で毛利軍と交戦していた長曾我部も抱いていた。彼の言葉で表すなら、嵐を運んでくる海風とでもしようか。常の彼であれば早々に航海を中止し、港にとって返す処である。眼下で交戦する子分たちを見下ろし、長曾我部は舌打ち一つ、碇槍を肩に担いだ。
「鶴の字、お前が言っていたのはこのことか」
伊達の一撃から石田を庇い共倒れした徳川の姿は、離れたここからでもよく見えていた。その後のこの空気。隠し巫女でなくとも、海賊として天候の機微を感じ取ることに長けていた長曾我部にはその不穏さをまざまざと理解出来たのだ。
しかし後方の幕の向こう側で武器である弓矢を片手にじっと待機していた隠し巫女は、そっと首を横に振った。流れ弾を恐れずに姿を現した彼女は、長曾我部の隣に立ち、共に混乱する関ヶ原を見下ろした。
「私が視たのは、恐らくこの後です……龍によって太陽と月が倒れ、黒い彼岸花が二つを覆う。それは世界すら覆い……」
鶴姫は口ごもり、そっと目を伏せた。それ以上は夢でも視ることがなかった。
彼女の様子に思わず舌打ち、長曾我部は碇槍の矛先を床に叩きつけた。すう、と息を吸い込み下で戦う部下たちに聞こえるよう声を張る。
「野郎共ぉ!」
ビリビリと空気に、対面していた毛利も思わず眉を顰める。両軍とも戦いの手を止め、暁丸の先端に立つ長曾我部を見上げた。
「関ヶ原へ、急げぇ!」
ぅおぉ――――――!
耳が壊れそうな程の声に、毛利は更に柳眉を顰めた。その声に気圧されて手の止まる毛利軍を捨て置いて、長曾我部軍は刀を収め、一斉に関ヶ原へ向けて駆けだした。毛利の船に軽々と飛び移り、長曾我部は碇槍を肩にかける。
「一先ず休戦としようや、毛利。狡賢い手前なら、理解してんだろ?これから何が起こるのか」
「……先ほどの言、訂正しよう。相も変わらず虫の好かぬ男よ……」
長曾我部の遠く背後で、暁丸に残った鶴姫が不安げにこちらを見守っているのが見える。毛利は目を閉じ、吐息を一つ。輪刀を肩にかけ、凛と声を張り上げた。
「刀を収め、関ヶ原へ急げ!捨て駒どもよ!」
揃った力強い応の声の後、毛利の船がゆっくりと進み始める。一瞥すれば、暁丸も同じように動き始めていた。関ヶ原の外からそんな大軍が迫る光景を認めた猿飛は、これはいよいよ何かが起きると察し、慌てて自軍の大将のもとへと急いだ。
「大将!」
「佐助!これは一体……!」
長曾我部・毛利の進行をまだ知らぬ彼でも、空気の変わりようには気付いていたらしい。二本の槍を手に、辺りを忙しなく見回していた。
「長曾我部と毛利が揃ってこっちに向かってる」
「なんと、誠か!」
「ああ。しかもどうやら手を組んでる―――けど、どうも戦をするために協力してるって感じじゃないんだよね」
「?どういうことだ」
「……先刻、伊達の刃に徳川と石田が倒れた。その後から、何となく空気が可笑しい」
「それは某も感じておる……しかし、」
そこではたと真田は言葉を止めた。思わず彼を呼んだ猿飛は、しかしその瞳が自分を通り越して背後を見ていることに気づき、そちらへ首を回した。
「―――お市殿―――!」
猿飛が視線の先を見つける前に、真田はその名を呼び、駆けだした。その言葉に猿飛は耳を疑い、しかしすぐに姿を確認すると馬鹿なと思いつつも主の後を追った。
そんな彼岸花はふらふらとした足取りを止め、しかし未だ天空を見つめたままだった。血色は悪いが形の良い唇がゆっくりと動く。それは、歌を紡いでいるようだ。
―――彷徨い入れ、底の宿……背や震わせ、胸抱き……腸を喰うは、彼の根っこ
「―――開け根の国……根のやしろ―――」
ずおおぉ……
地の底から響くような音と共に、彼女の周囲にあった触手が質量を増す。それは駆け寄ろうとしていた真田主従の足を止め、しかし彼らを通り過ぎて未だ地に倒れ伏す二人の武将へと向かった。
「家康!三成!」
「Shit!」
伸びてくる黒い触手に絡めとられ、天に掲げられる二人の身体。前田は伊達と共にそれを見送るしかなかった。彼の声のお蔭か、先に目覚めたらしい石田が動く様子は見られるが、徳川はまだ気絶したままのようだ。
「家康!」
天空では、月と太陽の交わりが半分ほどまで進んでいる。それに重ねるように、ゆっくりと触手は二人を交差させた。
この触手から逃れることもだが、未だ瞼を固く閉じたままの仇敵に向け、石田は声と拳を振り上げた。
「起きろ!家康!」
石頭と形容される額は、赤くすらならない。しかし彼の瞼は何かに反応したように僅かに震えた。
「ん……」
東照権現と自称する彼の武将は、その時、淡い夢に堕ちていた。
それは、彼がまだ松平の性と竹千代の名を持っていた時代。糸竹とも呼ばれていた頃の記憶だ。
「―――起きろ、竹千代!」
「いで!」
暖かい陽光に、縁側であるにも拘らず転寝をしていたらしい。竹千代は、しかしあまりにも理不尽な、頭頂への拳骨で叩き起こされた。
「なにすんだ、蘭丸!」
「蘭丸を無視するのが悪い!」
折角金平糖を分けてやろうと思ったのに、と頬を膨らませながら、胡坐をかいた蘭丸は小袋を振って見せる。その中にあるのであろう甘い砂糖菓子を想像して、竹千代は滲んだ唾液を飲み込んだ。
「わ、悪かったな。つい転寝しちまった」
「不用心だな。戦場じゃあ、真っ先に殺されてるぞ」
ケラケラ笑って、蘭丸は小袋を掌に乗せるとその口を縛っていた紐を解いた。桃、白、黄、緑……鮮やかな星が小さな山となって現れる。蘭丸は二三粒とって自分の口に放りこむと、同じ数だけまた取って竹千代に差し出した。それを受け取り、竹千代は一粒ずつ口の中で転がす。
甘い。夜空に浮かぶ星も、こんな風に甘い砂糖菓子であれば良いのに。忠勝なら、とってこれるかもしれない。そんな空想めいた風景を想像して、竹千代は小さく笑った。
「糸竹」
こんな低い声は一人しか思いつかないが、竹千代をそんな風に呼ぶのも一人しかいなかった。いつの間にか縁側も蘭丸も金平糖もなくて、竹千代は武具に身を包み、しかし兜と槍は足元に置いたまま立っていた。目の前にいるのは、第六天魔王。
「信長公」
彼の魔王も、常の武具を身に着けていない。織田はそっと微笑むと、竹千代に握った手を差し出した。何かくれるのかと両手を合わせて差し出せば、そこに軽い何かが載せられる。それは、竹で作られた笛だった。
「決して失くすでない」
「信長公からの贈り物を、蔑ろにはせん」
「是非もなし」
織田の遙か後ろがぽや、と明るくなり、竹千代はそこで初めて辺りが闇のように暗いと気付いた。明るくなった場所には、蘭丸と濃姫の姿が見える。にっこりと微笑んでいる二人に、思わず足が動きかけるが、織田に止められて竹千代は仕方なくその場に留まった。
「―――笛を、」
その後の言葉は風の吹く音によってかき消され、彼らの姿すら霞のように散り去っていく。
「のぶ、」
がくん、と落下する感覚。
―――そして徳川家康の意識は覚醒する。

「―――ひかりいろさん」
「お市……殿……?」
目を開いて最初に見るのが信長公の妹とは、これは一体どういう状況か。やけに空が近いような気もするが、寝起きのようにぼんやりとした頭はうまく回ってくれない。そうこうするうちに冷たい手で頬を包まれ、額同士を合わせられる。それに気恥ずかしさを感じないのは、慣れであろう。
「梟さんが教えてくれたの……市が、ひかりいろさんと一緒にいられる方法……市が、独りじゃなくなる方法……」
「ふくろう……?お市殿、何を言って」
彼女を振り払おうにも、何故だか力が入らない。そっと端整な顔が近づくのを、家康は呆然と見ていた。その時だ。
―――……ぽーん……―――
徳川の懐が光り、そんな軽石同士がぶつかるような心地良い音が響いた。ピクリと市はそれに反応し動きを止める。その一瞬だった。
「―――はぁ!」
ザシュ、と何かを引き裂く音がして、徳川の身体は宙に投げ出された。視線を僅かに動かせば、武器である大手裏剣を持った真田の忍がこちらに手を伸ばしている。引き千切られたような形の黒い触手も見えて、彼が大手裏剣でそれを斬ったのだと想像できた。
高く飛び上がった猿飛は、触手から解放されたせいで落下を始める徳川の身体を抱え、地面に着地した。分身に任せた石田も無事救出されたようで、地面に着くや否や助けの手を振り払って騒ぐ声がよく聞こえた。こちらには真田が駆け寄り、徳川の安否を問うてくる。猿飛が一見したところ、意識の混濁と先刻までの戦いの傷は確認できるが、瀕死に至る傷はない。それを伝えると、真田はあからさまに安堵の息を溢した。そんな彼の肩を叩き、六爪を抜刀したままの伊達は上空を顎で指す。
「まだ安心は出来ねえぜ」
真田はきゅっと表情を引き締め、しかし僅かに眉根を下げて触手に乗って上空に留まったままの市を見上げた。
「それに、さっきの音と光はなんだい?」
背後に絡む石田を連れたまま、前田が不思議そうに首を傾げる。そう言えば、と集った視線は徳川の懐に向かい、猿飛が傷に触らないよう注意しながら探った。固い何かを掴んで手を抜けば、それは使い古された子ども用の笛。
「……どうして」
上空からひとり、眼下の景色を見つめていた市はぽつりとそう呟く。先ほどの光と音が何なのか、彼女はよく知っていた。だってあの匂いは、彼女に一番近しい者のものだったからだ。
「……どうして邪魔するの―――兄様」
―――また市から<光>を奪うの……?
「信長が家康にあげた笛だよ、それ」
嘗て叔父が仕えていただけあって、この中の誰より織田に詳しい前田がそう言った。石田も眉を顰めつつ、確かに豊臣傘下時代には既に持っていたと付け加える。
「傘下に加わって間もない頃、それと織田が討たれたと報せを受けてから暫くは、夜な夜な寝所を抜け出して吹いていた」
「俺は聞いたことないけど、利が褒めてたよ」
「……まあ、不快なものではなかったな」
二人の証言を聞きながら、伊達は手にすっぽりと収まるそれをくるりと回す。先ほどの光景からして、この笛には第五天魔から徳川を守護する何かがある。しかしその贈り主が第六天魔とは。
「……さっぱりだ」
そんなことよりまずは、上空の彼女をどうにかする方が先決だ。笛を徳川の懐に戻し、伊達は第五天魔に視線を戻した。チャキ、と左右から音がする。見れば、真田は赤槍を構え、石田は抜刀している。
「あの女を斬れば良いのか」
「待たれよ、石田殿!お市殿は意味もなく戦いを仕向けるような女人にはござらぬ!何か理由が」
「この状況でそれを言うのか!」
「お二人さん、少し落ち着きなー……って!」
噛みつくように言い合い始めた真田と石田に、前田の頭突きが襲う。二人は思わず額を抑え、その場にしゃがみ込んだ。短気二人を置いて、前田は伊達に向き直った。
「で、どうすんの?」
そうこう話している間に、辺りはどんよりと闇色の靄で覆われている。異変が起こったらすぐ他軍を誘導して撤退するよう自軍に伝えてあるから、伊達は部下の心配はしていない。気にかかる、と言えば単独行動に走っている右目と、未だ姿を見せない石田の頭脳のことぐらいである。
「……お市殿は、寂しいだけだ」
猿飛の手当を受けていた徳川が、ゆっくりと口を開いた。伊達たち五対の瞳が彼に向かう。
「……信長、公は、笛を決して、手放すなと……ワシは、闇に魅入られやすい、から……」
「I see」
伊達はチラリと石田を一瞥した。本人は気付いていないようだが。石田のことか、と無頓着にも口に出しかけた前田の頭は、殴っておいた。
「佐助も、闇だな」
「ちょっと大将、これ以上ややこしくしないでよ」
もう一人の天然に、猿飛は苦笑いを溢した。
徳川の話から察するに、闇に魅入られやすかった幼子の保身に、あの魔王が術式を施した笛を与えたのだろう。あの魔王が。奥方には戦場に出るなと言い、小姓には褒美に好物の砂糖菓子を与えていたとも聞くから、身内には人並みに優しかったのかもしれない。その愛情は、実妹とその婿には向けられなかったようだが。
(いや、案外あの結婚が愛情の現れだったのか?)
常日頃から後ろ向きな女と、ともすれば真田と同じくらい熱い男。暗殺は初めから期待してなかったと云われているし、存外―――いや、今はそんなことより。
「そいで?魔王の妹が寂しがってるんだって?」
己の妄想を振り払って話を戻せば、徳川は僅かに首を縦に動かした。
「……ずっと、百合の花を、探しておると……それが如何やら、ワシと似ているらしい」
「A Lily?」
その時、伊達の脳裏に、何の因果か紅白の鎧を纏った男の姿が浮かんだ。己が正義を貫くこ
とを信条とし、政略と知ってもなお、ひとりの女性を愛し、彼女の目の前で散った武人―――浅井長政は、正に<光>であった。
「……つまり、長政殿の代わりに家康殿を求めていると……?」
「恐らくね。『自分の物にする』ってことが、お市ちゃんの中で『闇に落とす』ってことになっているのかも」
「あの女は、誰かから教えてもらったと言っていたぞ」
真田と前田の会話に、石田はそう口を挟む。思わず二人は石田を見、互いの顔を合わせた。
「お市殿を利用せんとする輩がいると?」
「毛利さん?」
「何故そこでいの一番に我の名が挙がる」
真田たち―――特に名を挙げた前田―――の肩がビクリと飛び上がる。バッと振り返れば、不服そうな顔の毛利と笑いを堪えきれていない長曾我部・鶴姫がいた。
「しょうがねーな、毛利!これも日頃の行い、ってやつだ!」
「フン……それよりも貴様ら、こんな異変のど真ん中でよくもまあ、のんびりと話しておれるな。その図太さ、恐れ入る」
バシバシと肩を叩く長曾我部の手を払い、毛利は態と厭味ったらしく言い募る。しかしそれも、鶴姫の「そんなことより!」という可愛らしい声に流された。
「一応この辺りに結界を張っておきました!お市ちゃんや皆さんがどんなに暴れても、外の部下さんたちに危害は向かいません!」
「おお!それは感謝痛み入る、巫殿!」
「おい、それはもしかして外から誰も入れないってことか?」
右目がまだ現れていないのだ。彼がいないからやられるほど弱くないが、何となく胸のざわつきが収まらぬのだ。
「その心配は要らぬようぞ、伊達」
先ほどよりも幾分不機嫌さの増した低い声で毛利が言う。怪訝に顔を歪めた伊達に、彼は顎でそちらを指し示す。伊達と共に前田たちも視線をやると、ドサリと音を立てて地面に倒れる人影があった。
「小十郎?!」
「刑部!」
その正体は紛れもなく竜の右目と西軍の頭脳だった。それが傷だらけで地に頬をつけている。伊達が咄嗟に上げかけた足を踏み止めたのは、右目の傍から気に食わない笑い声がしたからだ。

BGM:今宵、月が見えずとも(ポルノグラフィティ)

OTHER

×
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -