狩人なキセキと相棒組×稀少種な誠凛



―――その種族は、光の加減で透き通る瞳と、魔力を凝縮した水色の羽を持つ。羽は勿論、粘膜を介しての接触によって得られる彼らの魔力は、不可能を可能にすると一説では形容されるほど、莫大なものである―――

深く生い茂る森の奥に、まるで隠されるようにして、その建物はあった。穏やかな日光が照らす中、青々とした芝生が広がり建物を取り囲んでいる。白く四角い無機質なそれはこじんまりとしていたが、そこに住まう者達を象徴するかのように、清廉な雰囲気を漂わせている。庭である芝生の上には、五人の青年の姿が確認出来た。

「くぁ…」
「火神、寝不足か?」
「勉強の所為…じゃねぇよな」
「ですね」
「だな」
「手前ら…」

からかう仲間の頭を乱暴に掻き回し、火神はその場に寝転がる。また欠伸をする彼に苦笑して、福田はその額に手の甲を添えた。そんな福田の背に河原が寄りかかる。降旗と黒子は頬が触れ合うほどくっついて、三人を微笑ましげに眺めていた。

稀少種の住処『誠凛』には、彼らの他に混血も含め後七人が住んでいる。魔力を手に入れんとする狩人の魔の手を逃れ、こうした辺境に居を構えてもう幾年になるのか。穏やかに過ぎる日々は、年月の感覚を狂わせる。あるのは朝昼晩の区切りだけだ。平和だった。戯れに触れ合って、笑って、遊んで。平和だった。まだ、この時は。

がさり、と草を踏む音に初めに気づいたのは福田で、彼に触れていた火神と河原も、その僅かな驚きに気がついて目を覚ました。

「福田?」

体を起こした火神に、手を取り合った状態で降旗と黒子がきょとんと首を傾ぐ。しかし福田はじっと、前方の森を見つめたままだ。何となく嫌な予感がして、河原は福田の、降旗と黒子は火神の背中にしがみついた。

「どもー」

現れたのは、人間だった。にこやかな笑みを浮かべた彼は、ひらひらと手を振ってくるが、火神達は返さない。彼の胸元で煌めくバッチに、五人は顔を青くした。

「狩人…」
「あ、知ってんだ」

高尾と名乗った狩人は、ぎらりとした瞳で五人の顔を見回す。福田はそっと肩越しに、他の住人に報せるよう、河原に囁いた。こくこくと無言のまま頷いた河原は、ゆっくりと後退してから一気に駆け出す。それに気づいた高尾の前に飛び出し、福田は羽を広げた。

「火神!」
「!っ」

名前を呼べば、察したらしい火神が降旗と黒子の腕を引いて河原の後を追う。福田を案じて踏み留まる黒子の背を、降旗が押した。建物へ入る彼らの元へは行かせない。その思いが一目で解るほど、そこには魔力が満ちた。それを見て、高尾は溜息と共に笑みを溢す。

「仲間を逃がしたつもりか?」
「?」
「狩人が俺だけだと、いつ言った?」
「っ!」

まさか、と建物を振り向いた福田は、次の瞬間、地面に押し倒された。顔を上げようにも、高尾が頭を掴んで腰に跨がっている為叶わない。土のついた唇を噛み締めると、高尾の笑い声が聞こえた。

「あんたまだ若いね、魔力が弱い。駄目だって、隙を見せちゃ」

まぁいいけど。高尾は呟いて、福田の羽に触れる。ぴくり、と跳び跳ねる体に、彼の笑いは益々深くなった。

「楽しみにしてたんだ、稀少種を食べるの」

ゾクリ、と福田の背に悪寒が走る。恐怖でか、体は動かなかった。

***

どん、と強く背中を押され、土田は冷たい床に転がった。

「つっちー!」
「はいはい、大人しくね」

腕を捻られた小金井は壁に押し付けられ、水戸部は首を掴まれたまま宙吊りにされる。苦しげに顔を歪めもがく水戸部だが、その喉から声が漏れることはない。それがつまらなかったのか、仲間から紫原と呼ばれていた男は、水戸部の体を乱暴に床に叩きつけた。

「水戸部!」
「こいつつまんなーい。全然叫ばないじゃん」
「水戸部は声がないんだよ!」

そんなことを理由に彼が更に痛めつけられては堪らない。土田は叫んだ次の瞬間、腹を思いきり踏みつけられた。

「少し黙るのだよ」

眼鏡の位置を直しながら、緑間は溜息を溢す。ふむ、と小金井を拘束していた氷室が、土田の言葉に反応を返した。

「そんなこともあるんだな、稀少種は」

しかし勿体無い。そう呟きながら、氷室は小金井を拘束していないもう片方の手で、彼の服を破った。驚く彼を無視したまま、氷室は冷たい指を背中で丁寧に折り畳まれている羽に乗せる。氷のような冷たさに、小金井は肩を震わせた。

「もぐ時の声が聞けないなんて」

び、
嫌な音が、廊下に響いた。水戸部と土田は息を飲む。

「あ…―――ああああ゛―――!」

絶叫。小金井から毟った羽をうっとりと眺め、氷室は彼から手を放す。襲い来る激痛に、小金井は体を丸めて蹲った。

「コガ…!」

咄嗟に体を起こした土田は、しかし膝を折った緑間に顎を掴まれ、駆け寄るのを制された。

「少し大人しくしていろ―――俺は気が短いのだよ」

低く呟かれた声が鼓膜から滑り込み、背筋を震わせる。逆らえばその羽ももぐ―――そう言われているようだった。

「単にうるせーだけだし」

小金井の止まない悲鳴に、紫原は眉をひそめる。氷室は振り返り困ったように肩を竦めた。

「なら敦はどんなのがお好みなんだ?」
「んーとねー…」

首を曲げながら、紫原は思案するように床に転がる水戸部を見下ろす。ヒューヒューと、鳴らない筈の喉は恐怖で空気の音を出している。しかし水戸部はそれを懸命に隠そうと眉根をひそめていた。不意に紫原は腰にさしていた剣を抜きいた

KUROKO

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