天使な誠凛



透き通る歌声が森に響く。黒子の喉が奏でるその子守唄を聞きながら、木の根本に腰かけて火神はそっと目を閉じた。彼の左隣には本を読む福田がいて、頁を捲る紙擦れの音が時折風と共に耳を擽った。福田の更に左には、彼の肩に頭を預けて目を閉じる河原の姿がある。こちらは既に半分夢の中のようだ。
目を閉じた火神の耳に流れこんでいた音が突然二重になる。どうやら降旗がハモりだしたようだ。仲間内では高い部類の二人がソプラノとアルトに分かれ、子守唄を更に響かせる。午後の日溜まりと混ざりあったそれは、火神を安眠させるに十分すぎるものだった。

手をとりあって歌う二人の声は風にのり、少し離れた場所に位置する家にまで届いた。二階の一部屋で机に向かっていたリコは、ふと手を止め歌声が流れ込む窓から身を乗り出した。

「黒子くんと降旗くんね。全く、相変わらず良い声だこと」
「黒子は勿論だが、最近はフリも上達してきてるからな」

ソファに座って本を開いていた木吉がそれに同意する。苦笑して本を閉じると、リコの隣から彼も外を眺めた。
天使にとって歌とは、力であり命である。彼らの術は全て歌によって成り立ち、天使の歌で天使は産まれ出でるからだ。今現在彼らの中で一番優れた歌い手なのは黒子と火神。日向とリコ、水戸部がその後に続く。
頬杖をついて聞き入っていたリコの耳に、別の方向から別の歌が届いた。思わず苦笑が漏れる。

「全く、小金井くんね」

リコの予想通り、裏庭で洗濯を干しながら歌を歌いだしたのは小金井だった。陽気でアップテンポなそれに小さくハモりをいれながら、土田はシーツを広げる。その隣で頭を揺らし、水戸部はリズムをとっている。
小金井は躍りを得意とする天使だ。今もステップを踏むようにして庭一面の干し竿の間を動き回っている。対して土田は楽器の演奏、特にハープが得意だ。二人の伴奏と舞いと共に奏でられる水戸部の歌声は、それ自体が楽器であるかのように儚く美しい。ただ喉を痛めやすい為、日常生活でそれを聞くことはない。
太陽の光、流れる風、響く歌声。そんな風景の中、真っ白な洗濯物がはためいた。

二方向から聞こえてくる歌声に、日向は呑気なものだと溜息を漏らす。それを宥めたのは、自身の愛楽器であるリュートを手入れしていた伊月だ。

「平和な証拠じゃないか」
「平和ボケ過ぎな気もするがな」

慣れたように楽器を磨く伊月の手を見つめながら、膝に頬杖をついた日向はまた一つ溜息を溢す。

「…黒子、歌上手くなったな…」
「そうだな。フリもだけど」
「福田も少しずつ成長してるしな。河原も粗削りだが上達してきてる」
「火神も黒子とデュエットを重ねてきて上手くなってるしな」
「…将来有望だなー」

かくり、と膝に額をぶつける。伊月は苦笑してその頭を撫でた。

「なんだ母さん、子離れが悲しいのかい」
「うっせ黙れ」

パシリとその手を払い、日向はまた溜息。伊月は小さく笑みを溢した。ふと見上げた空は高く、青い。

KUROKO

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