ロスタイムメモリー自己解釈話



・ロスタイムメモリー自己解釈駄文
・死ネタ風味
・ほぼシンタローのみ
・自己満


―――route:01
カノの身体が、まるで人形のように崩れ落ちる。それと入れ替わるように、セトはコノハに身体を預けた。
「コノ、ハさ……ん」
がは、とセトの口から血が滴る。なんで、と言葉にならない空気が共に零れ落ちて、それとほぼ同時に彼の身体は糸も容易く地面に転がった。腹から、大量の血を溢して。
「セト―――!」
頭を抱えたマリーが、引き攣った悲鳴を上げる。モモは彼女を庇うように前に立ったものの、コノハの足元に転がるセトとカノの姿に、震えを隠せない。それはキドもヒビヤも同じで、シンタローは一人どうしたものかと必死で頭を回転させていた。白から黒へその色を変えたコノハは、ニヤリと笑って銃口をこちらへ向ける。今し方二人を瀕死に追いやったそれに、シンタローの心臓はドクリと嫌な音を立てた。
あれが、マリーにこの世界を繰り返すよう強制していた黒幕なのか。ループしている世界の存在に気づいた、それを仲間全員で共有しループを止めようと結束した―――それでは駄目だったと言うのか。世界を変えるにはそれだけでは足りず、世界はまた同じ風景を描く。
「……やめ、ろ」
う、と呻いてコノハは頭を抱える。身体の中で相反する意思が鬩ぎあっているのか、とても苦しそうだ。不意にその勝敗が決したのか、コノハの腕が滑らかに動いた。しかしそれはシンタローたちの予想を外し、銃を己の側頭部に突き付ける。
「コノハ!」
「ごめ……んね……」
力なく笑い、彼はそう呟いた。ループを止める、唯一の方法。それが友を失うことなのだとは思いたくない。シンタローはほぼ衝動のまま飛び出し、コノハの手を払った。
ぱん。
軽い音が立ち、シンタローの頭に強い衝撃がかかる。コノハが大きく目を見開くのを横目で捉えながら、シンタローは己が倒れ行くのを自覚していた。
「シンタロー―――!」
最後に聞こえたのは誰の声だったか。それさえ解らぬまま、シンタローの意識は闇へと落ちた。

―――route:XX
伸太郎は夕陽の射す部屋の中、ベッドに腰掛けたまま呆然と手中の鋏を見つめていた。彼の向いにある机上には、盛大に画面を割ったパソコンが、嫌な音を立てながら意味のない点滅を繰り返している。
「アヤノ……エネ……」
隈の濃い目元、虚ろに黒々とした瞳。彼には最早生気も気力も感じ取れない。徐に伸太郎は鋏を両手で包むと、刃が自分の方に向かうように持って高く振り上げた。そしてそれを一息に、己の首へと突き付けたのだった。

―――route:??
「嫌な話だ」
全く、と呟いてその少女は自分の正面で膝を抱えて座る青年を見やった。彼らの横では巨大なスクリーンのようなものがあって、そこに誰かの記憶が早送りで映し出されている。走馬灯、と呼ばれるものなのだろう。少女はそれを興味なさげに一瞥し、微動だにしない青年へ視線を戻した。
「お前も、終わらない世界を願ったことがあるのだな」
「……」
無言のまま、青年はぐるりと首を回す。じっと虚ろな目に垂れ流される映像を映した。何を言っても反応は返ってこないだろう。少女はそう悟り、吐息を溢した。そして興味の失せた彼から視線を外し振り返った彼女は、大きく目を見開いた。赤いジャージ姿の、もう一人の青年が、無言のまま横を通り過ぎていったのだ。―――そして彼らは、同時に目を開く。
向かい合って立っていたのは、夕暮れに染まる懐かしい教室だった。黒いパーカー姿の伸太郎は、いきなり目の前に現れた赤いジャージ姿の自分を見て酷く驚いたようだった。
「何だお前、何で俺と同じ顔してるんだ……!」
「……成程、やっぱりそういうことかよ」
恐らく、今向いに立っている彼は、パラレルワールドの如月伸太郎。例えば、未だ部屋に引き込まったまま、メカクシ団と出会わずに時を過ごすという選択肢を選んだ先にいる自分。カゲロウデイズに入るには、同時に二人分の命が失わなければならない。キドは姉、カノとマリーは母、セトは友、モモは父、コノハとヒビヤは大切な人―――そしてシンタローはパラレルワールドの自分。益々SF染みているな、とシンタローは内心苦笑した。その余裕ぶった態度に、伸太郎は激昂したように声を荒げた。
「何一人で納得したような顔しているんだ!ここは何処で、お前は誰なんだよ!俺は自分の部屋で、鋏で喉を掻き切った筈で……!」
「そうか。あのまま引きこもっていたら、俺はそんな未来を選んでいたのか」
「質問に答えろ!」
「自分で考えてみろよ。何でもすぐに答えが解っちまう秀才さんよ」
「何だよ、それ……」
混乱が最高潮に達したようで、伸太郎はぐしゃりと頭を掻きまわした。そして不意にその手が止まり、虚ろな目が大きく見開かれる。その理由は、シンタローには見えなかったが大凡予想できた。彼の目の前にも、自分の目に映るものと同じものがあるだろうから。
「アヤノ……!」
重ねた言葉は同じであった。しかしそこに込められた思いも、浮かべる表情も、何もかも違っていた。二人は入れ違うようにして、それぞれの向いに立っていた彼女へ向かって駆けだした。
文乃は窓辺にたったまま、伸太郎を見てニッコリと微笑んだ。嘗て、伸太郎に見せていた綺麗な笑顔で。
「死んじゃった、ごめんね」
なんて言って、窓枠に手をかける。
「さよなら、しよっか」
ふわ、と窓から吹き込む風が、彼女の黒髪と赤いマフラーを揺らした。
「嫌だ、アヤノ!待って、往かないで――――!」
伸太郎は目いっぱい手を伸ばす。しかしそれが届く前に、文乃の身体は夕陽に溶けていった。
背後で響く悲痛な叫びを知りながら、シンタローはじっと自分の目の前にいるアヤノを見つめた。アヤノは真っ赤な目でニコリと笑う。
「シンタローは、引き止めないんだ」
「……ああ」
その答えに、アヤノは何処か嬉しそうだ。恐らく彼女もシンタローと同じ、二つの平行世界で同時に死亡してこの世界に落ちた。世界を抜け出さなかったのは、互いに互いの世界を救おうとしていたからか。
「あっちの世界は、駄目かな」
シンタローがこのまま世界を抜け出せば、出口は開かない。
「大丈夫だ。……俺が戻って、カゲロウデイズを壊す」
そうすれば、囚われたままの彼らも解放される筈だ。アヤノは少し驚いたように目を丸くした。それからニシシと笑って、肩を震わせる。
「さすがシンタロー。そんなこと考えつかなかったや」
クスクスとした笑い声を止め、アヤノは赤いマフラーをシンタローに巻いた。
「私の家族をよろしくね、赤色ヒーロー」
彼女の瞳から、赤い色は消えていた。
「……任せておけ」
そう答えて笑顔を浮かべると、アヤノは嬉しそうに目を細めた。パラ、と崩れるように彼女は夕陽に溶けていく。それと同時に、空間が歪んだ。ちらりと向けた視線の先で、伸太郎が腕を伸ばしたまま仰向けに倒れていくのが見えた。彼はこのまま、この世界に囚われ続けるのだろう。自殺する一日を、何回でも繰り返す。けれどそれは、シンタローが救い出してみせる。
「俺はヒーローだからな」
赤いマフラーに触れ、シンタローは真っ赤になった目を上げた。カゲロウデイズからの出口が、今開かれる。


Not to be continued

カゲプロ

×
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -