少年と機関銃(おお振り)



空にかかる薄雲を裂くようにして、一機の戦闘機が飛んで行く。モスグリーンの腹に浮いていた赤い錆が、地上からも確認できた。

(古い…旧型、かな)

帽子の鍔の影から目を細めて見上げていると、先を歩いていた案内人から声をかけられる。慌てて視線と一緒に姿勢を正すと、案内人は何が面白いのか小さく笑んだ。
首都からかなり離れた東の辺境。国境のこの付近は昔から侵略を狙う隣国の脅威よりも、難民等の不法侵入の危険が多い。時には実力行使で国境の金網を破る者もいるわけで、ここには軍の特別部隊が設置されている。名を、ニシウラ。本日付けで三橋廉が配属されることになった部隊である。

「三橋の部屋はここ」

案内人は西広と名乗った。三橋と同じ、若い兵士だ。元々全体的に平均年齢の低い軍だが、ここニシウラは特に二人と近い年齢の兵士しかいないらしい。彼、西広がついつい砕けた口調になるのも、日常で同年代と接してばかりいるせいだろう。
伝令用の深緑色したシンプルな服装の三橋と違い、西広は階級が一つばかり上なのか、作りがしっかりとした軍服を着ている。案の定、彼は諜報班所属なのだと知らされた。

「夕飯は二時間後。隊員全員が集まるから、そこで正式に紹介されます」

にっこり笑って敬礼して、西広は部屋を出ていく。ぎこちなく敬礼を返した三橋は、扉が完全に閉じられてから手を下ろし、そろそろと部屋を見回した。
兵士の居場所は戦場である。それを象徴するかのように部屋の中は閑散としている、あるのは固いベッドと三つ引き出しがついた小さな棚だけ。シャワーや洗面台は共同なのだろう、それらしきものはない。二時間の自由時間を過ごすには、聊かシンプルすぎる。

「…」

取敢えず運んだ小さな荷物を床に置くと、三橋はベッドに腰を下ろした。抱えた膝に顔を埋めるのは、昔からの癖だった。讃井あそこで僅かでも暖をとる方法。もぞ、と身動きし三橋はそっと目を閉じた。

***

どれほど時が経っただろうか。いつの間にか眠っていたらしい三橋は、騒がしい足音で目を覚ました。一つだけの窓から射し入る光は橙色で、室内も仄かに薄暗い。口端に垂れる涎を拭い、三橋はベッドから降りる。その途端、立てつけの悪い扉が乱暴に開かれた。三橋はその物音に驚き肩を飛び上がらせる。現れたのは、二人の少年兵だった。

「おーお前が三橋なー」
「おい、ノックもなしに入るなよ」

礼儀もなんのその、部屋で立ち尽くす三橋をじろじろと見つめるのは、扉を開いた少年。もう一人はそんな彼の無礼に、顔をしかめながら入ってきた。

「俺は田島」
「だからお前は―――…はあ、俺は泉」

三橋の手を握り乱暴に上下に振る田島に、とうとう泉も諦めたらしい。溜息を吐いて、三橋に握手を求めた。驚いて動けない三橋の、田島に解放された手を、泉は優しく握り返す。じんわりとした温みに、三橋は理由もなくすぐったさを感じた。三橋から手を離し、泉は土で汚れた頬を掻く。

「汚れてて悪いな。俺ら遊撃班でさ、さっき帰ってきたばかりなんだ」
「三橋は伝令班だっけ?じゃあ沖や西広と同じだなー」
「え?」

沖、は恐らく他のメンバーの名前なのだろう。だが西広は三橋よりも階級が上にように見受けられた。うまく言葉を繋げられず口を開閉するだけの三橋を見て、何となく察したのか田島が説明する。

「西広は特別。あいつ、本部出身だからなー」
「そう、なんだ…」
「まあ、他にも本部出身はいるけどな」

そういうのは皆、参謀役なのだそうだ、まだこの部隊の事情を知らない三橋にとって、二人は何でも知っている人で、単純な彼は尊敬の眼差しで彼らを見つめた。そのキラキラした瞳に、泉は少し照れ臭そうに目を逸らして頭を掻いた。

「三橋―…って」

帰ってたのか。三橋を呼びに来たのだろう西広は、汚れたまままだ報告も済ましていない様子の二人に溜息を吐いた。

「もう夕飯だ。早く着替えてきなよ」
「あいよ」
「飯!腹へったー!」
「三橋はこっち。食堂に案内するよ」
「あ、う、うん」

***

三橋
ニシウラ部隊伝令班。出身が敵軍に領地占領され寝返る恐れがあると左遷

泉・田島
ニシウラ部隊遊撃班。上官と喧嘩したので左遷

阿部・栄口
ニシウラ部隊副司令官。優秀だが性格に難有で左遷

花井
ニシウラ部隊司令官。巣山を庇って左遷

水谷
ニシウラ部隊狙撃班。敵より味方の討伐数が多くて左遷


ニシウラ部隊伝令班。優秀な狙撃手だがメンタルが弱かったので左遷

巣山
ニシウラ部隊狙撃班。上官の裏取引を目撃したため左遷

西広
ニシウラ部隊伝令班。実は本部のスパイ

篠岡
ニシウラ部隊司令官補佐。迫って来た上官を断ったため左遷

阿部弟
本部所属の伝令。ニシウラ部隊の味方


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