何でも屋っぽいパロ
街の片隅にある喫茶店。そこのカウンターの一番左端に座りマスターに或るものを注文する。それが合図。
「…本当に、行くのか?」
「しっかりして下さい。他に頼れる所などないのですから」
凜とした姿勢で先を行く少女を、慌てた様子の少年が二人追いかける。
三人が入った喫茶店に看板はなく、屋根の端で風見鶏が揺れるだけだった。
***
店内は静かなものでBGMであろうクラシックが穏やかな空間を演出している。客の入りもまあまあ。目立たない所ではあるが中々に人気らしい。金髪の少年がそんなことを考察する間に、三人の中で紅一点だった少女はスタスタとカウンターに向かった。黒髪の少年がその後に続き、それに気がついた金髪も慌てて足を進めた。
こぢんまりとしたカウンターにはマスターであろうか深い緑色の髪をした少年が、マスターらしく洗い立てのグラスを丁寧に磨いている。そんな彼の目の前である一番左端の席に少女が座ると、それを一瞥したマスターは少し困ったような笑みを浮かべた。
「すみません、そこは予約席なんです」
「あら、そうでしたか。ポケモンの卵を戴けると伺ったのですが」
「…」
ちら、と先程よりも鋭さを帯びた瞳が少女と、その両脇を固めるようにして立つ少年達を品定めするように見つめる。こちらへどうぞ、と案内するマスターの笑顔に、今さっき垣間見た鋭さは微塵も窺いしれなかった。
カウンターの脇にある扉から繋がる廊下を最奥まで進めと小声で指示され、三人は今だ疑問は残るままそれに従った。薄暗く細長い廊下には、三人の足音しか響かない。その薄気味悪さに金髪は思わず身構えた。
どれくらい歩いただろうか。ようやっと開けたホールのような場所に着くと明かりのないそこから数人の気配と殺気を感じ、少年達は少女を庇うようにして前へ出た。
風を切る音。黒髪がその音源を見つけ足を振り上げると、靴底に当たったダーツが固い音を立てて床に転がった。
腰の武器に手を伸ばす二人に感心してか馬鹿にしてか、呑気な口笛を吹く音が聞こえる。
「へぇ、速いんだ」
「中々やりよると」
「wonderful!」
「あんまり勝手なことしちゃ駄目よ」
「…」
「見た目はそうでもねぇな」
「スゴいですね」
「可愛い子達じゃない」
「…お前ら少し黙れ」
「あはは。…じゃ、まぁ」
パ、と照明が点く。暗所になれた目がその強さに眩んだが直ぐに慣れた。ホール状になった部屋には革張りソファが幾つも置いてあり、そこに居た人々は三人ずつ程に分かれてそこに座っていた。
その上座、三人の正面のソファには青年が一人座っており、その左右の背凭れや肘掛けに二人の青年が座っていた。
「ようこそ、お客サマ」
真ん中に座る赤目の青年は柔和に微笑み、三人に空いているソファの一つを勧める。警戒を緩めない少年二人は左右に立ち、少女一人が柔らかいそこに腰を下ろした。
その様子を微笑ましげに見つめながら、赤目の青年は一応リーダーだと言った。彼を始めとして室内に揃ったメンバーは若い者ばかりだったが、実力と年齢が必ずしも比例するものではないことは三人もよく知っていたので、特に言及はしない。
事前に得た情報からこの組織の手腕は聞いていた。金さえ渡せばハッキングから護衛までなんでも請け負う『何でも屋』は裏業界では有名だ。こうも簡単に顔を見せるとは思わなかったが、依頼料にはその辺りの守秘も含まれるのだろう。
「で、御依頼は?」
青年が話を促す。少女の次の言葉に、周囲は興味津々だ。その点は子供らしいと言えるか。
「…私を護って戴きたいのです」
「その二人は護衛じゃあ?」
「俺達だけじゃ無理だ」
「相手と期間」
リーダーの右手側に居た青年が緑の瞳を眇め、ぶっきらぼうに問う。彼の反対側に居た青年が膝に置いたパソコンに何かを打ち込んでいった。
「…出来れば無期限。相手は…」
そこで少女は口を閉ざす。
「…言えないのか?」
「…」
緑目の青年が諦めたように溜息を吐いた。
少女の立ち振舞いや護衛の様子からして一般人でないことは明らか。そんな彼女が敵を言えないとすれば、身内か国家レベルか。
何にせよ厄介事には変わりない。
「厄介事には慣れっこだろ?」
心を読んだように囁いて赤目が面白そうに笑う。彼に敵わないことは熟知していたから、緑目は諦めて降参のポーズをとった。
「好きにしろ」
「ありがと」
にっこりと浮かぶ笑顔。これには勝てる気がしない。
状況を測りかねている三人に視線を戻し、赤目はソファから背を離した。
「依頼承りました。幾らでもウチに居てくれて構わないよ」
真っ直ぐ向けられた笑顔に、三人の胸は何故か高鳴った。途端周囲から歓声があがり、三人は驚きで益々顔を赤らめることになるのである。