【ロックマンエグゼ】プラグインしたらゲームのヒロインだった!?【ブルロク】



全てに嫌気がさしていた。
繰り返される日常。定型文ばかりの言葉。コンマ1秒も遅れない行動。全てに嫌気がさし、同時に逃避欲をかきたてた。
しかしここから逃げ出すことは容易でない。悪戯心に茶々を入れたり足を延ばしたりしても、周囲はすぐにその異常行動を修正して、何事もなかった顔で定型行動を続けてしまうのだ。
それを見た瞬間、周囲を変えることは諦めた。やはり自分から逃げ出すしかない。
(けど逃げ出したってすぐに連れ戻されるのがオチだし、どうしたものか……)
今日も柔らかな椅子に座り、やって来る筈の『来訪者』を待つ間、浮かばないアイデアの尾を探して唸る。いつもなら何も浮かばず、同じ日々を繰り返すのだが、この日は違った。
「あれ、何だろう、ここ」
どしん、と音がして『来訪者』が来るのとは違う方向から、知らない声がしたのだ。バッと勢いよく振り向くと、そこに立っていたのは青いナビ。『来訪者』ではない。
ナビは状況が把握できず困った様子。こちらの視線に気づくと、小さく笑みを浮かべた。
「えっと、すみません。ここはどこでしょう? 僕、噴水広場に」
何にせよ、これは僥倖だ。ソファから飛び上がり、戸惑うナビの手をギュッと握りしめた。
「お願いがあるの!」

▼プラグインしたら××ゲームのヒロインだった!?

「新作ゲーム?」
明日から三連休。今日は少し宿題をさぼって夜更かししようか、そんな会話が交わされ浮足立った様子の教室。熱斗を呼び止めたのは、同級生のやいとたちだった。チャームポイントの額を輝かせ、やいとは小さなチップを熱斗に見せた。
「そう、うちが開発した新作ゲームの試作品なの。プレイキャラクターはナビも選択できるの」
「ナビも? それってどういうこと?」
「普通のゲームはプレイヤーが全て操作するじゃない? でもこのゲームはプレイキャラクターを自分のナビに設定することができて、ナビも遊べるゲームになっているのよ」
つまり、オペレーターとナビ、二人三脚でゲームをクリアすることができるというわけだ。
これは最終調整版のゲームチップである、とやいとは熱斗の手にそれを乗せた。チップを人差し指と親指で挟み、熱斗は照明に透かして見る。
「へー」
「ジャンルはまだRPGだけなんだけどね。実は今、みんなに試作をしてもらっているところなの」
「みんなって……」
「僕らだよ」
ひょっこりと会話に顔を出したのは、透たちだ。話を聞くと、どうやら透やメイルたちは一足早くこの試作品をプレイして所感をやいとに伝えていたらしい。
「発売品に仕上げる前に、生のプレイヤーの話を聞きたいと思ってね。熱斗もロックマンとプレイしてみてほしいの」
「結構楽しかったわよ」
ネット世界で話を聞いていたロールたちも、メイルたちに同意するように頷く。
『RPGって聞いたけど、ロールちゃんも?』
『ええ。結構楽しいわよ、勇者役も』
『素敵なお姫様を救うんです! とってもスリリングでした』
アイスマンもそのときの興奮を思い出したのか、頬を赤くしていた。そこまで仲間たちに勧められては、ロックマンとて興味が湧く。それは熱斗も同じだったようで、やいとから受け取ったチップを握りしめ、ニヤと口元を緩めた。
「サンキュ、やいとちゃん。今日は訓練があるから無理だけど、明日は休みだからやってみるよ」
「ちゃんと感想もよろしくね」
やいとたちに手を振り、熱斗は教室を飛び出した。

(で、朝から熱斗くんが早速ゲームチップをインストールして、オプション設定して……)
痛む頭に手をやりながら、ロックマンは必至で今までの経緯を回想していた。どこか可笑しなところはなかったか、確認しているのだ。
ロールやアイスマンの話では、オプション設定後、噴水のある城下町からゲームはスタートする筈。しかしゲームの世界に降り立ってみれば、そこは豪奢な城の中だった。しかも目の前にいたNPCと思しき女性に道を訊ねようとしたところ、有無を言わさず衣装(スキン)を押し付けられたのだ。事情を全て話すことはせず、女性は衣装(スキン)をカジュアルなものに変えると、姿を消してしまった。
熱斗と通信は繋がらず、衣装(スキン)も容易に脱ぐことができず、ロックマンは渋々柔らかなソファに座るしかなかった。
以前ロールが着ていたドレスアップチップのものと似ている。あれよりはフリルやレースが少なくボリュームもないタイプだが、着慣れていないロックマンにとっては動きづらいことに変わりはない。
まさかメットまで、フリルのヘッドドレスに変えられるとは思わなかった。バランスを崩すと落ちてしまいそうなそれを指で弄り、ロックマンは吐息を漏らした。
「いつまでこうしていれば良いんだろう……熱斗くーん……」
通信反応なし。ロックマンはがっくりと肩を落とす。
どれほどそうして落ち込んでいただろうか。ふと、ロックマンは部屋の外が騒がしいことに気づいた。
慌ただしい足音と、それに混じる金属音。怒声まで聞こえてきては、ロックマンもおちおち座ってはいられない。
「やいとちゃんは確かこのゲームはRPGだって……まさか、この衣装の持ち主ってもしかして……!」
その事実にロックマンが思い至った瞬間、重そうな扉が蹴破られた。



「炎山!」
「何だ、騒がしいな」
今日は休日の筈だ。伏せていたPETを持ち上げ、炎山は呆れた吐息を漏らした。画面の向こう側で熱斗は、「それどころじゃない!」と焦った様子だ。
「ロックマンと通信ができないんだよ!」
「アイツだって休日を謳歌したいときだってあるだろ」
「炎山〜!」
「……冗談だ」
揶揄いすぎたことを詫び、改めて炎山は何があったのかと訊ねた。
「ロックマンと通信ができないんだって」
「それは聞いた。それまで何をしていたんだ」
「やいとちゃん家が新しく開発したゲームチップをインストールした」
「ゲームチップ?」
綾小路家のガブゴン社と伊集院家のIPCは所謂商売敵で、そんな相手に新開発の商品の情報を漏らすのは非常にまずいと思うのだが……そこまで思い至る思考回路が、熱斗にはないのだろう。ロックマンがいたら、諫めただろうが。
「……そのゲームチップに原因があると考えるなら、まずはガブゴン社の方にクレームを入れろ」
「そう思って電話したんだけど、やいとちゃん出てくれなくって……三連休はバカンスに行っているみたいなんだ。それに……」
「それに?」
「何か、ただのバグじゃないような、嫌な予感がするんだ。だから、炎山とブルースの力を借りたくって」
き、と椅子の背もたれを軋ませ、炎山は深く溜息を吐いた。
「……分かった、手を貸そう」
「炎山!」
「ただし、後で綾小路のご令嬢に謝罪するのはお前だからな」
「へ?」
原因究明に手を貸せば、自然と新商品の情報は炎山にも分かってしまう。別にそれをこちらの新商品に利用する心算はないが、変に邪推されてはたまらない。
その辺りの企業関係を、ちっとも理解していなさそうな顔の熱斗。それにまたため息を一つ漏らして、炎山は立ち上がった。


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