フィンラル推しによる本誌妄想



・単行本派なのでダークトライアドの目的とか性格が良く分かっていないし、展開も把握していない状態ですが、推しがまだ本格活躍していないという話は聞いているので、今のうちに妄想だけしておこうかと思った(言い訳)
・敵キャラは適当なモブだと思ってください。

「へぇ、面白い、空間魔法か。ハートとクローバーを行き来できるほど範囲が広い……」
ニヤニヤと口元に笑みを浮かべながら、フィンラルを見やる。視線を受けたフィンラルは少し肩を竦め、しかし嘗てのようにヤミたちの背後に隠れることはせず、睨み返した。
「それ、行ったことない場所へも行けるの?」
「手前に教える必要ねぇだろ」
咥え煙草のヤミが、魔力を纏った刃を振るう。斬撃をヒラリと交わしながら、相手は余裕を崩さず顎を撫でて質問を続けた。ピリ、とフィンラルの産毛が静電気を受けたように痛む。
「教えてくれても良いだろう?」
「……見えない範囲は残念ながら、そうできませんよ」
「ふーん……その言い方だと、条件さえ合えば可能なのかな」
しまった、とフィンラルは歯を噛んだ。微かな動きだったが、それで相手は十分確証に足ると得心したらしい。満足そうに頷くその背後で、アスタが大剣を振りかぶった。それをヒョイと避けたところへ、ラックたちの攻撃魔法が炸裂する。爆煙の中へ姿が消えたうちに、フィンラルはバネッサと共に後方へ下がった。
「馬鹿正直に返事してるんじゃないわよ」
「う、すみません……」
バネッサは冗談だと肩を叩き、フィンラルの意識を特攻組の支援へ向けさせた。

▲というやり取りが序盤のどこかであったこと前提で、最終決戦▼

いつかも見た、黒く禍々しい穴がぽっかりと開いている。
「あちらの世界の扉が……開いた……?!」
ゾッと背筋を震わせるネロの耳に、高笑いが聞こえた。多くの犠牲と多くの手順を踏んで、漸く開いた目的地への扉に、興奮が隠し切れないのだろう。阻止することができなかったと、黒の暴牛を始めとした魔導士たちは顔を歪めた。
「まだだ」
諦め漂う陣地から飛び出したのは、アスタとユノだ。それに同意し、ヤミも飛び出す。
「あいつらを足止めして、ゲートを閉じる。あの儀式はそう簡単に乱発できるもんじゃねぇ」
それなら、まだこちらに勝機は残っている。ヤミの言葉に希望を見出し、ラックとマグナ、ノエルたちも飛び出した。
「そうだね、閉じられたら大変だ。その前に――」
ズン、と重い風がフィンラルの肌を撫でた。それを自覚したとき、フィンラルの身体は宙吊りにされていた。
「ぐ……!」
「フィンラル?!」
傍らにいたバネッサが一番に気づき、声を上げる。他の敵はアスタたちに任せ、ヤミは踵を返して刃を振るった。
「手前、俺のアッシーくんに何してんだ!」
「アッシーくん、良いねぇ。その呼び方」
ヤミの斬撃を空中で器用に除け、フィンラルごとゲートの方へ近づいていく。
「アッシーくんの空間魔法は、魔でマーキングすればどこへでも行けるんだろう? じゃあ――しっかりマーキングしてから帰っておいで」
喉を掴まれているため息苦しさに顔を歪めるフィンラルの耳元で囁く。それから物でも放るように、フィンラルの身体が投げ出された。
「え」
最後の言葉の意味すら理解しきれていないうちに、落下していく身体。フィンラルは自身の落下地点が禍々しい闇の世界であることを察し、咄嗟に別の方向へ空間を開こうと手を動かした。
「だ〜め」
「うぐ!」
しかしアスタたちの相手をしていた筈の敵が、フィンラルの魔の動きを察知してか腕を蹴り上げる。痺れた腕に気を取られたうちに、さらに腹部へ踵を立てられたことで落下速度が上がった。
「フィンラル先輩――!!」
アスタの背丈に反比例した大声を最後に、フィンラルはゲートの中にその姿を消してしまった。
人一人を飲み込んでも、ゲートは禍々しさを変えずに鎮座している。
ヤミはギラリと行く手を阻む敵を睨んだ。
「手前……」
「怖い顔をするな、ヤミ・スケヒロ。あの空間魔導士の力なら、少しすれば戻って来られるだろう」
「そんな! あちらの世界とこちらの世界の壁を越えられるほどの空間魔法なんて、そうそうあるわけない!」
ネロが怒り露わに声を荒げる。それを受けても、ニヤニヤとした相貌を崩さない相手に、ヤミはますます眉間の皺を深くした。
「フィンラルを試したな?」
「信じてやれよ、ヤミ・スケヒロ。仲間なんだろう?」
「手前が言うな!」
忌々しく吐き捨てて、ヤミは飛び掛かった。

暫く攻防を繰り返していたとき、それは唐突に現れた。聞き覚えのある特有の音と、何度も見た穴。空間魔法だ、とノエルが気づいた次の瞬間、そこから腕が伸びてきた。ズリズリ、と泥から這い出るように姿を現したのは、フィンラルだ。
「フィンラル!」
ヴァルキリードレスで敵を振り払い、ノエルは肘と膝を地面につくフィンラルのもとへ駆け寄った。
「酷い……!」
ぐったりと肩で息をするフィンラルは、身体が重いのか殆ど寝転がるような体勢。ローブや服は破け、肌は煤や血で汚れている。足の動かし方から、左足は折れているようだ。
その姿が嘗て、弟の空間魔法で傷だらけになったときの姿と重なり、アスタの腹がグワリと煮えたぎった。
「お前ら……!!」
「あっちの世界の歓迎は手荒いからね。でも、その程度で済んだし、世界の壁を越えられたんだから上出来じゃん。まさに『限界を超え』たってやつ?」
ケラケラと笑う顔を殴りたい。ノエルは涙の浮かぶ瞳をキッと吊り上げて敵を睨んだ。そちらへ気を取られたばかりに、ノエルは背後に現れたもう一方の敵によって遠くへ吹き飛ばされた。
「きゃ!」
ヴァルキリードレスのお陰で、ある程度衝撃を緩和することはできた。しかし壁に叩きつけられたことで息が一瞬止まり、ノエルは膝をつく。その間も、敵は蹲るフィンラルの側へ立ち、ボロボロの彼を見下ろした。
「で、マーキングはできたのかな?」
「……して来なきゃ、何度、も落とすつもり、だろ」
肘と腕で身体を起こし、フィンラルは顔を上げる。額を切ったのだろう、ダラダラと流れる血が、彼の左目を隠していた。
「理解が早くて助かる。なら、次のお願いも分かるだろ」
「なに、が、お願い、だ……」
脅迫に違いない、とフィンラルは吐き捨てて口元を袖で拭う。離れた場所にいるバネッサが、彼を手招いた。空間魔法を使ってこちらへ来いと言っている。フィンラルはうまく力の入らない腕を掲げた。
彼の頭が入れそうなほどの空間が、ゆっくりと開く。
「そうじゃない」
「っ!」
ぱき、と音がした。バネッサの前に開きかけていた空間も、フィンラルの前に開いていた空間も、同時に霧散する。硝子が割れるような音を立てた腕を踏みつける足から取り戻そうと、フィンラルはもう片方の腕を動かす。しかし足はびくともせず、さらに力を込めてくるのでフィンラルは噛みしめた歯の隙間から悲鳴を上げた。
「ふん、魔力切れか」
「マーキングして、壁を越えたから? ちょっと物足りないんじゃない?」
「その前に十分空間魔法を使っていたからな。本来の魔力なら、四人行き帰りするくらい十分だろう」
そういうものか、ともう一人は良く分かっていない様子だ。
腕から足は退いたが、痛みが脳を焼き切る感覚に、フィンラルの意識は途切れる直前だった。その様子を知りながら、乱暴にローブを掴んで身体を持ち上げようとする。しかしあちらの世界の歓迎に揉まれたローブは簡単に千切れ、少し持ち上がりかけたフィンラルの身体はズルリと地面へ転がった。端切れとなった黒い布を放り捨て、今度は首を掴んで持ち上げた。
「フィンラルを離せ……!」
「何考えてるか知らないけど、僕とヤろうよ!」
そのまま浮き上がる敵へ、雷と炎の渦が迫る。ラックとマグナは、その攻撃を盾に近寄ってフィンラルを奪還しようと腕を伸ばした。しかし後方から現れた敵によって地面へ叩きつけられる。
「罠魔法――」
「鏡魔法――」
「そういうの、飽きたよ」
追撃しようとするゾラたちを薙ぎ払い、三人はひとところに集まる。まるで人形でも持つように、無造作にフィンラルの身体を引きずり、ヤミたちを見下ろした。
「そのゲートはあげるよ、好きに使うと良い」
「こいつがあれば、自由に行き来できるっぽいし?」
「そんな都合よいことさせるわけねぇだろ」
「無理するな、ヤミ・スケヒロ。もう魔力も底を尽きかけているだろう」
「……」

「――何、人の兄を使って好き勝手やろうとしてるんですか?」

ブグリュ――独特な音を伴って、空間の一部が削れる。咄嗟に避けたことで敵がそれを食らうことはなかったが、突然現れた魔力の気配に驚いているようだ。
アスタたちも、現れた人物に目を丸くする。
「お前……!」
「全く……舐められたものですね」
黄金の騎士団を示すローブこそなかったものの、攻撃的空間魔法の魔力を纏っているのは嘗ての副団長――フィンラルの弟であるランギルスだった。

▼この後ランギルスの助力でフィンラル取り戻すでもいいし、そのまま浚われちゃうでも良いと思う▼


WJ

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