#劇場版ブラクロにありそうなこと(2)



▽第三作
・時間軸は第二章までの半年間。
・性格逆転する反転世界へ迷い込む。
・メインはアスタとノエル。他のメンバーは反転世界の人物。

「だりゃあああ!!!」
気合の声と共に、鍛えた腕で大剣を振り下ろす。砂で作られたゴーレムが、大剣の一閃で形を崩して消えていく。
「くそ!」
ゴーレムを操っていた魔導士は、悪態をついて次の攻撃を繰り出そうと魔導書を開いた。
「させない!」
――水創成魔法『海竜の巣』!
魔導士の放った砂の礫は、大剣を持って突進する少年へ向かう。しかし、少年の背後を駆けていた少女が杖を振るうと、球体の水がバリアとなって礫を防いだ。怯んだ魔導士は力で敵わないと思ったのか、踵を返して逃げ出そうとする。
魔導士は魔宮の奥へ続く扉を目指したが、それはどこからか飛んできた雷と炎を受けて爆発した。
「おいおい、どこ行くんだよ」
「あはは、やーっと見つけた」
瓦礫を踏みつけて現れたのは、二人の青年。彼らが持ち上げた手に炎や雷が生み出されるのを見て、魔導士は顔を青くして後ずさった。
その隙を見逃さず、水のバリアから飛び出した少年は大剣を振り上げる。
無防備になった後頭部へ、ゴツン、と大剣の剣脊が振り下ろされた。
「グエ」と潰された蛙のような声を上げて、魔導士はその場に倒れ伏した。
青年の一人が魔導士を拘束する。それを見て、少年はホッと息を吐いて、大剣を魔導書へしまった。
駆け寄ってきた少女も、少年の無事と事態の収束をその目で確認する。それから小さく息を吐いて、肩にかかっていた銀髪を手で払った。
「ふ、フン、私の援護があればこんなものよ」
「サンキュ、ノエル」
「ぐ……」
炎拘束魔法で四肢を封じられた魔導士は、地面に擦り付けていた顔を上げ、少年を睨み上げた。
「お、お前らは……」
互いに労いの言葉を交わしていた少年たちは、魔導士を見下ろして胸を張った。
「クローバー王国の魔法騎士団――黒の暴牛団だ!」



嘗て人間を滅ぼしかけた魔神と、それを討ち滅ぼした少年の伝説が今なお語り継がれる地――クローバー王国。魔法帝を頂点として一線級の魔導士で構成される魔法騎士団が九つあり、国内外の治安維持に従事している。その中でも、最低最悪と名高く、しかし現在最も躍進する魔法騎士団『黒の暴牛団』に所属するアスタたちは、現在とある任務で魔宮にやってきていた。
「これで十五人目、と」
マグナが拘束した魔導士を、フィンラルは開いた空間へ放り込む。この先は騎士団本部へ繋がっており、空間の向こうでは魔法帝側近たちが尋問のため控えている。
「先遣隊の情報によれば、これで最後かな」
魔法帝から受け取った任務書を確認し、フィンラルは「うん」と頷いた。
今回黒の暴牛団に課せられた任務は、クローバー王国の外れにある魔宮の探索と、近頃その付近で目撃される不審魔導士たちの捕縛であった。初めの方に捕縛した何人かの話によれば、この魔宮の奥に眠る魔道具が目当ての盗賊団であるらしい。
「じゃあ、俺は本部の方に戻るから」
「よろしくお願いします!」
「私たちは、奥の魔道具を保護すれば良いのね」
「気を付けてね」
ヒラリと手を振って、フィンラルは自分の開けた空間へ消えていった。それを見届けてから、アスタたちは「さて」と進行方向へ視線を向けた。
「……どうするのよ」
先ほど、ラックたちが破壊してしまった奥へ続く通路を見上げる。
入り口近くで通路が二手に分かれていたので、アスタとノエル、マグナとラックで別れて道を進んでいたのだ。マグナの話では、一本道を進んでいたところ、この場所に辿り着いたらしい。
「こっちも一本道で他に部屋も見当たらなかったし……宝物庫はないのかしら?」
「ここじゃない?」
魔感知に優れているラックはウロウロとしていたが、やがて瓦礫の一つを『雷神の長靴』で蹴り上げた。すると、地下へ続く階段が姿を現した。
「この下から、高い魔の気配がするよ」
「よっしゃ、さっさと」
階段の奥を覗き込み、探索しよう、と続けようとしたアスタは、言葉を止めた。小さな石を踏み、足を滑らせたのだ。
「へ」
「あ」
「あ?」
「ちょ、アスタ!」
倒れていくアスタを気づかって手を伸ばしたのは、ノエルだ。しかし二人とも踏ん張ることができず、地下へ続いている穴へ揃って落ちて行ったのだった。
「うわああ!!!」
「きゃああ!!!」
アスタは、チカ、と何かが点滅する光を見た気がした。

「おーい、大丈夫―?」
どうやら気絶していたらしいと思ったのは、闇の中そんな呼び声を聞いたからだ。
アスタは目を開く。崩れかけた天井から陽が零れる魔宮の中、アスタはノエルと共に床に寝転がっていた。顔を覗き込んでいたラックが、安心したように目元へ指をやる。
「良かった。急に二人とも上から降ってきたから」
「え、あ……すみません」
ノエルも気が付いたようで、先ほどと違う風景に少し困惑しているようだ。
元々古びた魔宮だったが、陽の光が射している様子はなかったと記憶している。しかしラックは気にした様子を見せず、少し離れたところにいるマグナへ声をかけた。
「マグナー。二人とも気が付いたよー」
「そうですか」
おや、と微かな違和感がアスタの胸に過る。身体を起こしたアスタたちの方へ歩み寄ったマグナは、二人に大きな怪我がないことを確認すると、ホッと息を吐いた。
「怪我がないようで何よりです。立てますか?」
「は、はい……って、マグナ先輩?」
「はい」
どうかしたか、とマグナは訊ね返す。いや、こちらが聞きたい、とアスタは言葉を飲みこんだ。隣を見ればノエルも驚いて硬直しており、アスタが可笑しくなったのではないと分かって安心した。
マグナは、髪を上げていなかった。サングラスも、ピアスもしていない。メッシュの入った髪を七対三に分け、服も襟元までボタンをぴっちりと閉めている。
言葉を止める二人を見て首を傾げながらも、マグナは怪我がないようなら帰還しようと言って、さっさと魔宮を出て行く。
「え、もう? 探索は?」
「二人が気絶している間にやったけど、何もなかったよ」
ラックが腕を引いて二人を立たせる。いつもなら物足りない、と残念そうな発言をするラックだが、今は心底安心したような表情だ。
「早くこんなところ出ようよ。怖いのは嫌だな」
「え」
ラックの発言とは思えない。そう言えば、ノエルが目を覚ましたとき目元を拭っていたが、まさかあれは涙だったのだろうか。
そう思い至り、ノエルの背筋がゾワリと鳥肌立った。
二人はまだ知らない。これから向かう黒の暴牛アジトで、更なる衝撃が待ち構えていることに。

▲簡単な設定▼

アスタ
魔宮の魔道具によって反転世界に迷いこんだ人その1。この世界では家族がいるかなと思ったけど全然そんなことなかった。シスター・リリーが煙草と暴言装備のヤンキーシスターになっていたことに動揺を隠せない。どんな世界のリリーもリリー……と思おうとしてしまった瞬間もあるが、やっぱり元の世界のリリーこそ自分の愛するリリーと思い直し、リリーの愛から元の世界へ戻る方法を探すことに決めた。

ノエル
迷い込んだ人その2。アジトに戻ったら一人だけ実家通いだと知らされて驚いた。恐る恐る帰宅したら兄姉はフレンドリーだし母まで存命だったのでさらに驚いた。初めは偽の世界だからと言い聞かせていたが、優しすぎる家族像に浸っていたいと思うようになってしまう。元の世界へ戻ることに抵抗を見せるが、アスタの姿を見てここは自分の本当に生きる世界ではないと思い直す。

ヤミ(反転世界)
優しい笑顔を軽率に浮かべてモザイク一歩手前。団員を気遣って、帰ると温かいココアやミルクを淹れてくれる。荒事は遠慮したいタイプだが、仲間はキッチリ守る。

フィンラル(反転世界)
攻撃的空間魔法を使える。貴族の落ちこぼれではあるが、プライド高く、アスタたちを見下すツンツン発言を繰り返す。瞬発力と正確さは健在。

バネッサ(反転世界)
お淑やかな魔女。露出してない。酒も飲まない。ルージュはいるが、回避能力は低い。

マグナ(反転世界)
優等生。ピアスなし、サングラスなし。メッシュありだが前髪は下ろしている。真面目に任務をこなしている。

ラック(反転世界)
泣き虫、怖がり。痛みに弱く、すぐ号泣する。精神年齢が幼い。

ゴーシュ(反転世界)
妹と仲が悪い。一応、生活費の援助はしているが、滅多に会いに行かない。マリー(反転世界)は完全に兄を嫌っているわけではなく、会えないことに寂しさを感じている。

チャーミー(反転世界)
ショートヘア。縛ってない。食べることがあまり好きではない。体形はスリムな方。それよりも綿魔法で作った布団で眠っていたい派。

グレイ(反転世界)
女は着飾ってなんぼ、ティーンエイジャーは遊んでなんぼの陽キャ(24歳)。ひらひらとした可愛らしいスカートとほどほどに露出した服。合コン三昧。

ゴードン(反転世界)
白塗り黒い縁取りはそのまま。モヒカン。声は大きい。ひと昔前のロックスターのような服装(ノースリーブ)。女性人気は高いらしく、殆どアジトではなく女性宅に泊っている。

ゾラ(反転世界)
マグナに次いで真面目に任務を行う。その姿は最早忍び。父は健在。殆ど無口でしゃべらないが、それは上がり症で緊張しているから。

ヘンリー(反転世界)
ウロウロ歩き回る。早口。アジトを恰好良いロボットにしたくて、日々見取り図を描き続けている。

ユノ(反転世界)
アスタと同じく孤児院出身のまま。女たらし。ベルは心底、彼が嫌いらしく、契約したことを後悔している様子。そんな彼女も可愛い、とユノは口説いている。

ミモザ(反転世界)
お嬢さまツンデレ。「べ、別にアスタとノエルのためじゃないんだから!」

クラウス(反転世界)
むっつりスケベ。

ランギルス(反転世界)
兄が大好き。デレデレだが、他のメンバー(特にアスタ)には辛らつ。


WJ

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