9.
「そっか…新しい映画出るんだ…」
嬉しい気持ちに、悲しい気持ち。
自分から連絡を絶っていたくせに、知らない事に苦しい。
杏樹は自分から楸の出演しているものを見ない様にしていた。
嫌な所を見てしまうからだ。
好きな人が、自分の恋人が。
自分以外の人とのラブシーンなんて見たくは無い。
こう、思ってしまうのは私だけなんだろうか?
杏樹は、その度に自分に問い質す。
こんな醜い嫉妬を感じるのは、私だけ?
他の人はこんな事感じないのかな?
こんな風に感じて、喜べないなんて彼女失格だよね…
と、そう思う自分を蔑んでいた。
例え、劇中の出来事だとしても、あると言うだけで辛く感じている。
我が儘なのは、分かっている。
だけど、心が苦しい。
別れれば、何かが変わると信じていた。
彼を恋い慕う気持ちも。
醜い嫉妬心も。
だけど、それは変わる事無く。
会えない分、余計に強くなっていった。
その度、何時も杏樹は思うのだ。
楸にこの気持ちを話していれば、何か変わった?
今みたいにならなかった?
だが、答えは返らない。
それは、過去で。
今が、現実だから。
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