5.
新しい住所に変わって、早二ヶ月が経とうと言う所。
ポストの中に1通の手紙が入っていた。
珈琲を飲みながら、裏を見る。
親しい友人の一人から。
何々と、開封すると中身は同窓会の案内の通知だった。
〜♪
タイミング良く、携帯の音楽が鳴る。
名前を見ると、手紙の主からだ。
「こんばんは。聡君。」
「久しぶり。杏。同窓会の手紙は届いた?」
うん。
と、小さく答える。
「早速なんだけどさぁ…」
と、聡の口ごもった声が携帯から聞こえてくる。
どうしたのだろう?
そう、杏樹は言葉にした。
「どうしたの?何か困った事あった?」
携帯からは相変わらず、あーやらうーやら。
唸るような声が聞こえてくる。
「どうしたの?聡君。変だよ?」
困ったように、杏樹は問うと。
「あのさ…手紙送ったろ?」
「うん。」
「楸にも送ったんだけどさ…」
ぁ…
と、悟った様な声が杏樹の口から小さくこぼれた…。
きっと、次の言葉は私が一番聞きたくない言葉かもしれない…
「あのさ、今回楸も参加するって言ってんだけど…杏、どうする?」
やめとくか?
と、携帯越しに声が聞こえてくる。
息が詰まるような、圧迫感が胸を締め付ける。
やっぱり…
と、杏樹は思った。
楸は前回の時は、売れ始めの頃で忙しくて出席できなかった。
今回は、仕事も軌道に乗っていて時間の都合がつきやすくなったのかな…
と、杏樹はふと考えた。
ただ、何となく分かるのは。
また出会ってしまうと、きっと私は捕まってしまう。
「…杏?……やっぱり今回はやめとくか?」
聡の労わる様な、少し低めでも優しい声で訊ねてくる。
水無月聡は、楸と杏樹の共通の親友。
二人が付き合っていたのを知っているし、今も楸が杏樹を愛しているのも知っている。
そして、杏樹も楸を愛していて、それなのに何故楸から逃げているのかも。
聡は知っている。
深呼吸して、息を整えた杏樹は小さく
「うん…。私…今回は欠席するね。」
と、呟いた。
聡も返事を知っているかのように、
「そうだな。杏の為にはそれが良いかも知んないな。」
と、答えた。
「でも…本当はさ、お前ら会った方が良いと思う。好き合ってるんだから。」
と、諭すように言葉をこぼした。
その言葉に、杏樹は苦笑する。
「駄目だよ…出来ない。辛い…」
その言葉を漏らしながら、目に涙が溜まっていく。
「好きだけで…付き合えた…あの頃と違うよ。もう…」
ごめんね。
そう言って、杏樹は通話を切る。
ぽたり。と、テーブルに涙が落ちる。
「楸…」
携帯を放り出し、両手で頭を抱え泣いた。
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