「頭痛ぇ…」
「大丈夫か?薫…」

昨日、気が付いたら家の自分のベッドで寝ていた。
ガンガンと響くような痛みを訴える頭に、酒を飲んで酔ったことを思い出した。
けれどどうやって家に帰ったのか全く思い出せず、母さんに聞いたところ、また金髪のイケメンが運んできてくれたわよ、と答えてくれた。
どうやら酔っぱらった俺を輝くんが送ってくれたらしい。
そう言われると微かに、輝くんにおんぶされながら夕日綺麗だなーとかお呑気なこと考えていたような憶えもある。
今日は朝来てくれなかったが、昼には会えるだろう。
ちゃんとお礼を言わなければ。
酔った自分というのはどんな風になってしまうのか全く分からないが、世間一般に酔っ払いとはウザイものだから、きっと俺もそうだったに違いない。
まぁその辺はとりあえず置いておいて今現在問題なのはこの頭の痛みだ。
尋常じゃない。
声出すと響くし、頭痛からくる吐き気までもよおしてしる。
しかしまさか二日酔いですだなんて言えるはずもなく、俺はしっかり体操服を着て校庭に立っている。
そう、この状態でまさかの体育だ。

「なぁ、適当に理由つけて休めよ…」
「あー…そうしたいけど…マジ罪悪感」
「言ってる場合かよー…」

唯一事情を知る圭都は隣を走りながら俺を気遣ってくれる。
そうだな、準備運動の校庭走だけでかなりやばい状態には近づいている。きっと俺の顔も蒼白に近いんだろう。

「…とりあえずちょっとだけ参加して、マジやばそうだったら保健室行くよ」
「わかった…。でも本当無理すんなよ?」
「おう…」

かなりジャンキーだぞ今の俺。
あのジュースみたいな酒一杯でこんなになるなんて…何という下戸…
俺コンパとか楽しめないタイプだな。
大学の、サークルのコンパとかそういうの楽しみにしていたのに、早々に打ち砕かれた気分だ。泣きたい。

「それにしても滝本先輩がおんぶで送ってくれるなんてなぁ…」
「あー…、うん…」

そう、それだ。
ぶっちゃけこの二日酔いとか辛いけどプライスレス!と思ってしまうくらい、輝くんがおぶって送ってくれたことが嬉しい。
思い出して顔がにやけそうになる。
きっと集会だって途中だったはずだ。
あんなに仲間に囲まれた中で、俺を運んでくれたその事実。
しかも血を流していたとかそういうわけじゃないのに、だ。
ああもう、嬉しいばか。

「っ、とっ、ぅわ!」
「薫!?」

そんな浮かれたことをニヤニヤ考えていたせいか、校庭の砂に足を滑らせてこけた。
隣を走っていた圭都からは驚きと焦りが混ざった声が聞こえた。

「大丈夫か、薫!?」
「いってー…、あー…すりむけた…」
「馬鹿!だから休めっつったじゃんか!もう保健室行こう!」
「はーい」

こけた時にズったようで、膝が盛大に擦り剥けて血が滲み始めていた。
最近血を流すことに慣れてはきたものの、まぁ痛いものは痛い。
それを見た圭都は少し怒ったような声を上げて、俺の肩に手を回し、大声で先生に保健室に行く旨を伝えそのまま校舎の中へ入って行った。




「うへぇ…痛そう…」
「痛いよ…」

保健室に着くと、保健室の先生が丁度出るところだった。
俺よりデカい怪我をした生徒を病院に連れて行くのに付き添うらしい。
俺の膝の怪我を見て、その程度なら平気ね、と言い捨て圭都に手当を頼んで早々に保健室を去っていった。
仕方ないとはいえ、見捨てられた感が切なかった。
そして中に入って膝を荒い、椅子に座ると圭都が改めて傷口をまじまじと見て顔を歪めた。

「消毒しみるかも」
「仕方ないだろ。ちゃっちゃとやって」
「うぅ…」

怪我をした俺より圭都の方がビクビクとしていて俺は思わず噴き出してしまった。

「じゃぁ、やる…」
「おい」
「っ!?」

圭都が意を決して消毒液を手にした瞬間、スパーンと勢いよく保健室の扉が開いた。
ビックリしてそちらを見ると、ものすごく不機嫌顔の輝くんが立っていた。
は?なんで?

「あ、輝くん…?」
「たたた滝本先輩!?」

驚く俺のそれ以上に圭都は驚いて消毒液を床に落とした。
どんだけ驚いてるんだお前。
俺は一度だけ圭都に呆れた視線を送ってから、輝くんに視線を戻すと、輝くんは俺ではなく圭都を見ていた。

「おい、お前」
「ははははいっ!」
「出ていけ」
「へぁ!?」

突然の言葉に圭都は素っ頓狂な声を上げた。

「後は俺がやっから出てけっつってんだよ」
「や!あ、あの、でもっ…」

輝くんの機嫌は見る見る落下していくが、圭都は俺を心配しているのかなかなか出ていこうとしない。

「圭都、俺は大丈夫だから、行って」
「でも薫…っ」
「大丈夫。携帯持ってるし、何かあったら呼ぶ。な?」
「う、うん…」

最近の輝くんを考えると、何かある可能性は低いが、圭都を安心させるためにニコリと笑って言う。
圭都は俺の言葉に渋々といった様子で保健室を出た。
圭都が保健室を出た瞬間、輝くんは扉を閉めて鍵まで閉めた。
あ、やばい。
よくわからないけど、なんかものすっごい怒ってる。
何かあるかもしれない圭都、どうしよう。

「薫…」
「はい…」

輝くんは睨み付けるような視線をそのままに俺に近づいてきた。

「俺、前に言ったよな?」
「え?…ぁ、いっ…!?」

輝くんの言葉に首を傾げた途端膝に激痛が走った。
何かと思って目を向けると、先ほど出来たばかりの傷口に輝くんが爪を立てていた。
やばいすっごい痛い!

「い、痛っ…、痛い、輝くっ…」
「他の奴に、血、触らせてんじゃねぇよ」
「っは、ぅ、いたっ…痛いっ…」

ギリギリと食い込むように立てられる爪。
あまりの痛みに生理的な涙が滲んできた。

「あき…く、やめてっ…」
「っとにムカつくんだよっ!」
「っ…!」

やめてほしくて痛みであまり力が入らない手で輝くんの肩を押すと、その手を掴まれて引き上げられ、そのままベッドに投げ飛ばされた。

「何、輝く…どうし…っ」
「てめーの血は俺のもんだっつってんだよ」
「ぅっ、い!」

ベッドに倒れこんだ俺の上に、輝くんは馬乗りになってきて再び足の傷に爪を立てた。
何、何が起こってるんだこれ。
痛いしこわい。
こんなのは最初の時以来だ。
だって輝くんは血が欲しい時だって、こんな乱暴にしてきたりしなかった。
血が出ていれば満足してくれて、それを抉るだとか、そんなことはしてきたことなかった。
俺は訳が分からないのと、痛みと、やめてほしいのと、色んなことが混ざってとにかくバタバタと抵抗するように暴れた。

「輝くんやめてくださっ…!」
「うるせぇ」
「ひっ!?」

バタバタと暴れる俺の両腕を片手でつかんで、頭の上でまとめ上げられたと思ったら、首元に輝くんが顔をうずめてきた。
ぬめり、といつもは傷口だとか、血が付いた場所に感じる感触が鎖骨あたりを襲った。
けれど今そこに血はついていないし、血だって出ていないはずなのに、どういうことだこれは。
両手を拘束されて、足の傷口に爪を立てられ、俺は暴れることが出来なくなって固まったままガタガタと震える。
輝くんをこんなに怖いと思ったのは久しぶりだ。
どうしていいのかわからない。
何をこんなに怒っているのかもわからない。
ただひたすら怖かった。

「あきらく…なに……っい!?」

先ほどまでぬとぬとと鎖骨を張っていた感触がなくなり、代わりに鋭利なものが突き立てられる感触がした。
ピリ、とした痛みが走り思わず声を上げてしまう。
これは輝くんの歯?なに、どういうこと?輝くん、俺の首筋に歯立ててんの?なんで?
離れる気配のない首筋にあてられた歯に恐怖していると、そのままブチリと嫌な音が体内に響いて、目を剥くほどの痛みが走った。

「ぃ、あ、ああああああ…っ!!?」

最後の方はもう声にもならなかった。
輝くんの歯が、肌をがっつりと貫通していった。
嘘だろ、何、どういうことこれ
ていうか人の歯で人の首にこんな歯立てられるもんなの?どんな顎の力だよ
声も出せずにそのままになっていると、輝くんが首元から顔をあげた。
俺の血だろう、赤い液体が輝くんの口元からツ、と垂れて、それをペロリと舐め上げた。
その表情は恍惚としていた。
だめだ、意味が分からない。
そしてこんな事されて、今も痛すぎて声出せないくらいなのに、俺に跨って俺を見下ろす輝くんカッコいいとか思っちゃってる俺自身がもっと意味わかんない。
いや、マゾではないんだけど。
はくはくと俺は金魚みたいに口をパクパクとさせて息を吸い込む。

「薫…」

そんな俺の頬に、輝くんはそ、と手を添えてきた。
うわ、ばか。
こんなことをした直後に、その優しい手つきはやばい。
馬鹿だとは思いつつ、ときめく心臓は正直で、きっと恋人に暴力振るわれても許してしまう人ってこんな心境に近いんじゃないの。
俺は思わずその手にすりよった。
その瞬間に俺の瞳から、溜まっていた涙が一筋零れた。

「あき、くん…」
「っ!!」

小さくやっと絞り出せた声で輝くんを呼ぶと、輝くんは何かに驚いたように俺の頬から勢いよく手を離した。
え、今度は何だ。
俺も驚いて輝くんを見上げると、輝くんは口元に手を当てて、物凄い絶望したような顔をしていた。
え、どうしたの急に。
俺は輝くんの突然の変化に焦った。
こんな顔をした輝くんは見たことがない。

「輝くん…」
「っ…」

俺がもう一度名前を呼ぶと、輝くんは弾けたようにベッドから飛び降りて、保健室を駆け出ていってしまった。
残された俺は、今一体何が起こったのか理解できず、ベッドの上で首と膝から血を流したまま、ぼうっと天井を見上げていた。





突然襲われました



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