「ぎぃやあああああああ」
「うるせっ…」

不良達にボコボコにカツアゲリンチされた次の日、まぁ酷い打撲で済んだので痛む体をずるずる引きずりながら学校に着くと、俺の姿を確認した瞬間圭都が叫んだ。

「なっ、何っ…それっ…かおっ…まさ、まさか…!」
「違う。これは昨日不良様達にやられたの」
「うわああああん薫うううううう!!!!」

痛いのは俺なのに俺以上に痛そうに顔を歪めて涙目で飛びついてこようとする圭都をひょいとかわし、自分の席に着く。

「でも死ななくてよかったな…!」
「縁起でも無いこと言うな。…輝くんが助けてくれたんだよ」
「え…」

輝くんの名前を出すと圭都は固まった。
顔に信じられないと書いてある。
まぁ俺も信じられないけれども。

「まさか…滝本先輩本気で薫のこと…?」
「違ぇけど…。だって勝手に血流させてんじゃねぇよ的なこと言われた」
「ああ、だよね。安心の変態さだ」

圭都は納得したのか大人しく席に着いた。
輝くんと関わるようになって以来、友達が減った。
もともと圭都以外とはそんなにつるんでいなかったから、そんなに困ることは無いけれど、寂しいことは寂しい。
けれど圭都は今まで通りでいてくれるし、俺のせいで圭都の友達も減っているという傾向はみられないのでまぁよしとする。
だって俺が避けられているのってやっぱり輝くんといるからだと思うから。
俺にとっては意外と優しいところもある変態っていう感じだけれど、やっぱり周りの認識としての輝くんは恐い最強総長様だ。
そんな人と一緒にいる俺が避けられるのは当然といえば当然だ。もし俺が当事者じゃなかったら、俺だって避けてただろう。
そして何より、そんなことで離れていくような友達より、輝くんと居たいしなぁとか思ってしまう俺はもうそろそろ末期だと思うんだ。

「薫!」
「え」

そんな風にぼーっと、圭都が何か話しているのをテキトーに聞き流しながら輝くんのことを考えていると、輝くんの声が聞こえた。
俺は一気に現実世界に戻ってきて、あたりを見回すと、教室の入り口に輝くんが立っていた。
その姿を見つけた途端俺はガタリと音を立てて痛い体を引きずって輝くんのもとへ駆け寄る。
朝に俺の所に来るなんて最初の時以来だ。
意味も分からず上がるテンションに内心首を傾げつつ、俺はどうしたんですか?と輝くんに声をかける。

「いや、怪我、どうしたかと思って」
「あ、はい。まぁむっしゃ痛いですけど…こうして登校できるレベルではあります」
「…血は…」
「全部止まってます」
「そうか…」

途端に輝くんはがっかりしたような顔つきになった。
おいまさかこの人朝から俺の血舐めに来たのか。
本当どうしようもない変態だな。
俺は内心ちょっと引きつつ、それでも会いに来てくれたことにちょっと喜んでしまっていた。
いやいやどうした俺。

「そういえば、昨日、俺のことおぶって送ってくれたわけだし…ワイシャツに結構血とか着いちゃったんじゃ…」
「ああ…もうもったいなくて洗えねぇよ…完璧オカズ」
「…そういうのは心の中に秘めておいてもらっていいですか。俺ちょっと引いてますよ」
「ははっ、元気そうだな」
「え…」

朝から聞きたくも無かった気持ち悪い変態暴露にドン引いていると、突然笑顔になった輝くんに頭をくしゃりと撫でられた。

「可愛くねーけど、そういう方がいつものお前っぽくて安心するわ」
「あきらく…」
「ま、無事も確認できたし。また昼に迎えくっから。じゃぁな」

言いながらもうひと撫でして、輝くんは去って行った。
俺は撫でられて乱れた髪を整えるふりをしながら、頭に残った輝くんの手の感触を反芻していた。
う、わぁ…

「か、薫…?大丈夫か?何だった……薫?」
「…どうしよう」
「え、どうした…?お前、顔…真っ赤だぞ…?」

圭都が俺の前までやってきて、顔の前で手を振っている。
その顔は変なものを見ているような、何とも言えない顔だったけれど、俺はそれらに突っ込むことも忘れて、今自分の心臓が異常に高鳴っている原因について考えを巡らせていた。






だいたい昨日…いやもうちょっと前からだ。おかしかったんだ。
いくら不良にボコボコにされて精神的に参りかけていたからって輝くんに会いたいなんて思ったんだ俺は。
いくらボコボコにされていたところに助けに入ってくれたからって輝くんに抱きついたんだ俺は。
どうして朝輝くんが会いに来てくれた程度で嬉しいとか思ってテンションあがったんだ俺。
どうして撫でられたくらいでドッキンドッキン高鳴っちゃって顔赤くしたりしてんだ俺。
ていうか会いに来てくれたってなんだ。あっちが勝手に血を求めて会いに来たんだろ。くれたってなんだよくれたって。

「あ…その野菜炒めくれ」
「…どうぞ」

ケチャップで味付けされて赤くなった野菜炒めに目を輝かせている変態だぞ、この人は。
俺の血を上手いとか言いながらベロベロ舐めてあげく俺の血付きのシャツをオカズにするド変態だぞ、この人は。
どこに胸をときめかせる要素があるっていうんだ。
俺ははぁああと深い深いため息を吐いた。

「どうした?」
「いえ、なんでも…」
「?まぁゆっくり食えよ。口ん中も相当切っただろ」
「え…あー、まぁ、…はい」

おいやめろよそういう微妙な気配り。
確かに俺は昨日のボコられ結果で口の中切れてて痛すぎていつものペースで食事が出来ない。
そこにこの気配りだ。
ああ、もう、なんだっていうんだ。鳴りやめ、心臓。
俺は誤魔化すように卵焼きを口の中に入れた。

「あー…でもさぁ…」
「はい?」

もごもごと咀嚼しながら輝くんの呟きに相槌をうつ。
先輩ももぐもぐといつものナポリタンパンを食べつつ言葉を続ける。

「昨日、あんだけ血まみれのお前見たとき、やっぱ興奮したなー…」
「ああ、やっぱり」

俺は興奮通り越して爆発するんじゃないかと思ってたんだけれどもね。
いや、自分で言うのもアレだけれど、普段の俺の血に対する輝くんの興奮度合見てたらそう思うのは致し方のないことだと思うんだ。

「んで、顔中の血舐めてた時、本当お前んこと好きだなーって思った」
「え…」

一瞬息も心臓も止まりかけて、戸惑った声を出してしまった。
輝くんはすぐにそれに気づいてニ、と笑った。

「ああ、血のことだけどな」
「あ、ああ…まぁ、わかってますけど…」

わかっているけど、一瞬、本当に心臓口から出そうだった。いや、むしろ嚥下されて胃に落ちたかと思った。びっくりした。
まだ少しバクバクと鳴る胸に、手を当てて、先ほどの言葉を脳内でリピート再生してみる。
お前のこと好きだ、と言われた。
もちろんそれは血のことなのだけれど、でも、あの言葉は卑怯だ。
まるで一瞬、本当に、俺自身に向けられた言葉なのかと思って、ものすごく期待してしま………え?

「だからさー、やっぱいつか俺お前のこと血まみれにして思う存分味わってみてーなーって思ったんだよな」

隣で輝くんが何かおっかないこと言っているけれど聞こえない。
だって、今、俺、何を思った。
期待した?何に?輝くんが俺を好きかもって?なんで?
俺の頭は真っ白と真っ赤と真っ黒が駆け巡っているようにぐちゃぐちゃのぐるぐるになっていた。
待ってどうしよう、どういうことだ。
いや、わかるけど、そう思うってことは、期待するってことは、そういうことだ。
いくら童貞だからって、それくらい分かる。
だってこれは、そう、中学の時同じクラスの沢村さんに抱いた感情と同じだ。

「ん、薫?どうした?ぼっとして…」
「っ…!!!」

俺が一人ぐるぐる考えていると、反応しない俺を不審に思った輝くんが首を傾げながら俺の額に掌を当ててきた。

「やっぱ怪我重いんじゃねぇの?ちょっと熱出てんぞ」
「や…そ、あの…」

違う違う違う。
これはそういう熱じゃない。
とりあえず手を放してほしくて、ずり、と座ったまま後ろに後ずさった。

「薫?本当にどうした?」
「な、んでも…ないです…熱も、とりあえず、ないです」
「でも結構熱かったぞ」
「平熱、高いので…」

俺の言葉にふぅん、と納得したのかしてないのか、まるで興味を失ったように、輝くんはまたナポリタンパンをかじり始めた。
俺はもう、自分のこの感情が、沢村さんに抱いていたもの以上であることに気付いてしまって、卒倒しそうだった。
おでこに軽く触れられただけで、破裂するんじゃないかというほど、心臓が跳ねた。





気づいてしまいました



「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -