圭都とさんざん泣いて、あの後も色々悩んだのだけれど…

「あ、おい…その赤いウィンナーよこせ!」
「じゃぁそのりんごください」

俺の返事は無視して俺の弁当から可愛くタコさん化されたウィンナーちょっとケチャップテイストを先輩は勝手にふんだくって口に入れた。
そう、本当に悩みに悩んだ結果俺は開き直ることにした。
別れたいと切り出しても殺されるフラグ。
一緒に居ても血がみたいと殺されるフラグ。
どっちにころんでも痛いならもうこの人が俺に飽きてくれるまで適当に相手しているのが一番だと思ったんだ。
口答えしたら殴られるんじゃないかとビクビクしていたこの間までがウソのように俺は堂々と滝本先輩と接している。
だってこの人血が足りないとか気持ち悪いこと言いながら俺のこと殴ったり切りつけたりしょっちゅうだし、だったら口答えしてボコられんのもそんな変わんないじゃねぇかってことで。
いっそボコるならボコれ!という体制に入った。

「取りましたね。じゃぁりんご貰います」
「ざっけんなテメー」
「先輩がふざけんな」

先輩の手から勝手にリンゴをふんだくりモシャモシャと食べる。
先輩はブチ切れ寸前みたいな顔してるけど知らない。もう怖くない。
いつも死ぬほど痛めつけられるわけじゃないから、もうどうでもいいんです。
慣れっていうのは非常に恐いものだね…

「てめー…最初の頃はプルプル震えてまだ可愛かったものを…」
「え、何ですか飽きたんですか嫌いになりましたか別れるんですか?」
「顔キラキラさせて言うんじゃねぇよ。別れるかばーか」
「なんだ…期待させないでくださいよ」

というやり取りも頻繁だ。
このやり取りのおかげで先輩はいかに俺が別れたがっているかを知ってくれたようだ。
開き直るというのは時に幸福を招くものだよ。
まぁ知ってくれたからと言って別れてはくれないんだけどな。

「お前今日放課後暇?」
「暇ですけど先輩にさく時間はありませんすみません」
「いいから暇なんだな?じゃぁ付き合え」
「っ、痛、…」

そう言って先輩は昨日切りつけた二の腕をぐ、と掴んできた。
本当勝手な人だよこの人は…
こういう感じで時々放課後連れ回されることも少なくない。

「血…出たかな」
「で、てるわけないでしょ…昨日のはそんなに深くなかったからもうカサブタですー」
「もっと深く切っときゃよかったなー…」

そう言いながら本当に深く切ったことなんてないくせに。
いつも本当に、紙で切った程度の切り傷か、少しナイフを滑らせる程度だ。
切りつけること自体イカレたことなんだけど、そろそろ感覚のマヒしかけている俺はそれが優しさに感じてしまう。
ああ、本当末期だ…






「で、どこ行くんですか?」
「あー…幼馴染が小野寺に会わせろってうるさいんだ。だからそいつんとこ」
「どこですかそれ」
「近所のコンビニ」

放課後、わざわざ教室まで迎えにやってきた滝本先輩に連れられて俺は知らない道を歩く。
近所のっていうのは滝本先輩のでしょうか。主語をつけてくれよ。
はぁ、と軽くため息を吐きながらざかざか歩く先輩の後を小走りに着いて行く。
すると本当にコンビニが見えてきて、先輩がその中に入ったので俺も急いで後に続く。

「いらっしゃいまー…あー輝」
「おう、連れてきてやった」
「あ、まさか小野寺くん!?」

先輩の後ろからひょこりと顔を出すと、レジに立って先輩と親しげに話すのはこれまたイケメンな人だった。
え、ていうか俺この人知ってんぞ。

「…小磯恭平(コイソ キョウヘイ)!?」
「え、なに、俺のこと知ってんの?」

こてんと首を傾げるこの人は、滝本先輩と同じく有名な不良様だ。
噂では滝本先輩率いる族の副総長とかなんとかっていう。
でもおかしいな。たしかこの人も滝本先輩と同じ歳で俺と同じ学校のはず。
何でこんな時間にめっちゃ普通にバイトしてんだ。放課後になったばっかりだぞ…

「小野寺、コイツのこと知ってんのかって…」
「え、あ、はい…。っつか有名ですし…」
「ああ、そっかぁ。俺らイケメンだもんねぇ」
「いえ、不良的意味で有名なんです」

普段だったら小磯恭平も恐い人なのだけれど、先輩の後ろにいるからかつい強気発言をしてしまう。
いや、先輩の後ろにいるからっていうか、滝本先輩で慣れすぎたせいというか…

「うははは!何この子面白いね!輝、飽きたらちょーだいよ」
「やるかボケ。飽きねぇよ」
「えー、ラブラブかようぜーなぁ」

ニヤニヤと笑いながら話す小磯恭平は、緩い話し方をするせいかより恐怖感がない。
俺はそろそろと先輩の背中から前へ出た。

「ラブラブじゃないです。この人俺の血にしか興味のない変態なんで」
「お前な、あとで殴るぞ」
「慣れてるんで勝手にどうぞ」
「あはははははははは!!!!まじおもろい何この子ーーー!」

小磯恭平は腹を抱えてゲラゲラと笑いだした。
イケメンてこんなに爆笑しても絵になるのか。腹立たしい。

「おい、恭平…笑いすぎ」
「だってさー!滝本輝にこんな口きけんのとか俺とお前の母さんくらいだったのにこの子すっげぇね!」

そう言いながら小磯恭平はレジから出てきて俺の前に立つ。

「知ってるみたいだけど改めて、俺小磯恭平です。きょんくんって呼んでね」
「あ、小野寺薫です。適当に読んでください」
「じゃぁカオリンって呼ぶね」

ニコっと笑ってきょんくんは俺の頭をわしゃわしゃと撫でた。
手、でっかいなー…

「わかってるみたいだけど、コイツ血フェチの変態野郎だから、嫌になったら俺のとこおいでー?カオリンなら俺のカノジョにしてあげるから」
「もう嫌なんですけどね。でもきょんくんのカノジョとやらも嫌なのでとりあえずこのままでいいです」
「あー、本当面白いわー。逸材だわー」

きょんくんは本当に俺のことを気に入ってくれたようで、ずっとわしゃわしゃと頭を撫で続けている。
そんな強い力でもないし、俺は髪の毛のセットとかをしっかりばっちりする方ではないので、撫でられることは心地いい。
いままでの俺だったらこんなの恐怖で耐えられなかったはずなのに、今はこのわしゃわしゃされることに眠気まで感じている。
俺って順応性高かったんだなー…

「おい、いつまで触ってんだ恭平」
「ん、何、ヤキモチ?」
「わけねーだろ。でも俺のだそれは」

バシリ、頭上で音がしてきょんくんの手が払いのけられた。
ていうか払いのける時俺の頭も一緒に叩かれた。
本当だヤキモチなんてやかれてねーやこれ…

「てめぇも何黙って撫でられてんだ」
「俺一般人なので不良様になんて逆らえません」
「あ!?」
「あははは本当やめてー!下手なお笑いよかおもろいからー」

物凄い形相で滝本先輩に睨まれたけれどもう俺はそんな事では動じない。
そうだな、きっとこの人がこれからは大事にするよ今まで悪かったとか言い出したら俺は恐怖し慌てふためくに違いない。
もう帰ると言い出してコンビニを出ようとする滝本先輩に俺は慌てて着いて行こうとしたらきょんくんに手を掴まれた。

「変態野郎だけどよろしくね。…本当に、命的意味で危なくなったら俺に言って。それだけは、ね」
「あ、はい…ありがとうございます…」
「うん。はい、これ、俺のオゴリ。オレンジ好き?」
「あ、大好き!」
「よかった。じゃぁ、またね」

そういって俺にオレンジジュースを手渡すと、またわしゃわしゃっと髪を撫で回してレジに戻って行った。
俺も一度ペコリと頭を下げてコンビニを出た。
外では先輩がヤンキー座りをしながら空中にガン飛ばしていた。

「…何してんですか滝本先輩」
「別に……っていうか何それ」
「オレンジジュースです。きょんくんに貰いました」
「…それ」
「は?」

オレンジジュースを差して何それというから答えたのに先輩は尚も「それ」と言う。
だから主語をだな…

「何で、恭平のことは…すぐにきょんくんとか呼んだのに、俺のことは相変わらず先輩なんだよ」
「だってそう呼んでって言われましたし…え、まさか拗ねてるんですか」
「ばっ、ちげーよ調子乗るな。ただ…一応恋人だろ、俺ら…」

おいなんだこの総長可愛いぞ。
顔赤いんですけど。
拗ねてるんだな。拗ねてるんだこれは間違いなく。
嘘だろ。泣く子もチビる総長様だぞこの人。

「呼んで、いいんですか」
「あ!?」
「輝さんて、呼んで、いいんですか」
「…っ」

ヤンキー座りのままの滝本先輩の隣に並ぶ。
滝本先輩は驚いたように目を見開くが、すぐに不機嫌そうに細めた。

「呼び捨てで、いい…」
「それはさすがに、年上を呼び捨てとかはちょっと…」
「…」
「はいはい、じゃぁ輝くんでいいですか?きょんくんもくん呼びだし…それで勘弁してくださいよ」
「…仕方ねぇな」

おいまじか。
俺が輝くんと呼んだ瞬間にちょっと嬉しそうな顔したぞ。
なんだこの人本当可愛いな。

「輝くん」
「あ?」
「輝くんも俺のこと名前で呼んでいいんですよ」
「あ!?」
「呼んでください」

そう言って笑ってやると、すっごい小さい声で「かおる…」と呼んだ。
何だろうちょっと、この人のこと好きになれそうだ。
恋人的意味では無理だけど。恐いし変態だし。
だけど、こんな一面はちょっと愛しいと思うくらいには、好きになれそうだ。
きっとこの人も、俺のことが好きとかそういうんじゃなくて、ただ独占欲が強い人なんだろうな、と思う。
自分のオモチャ他人に取られたらムカつく、みたいな程度に。
だってよく考えたら実際今俺この人のオモチャなわけだし。

「…今日は血、いらないんですか」
「昨日切ったからいい…」
「そうですか、じゃぁ今日はこの後どうしますか」
「…俺は暇だけど…」
「俺、ゲーセン行きたいです。普段は不良がおっかなくて行けないんですけど、輝くんが一緒に来てくれるなら行けそうだし」
「…わかった」

輝くんの返事にくすりと笑って、腕を引いて立ち上がらせる。

「っつか俺や恭平には平気でそんな態度とれるくせに不良恐いとか嘘だろ」
「輝くんやきょんくんは…なんかもう開き直って接しているので。恐くないわけじゃないですけど…」

慣れたといったって、殴られるのとか切りつけられるのがこわくないわけじゃないし、不良は相変わらずこわいけど。
でもそうやって脅えに脅えてても無駄に神経すり減ってまた野郎同志で抱き合いながら泣くことになるんだろうなって思うから、色々諦めているだけだ。

「…お前…本当キャラ変わってないか…」
「色々吹っ切れましたし、順応性高いみたいなんで、俺」

俺の答えにはぁ、とため息をつく輝くん。
でもすぐに呆れたような笑顔とともに俺の頭をくしゃ、と撫でた。
ああ、この手もすきになれそうだ。





変態に少し好感がもてました



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