変態彼氏のその後



俺は最近困っている。

「あ…、あきらくんてぃっしゅ…」
「は?…っ!?」

牛乳まみれの手を伸ばしながら口元に垂れる牛乳をチロ、と舐める赤い舌。

「ば、も、持ってねぇよ!」
「俺のポッケにあるから、…はやくっ…」
「〜〜〜〜〜っ!!」

今度はふりふりとこちらにつきだされる小ぶりな尻。
俺は思わずゴクリと生唾を飲んだ。
そう、困っているのはこれだ。




「カオリンがえろいぃ???」
「……ああ」
「ぶっふぉぁ!」

暇な授業中当然サボりを決め込む俺は恭平を屋上に呼び出し、最近の悩みを打ち明けた。
正直ノリは軽いし、俺のことを馬鹿にすることもある奴だから気は乗らないが、コイツ以外に相談…というか話せる相手がいないのも事実だ。
そして案の定俺の言葉を聞いた恭平は飲んでいたコーラを噴き出しながら爆笑した。

「あははははははは!!!輝が!顔赤くして!カオリンが!えろいて!!ぶはははははははは!!!!」
「…ころすぞ」
「ぶふぉっ、げふっ…はは、あはっ…はぁ…ていうか、何なの急に…」

ひとしきり笑った恭平は咽つつも落ち着いたのか目尻に浮かんだ涙を拭いながらようやく俺の話を真面目に聞く気になったらしい。
俺ははぁ、とため息をついてここ最近の薫の話をする。
前は俺が薫を、血としてしか認識していなかったから、ここ最近という言い方は若干語弊があるのかもしれないが、俺が血関係なく薫を好きになってからはもう…
性的な意味で薫が美味そうで美味そうで俺は気が狂いそうだ。
ある時は空の牛乳パックを潰したらまだ若干中身があって牛乳まみれの姿でやれポケットからティッシュ出せだの拭けだの…
またある時は体育後に汗を流そうとしたのか水をひっかぶって、水で張り付いて乳首も腹も透けた体操着でたまたま通りかかった俺の所へ走ってきたり…
またまたある時は一応恋人なわけだしいいだろうと思ってキスしたら真っ赤になって、きゅ、と俺の制服の裾をつかんで「もっと…」と言ってきたり…

「ぅわぁあああああああ」
「はいはい落ち着いて輝さーん」
「アイツ馬鹿なの!?え!?何!?食ってくれってこと!?そういうことか!よっしゃ食う今食うすぐ食う!!」
「はいはい待ってね輝さーん」

ここ最近の薫の行動を思い返してちんこ勃ちそうになった俺は勢いよく立ち上がり、屋上の出口に向かって走り出そうとした。
そんな俺を恭平は至って落ち着いた様子で止めて、再度俺を屋上の床に座らせた。

「いやー…カオリンがこれほどまでに貞操の危機だったとは…お兄ちゃんとしては聞き捨てならないよ」
「誰がお兄ちゃんだころすぞ」
「もう嫉妬深い彼氏まじうぜー…」

恭平と薫はやたら仲がいい。ていうか薫がやけに恭平に懐いていて、恭平もなんだかんだ薫を可愛がっている。
最近恭平には追いかけ回している奴がいるらしいから、あくまで薫と恭平の関係は兄弟とか友達とかそれ系なんだが気にくわないものは気にくわない。
ギロ、と睨むと恭平はため息をついた。

「まぁね、カオリンは輝に片想いしてたし、輝にとって自分には血しか価値は無いと思ってるから間違いなく無自覚で、別に食べてくれって意味でやってるわけじゃねーと思うけど。自分の外見が平凡だとも自覚してるし」
「馬鹿てめー薫は世界一えろい。じゃなかった可愛い」
「うーわー…重症すぎて目も当てられない…っていうかこれ誰!?」

外見だけ言うなら確かに薫は平凡だが、めちゃくちゃ可愛い生き物だと思う。
ちょっと前まで薫の血が付いたシャツが俺のオカズだったわけだが最近は専ら酒で酔った時の薫だ。
記憶をフル回転させてあの日の記憶を呼び覚まして海綿体に活力を与えているわけだ。

「まぁ真面目な話…俺は、血的な意味も含めてアイツのことめちゃ傷つけただろ」
「そうだな」
「だからもう傷つけたくねぇし、本当大事にして甘やかせて、幸せに、してやりたいんだよ」

一瞬恭平のからかいがはいるかと思ったが、ちらっと見た恭平の表情は真面目だった。
うん。本当コイツ空気めっちゃ読めるやつなんだよな。

「なのに…薫の野郎……」
「あー…輝は他人を思いやるの初めてだもんなー…」

俺が両手で顔を覆ってさめざめと薫の行動を思い返していると、恭平は少し嬉しそうな声音でそう返してきた。

「血のこと抜きで他人を好きになるのも初めてだろ。…なんかちょっと嬉しいかも」
「はぁ?」
「襲っちゃっていいと思うよ?ただ、優しくね。カオリンは輝のこと大好きだから受け入れてくれるさ。大事に大事にするのも大切だけど、自分の欲をぶつけてこそ恋人じゃね?」

そう言ってニコ、と笑う恭平に、俺は一瞬ぽかんと口を開けてしまったが、すぐに笑い返した。
さすが幼馴染。
俺より俺を理解していて、頼りになる、親友。

「ま、輝のことだから最終的には獣のように襲い掛かってカオリン泣かせちゃうんだろうけど!ぶふー!」
「…ころす」

基本的にはくっそムカつくけどな!




さて、恭平の助言もあって俺は薫を美味しくいただく決意をかためた。
いや、血的な意味では今までも美味しくいただいていたわけだが。
今回は性的な意味で、だ。
問題はどうするかだよな。いきなり家に誘ったり、行ったりしたらもうがっつく気満々なの見え見えじゃね?それってかっこ悪くね?
出来れば薫の前ではかっこよくいたいわけだ。俺だって男ですから。

「輝くん?どうかしたんですか?」
「…別に」

昼休み、薫をどう食おうか思案しているとうんうん唸っていたのか、薫が心配そうな顔で俺を見つめてきた。
ちくしょう可愛いふざけんな。
色々考えている計画を吹っ飛ばして今ここで食っちまいてぇ。

「…輝くん…最近、血、求めないね…」
「あ?」
「やっぱ俺の血、飽きた…?」

薫は何やら不安げに顔を歪めてか細い声でそう言った。
馬鹿お前何言ってんだお前の血に飽きるとかないわ。
もう傷つけたくねぇから自分では傷つけないけど、お前が怪我した時とかもうべろべろに舐めまわしてるだろ。
俺は薫のよくわからない問いかけに首をかしげる。

「輝くんは、俺のこと、すきって、言ってくれたけど…やっぱメインは血なんだろうなって…わかってるから」
「………は?」
「血、飽きたらやっぱ…捨てられちゃうかなって…」

泣きそうな声で、痛々しく笑う薫に、俺はブチリとキレた。
もそもそと弁当を食べていた薫の手を引いてそのまま床に押し倒した。
薫は何が起きたのか全くわからないという表情で目を限界まで見開いて俺を見上げた。

「お前、ふざけんな」
「あ、き…く…?」
「俺がどんだけお前のこと大事にしてんと思ってんだ?しまいには殴るぞ」
「っ…」

俺が怒っていることに気付いたのか、薫はビクッと体を震わせた。
血に飽きたら捨てられる?誰が?誰に?
本当ふざけんなよ。
確かに薫の血は、血フェチの俺にとって魅力的すぎるほど魅力的な血で、流れ落ちていくのを見てるだけで勃起しそうなくらい好きだ。
でももう、そんなもんなくたってこんなにこんなにこんなに、薫が好きで好きで好きで死にそうなのに。
それは言葉にして伝えたはずなのに。
血だけじゃなくて薫が好きだって、言ったのに。
何でわかんねぇんだよ。
俺はビクビクと脅えた表情のままの薫に顔を寄せて、そのまま強引に唇を奪った。

「んぅっ!?っ、は、ぅ、んっ……ん、は、」

薄く開いた唇から舌をねじ込んで、絡ませて、噛んで、口内をかきまわす。
言ってわからねぇっていうならもう、行動にうつしかないだろ。
ああもう本当早く襲っちまってたらよかったんだ。
ちゅぅ、とわざと音を立てて唇を離した。
はぁはぁと肩で息をして顔を赤くした薫の唇は唾液でテラテラ光ってて最高にえろい。

「は、はぁ…あ、あきらくん…?」
「俺、言ったよな。お前のこと、好きだって。確かに血も好きだし、血まみれにしたいと思うのも変わんねぇけど、今はどっちかっつうと性的にぐっちゃぐちゃにしたいんだけど?」
「え…?」

輝は唾液まみれの唇を開いてアホな顔できょとんと俺を見上げる。
はぁ、と俺はため息をついてから薫の腕をつかんで抱き起した。
恭平が言ってたのはそういう意味か。
薫が、自分には血しか価値がないと思っている。
たぶん、俺に好きと言われたのもその血あってこそなんだとか、そう思っているんだろう。
馬鹿か本当に。

「こっちはそういう、えろいことしてぐちゃぐちゃにしたいの、我慢してんだからさ。あんま煽んなよ」
「え?…え?」
「無自覚はやめろって言ってんだよ。今日までのは許してやる。でも次えろい仕草したら所構わず食うからな」
「!!?」

俺の言葉の意味をやっと理解したのか途端にかぁっと赤くなる薫。
ああくっそ言った傍からふざけんな。可愛い。食いたい。
俺はいまだ唾液で濡れる薫の唇をぺろ、と舐めた。

「お前はもう、血だけじゃなくて、全部、美味そうに見えるから。そのうち覚悟しておけ」
「え、ちょ、あきっ…!?」

そう言いながら俺は再び薫を押し倒した。








変態彼氏の方向性が変わりました


(ていうか輝くん人変わりすぎですよ!誰!)
(あー…恋すると変わるっていうだろ?)
(!?)


END

まじ誰だこいつ…




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テーマ「人外ファンタジー」
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