11

あれからそうたいした時間はかからず、俺に暴力的暴行を加えていた不良達は輝くんによって沈められた。
輝くんが不良達を次々と沈めていく中、ボコられまくった俺の意識も沈みそうになったけれど、今意識失って次目覚めたらもう輝くんと話す機会は無くなってしまうかもしれない。
そう思うとおちおち気絶もしていられない。遠のきそうになる意識を必死に手繰り寄せながら、事態が収まるのを見守った。

「薫…!!」

それなりの数を一人で沈めたからか、さすがに輝くんも若干の怪我と息の乱れが見えた。
それでも最後に殴った奴を床に放り投げると、輝くんは一目散に俺の方へ駆け寄ってきた。
ああ、なんか、シチュエーション的には最悪だけど、すごく幸せだ。
今手足が縛られてなかったら、俺も輝くんに向かって両手広げて走って行きかねない。
輝くんは俺の傍まで駆け寄ると、まるで壊れ物を扱うみたいに優しく抱き起して手足の拘束を解いてくれた。

「あき…ら、くん…」
「薫…っ」

思ったよりも掠れた声になってしまった。
口の中が鉄の味しかしない。めっちゃ切れてるなこれ…すごい痛い。
ついでに腹も痛すぎて全く力が入らないし、声を出すと鈍く痛む。

「馬鹿かお前…っ、何、こんなボロクソにされてんだよ…!」
「ぅ…ご、ごめ…なさ…」

輝くんは声を荒げて俺を責めつつも、俺を抱き寄せたまま優しく頭とか撫でてくれる。
輝くんだ。本当に輝くんだ。
久々に鼻孔をかすめる輝くんの香りと、俺に触れる輝くんの手に、俺は嬉しくて、安心して、幸せで、訳が分からないままボロボロと涙を零してしまった。

「あきらく、ん…」
「薫…?」
「あきらく…あい、あ、会いたかった、です…」
「っ…」

俺はギシギシと痛む腕を何とか持ち上げて、輝くんの制服をぎゅ、と掴んだ。
輝くんはそんな俺の行動と言葉に驚いたように目を見開いて、一瞬切なそうに眉を寄せたかと思うと、制服を掴んだ俺の手を上からそっと握ってくれた。

「馬鹿じゃねぇの本当お前…こんなボロクソにされたの…誰のせいだと思ってんだよ」
「輝くん、の、せいです、よ…」

俺は皮肉交じりに冗談めかして言うと、輝くんは眉間に皺を寄せて俺を睨んだ。
うわ、何かごめんなさい…
睨まれたことにビビって涙が止まった。

「…分かってんなら、何でそういうこと言うんだ。これじゃ俺が、何のために離れたか分からないだろ…」

俺を抱き寄せる手と、俺の手を握る手に少し力が込められた。
輝くんの声は、まるで絞り出すようで、苦しそうだった。
何のために離れたの?俺のことがいらなくなったからじゃなかったの?
俺は輝くんの言葉の意味が理解できず、首を傾げた。

「お前の事、好きだよ、俺」
「え…?」
「最初は血が好きだったし、今でもそれはそうなんだけど、今はお前のことが好きだ」
「あ、…き、く…?」

輝くんの言葉に俺の心臓がドクドクと高鳴りだす。
何、何だコレ急に。
輝くんが俺に好きって言った?俺のコト、好きって、言った?
やばい何これ、俺いつの間にか意識失ってた?これは夢?
俺は何が起きたのか全く理解できないままただ輝くんを見つめた。

「だから、大事にしてやりたかった。傷つけないで、大事に…。でも、どうしても傷つけちまう」

苦しそうな声はそのままに輝くんは言葉を続ける。
俺の手を握ってくれていた手を離して、俺の頬を優しくさらさらと撫でた。

「他の男に触らせたくないし、そんなトコ見たら、気が狂うくらいムカつく。恭平とかあのよくお前といる平凡な奴とか、全員殺したくなるし、触らせたお前にも腹が立つ」

転んで怪我したところをさらに抉られさらに首に噛みつかれた時とか、別れを告げられる直前のアレとかのことか。
他の奴に触らせるな的なこと言われながら結構いためつけられた。
まさかあれが、そんな理由でやられたことだとは思いもしなかった。
それってそれって間違いなく、嫉妬、だよな…?

「しかもお前見てるとどうしても、血まみれにして、舐めまわしたくなる…」
「…輝くん…」

ちょっと嫌だいぶ危険かつ変態的な告白をされた気がする。
俺に対してそんな風に思ってたのかこの人。本当変態だ。
でも、そんなことが嬉しいと思ってしまうなんて、俺頭おかしいんじゃないのか。

「このまま一緒にいたら絶対、俺がお前をダメにしちまうって思ったから離れたのに…結局俺のせいでこんなに、傷だらけにしちまったな」

そう言いながら輝くんはそっと俺を抱きしめた。
ああ、ああ何これ何これ。本当に夢なんじゃないの。
でも体中のあちこちが痛くて、これは夢じゃないことを教えてくれる。
俺の目からはまたぼろぼろぼろぼろ涙が零れはじめた。

「あき、ら…ばか…っ、ば、か…っ」
「うん…」
「俺、あきらく、だいすき…ですっ…」
「…は?」

俺の告白に輝くんは素っ頓狂な声をあげて、抱きしめていた俺の身体をばっと離した。
輝くんと向かい合うような体制になって、俺はそのまま言葉を続けた。

「輝くんのこと、すき、す、きっ、なのに…っ、いらないって、いわれて、俺、きず、き、傷つきまし、た」
「かお…」
「輝くんが、は、離れた、から…っ、アイ、ツらに、捕まって、ボ、コボコにさ、された…!」
「…っ」

零れていく涙をそのままに俺は口内や腹の痛みを我慢して輝くんに訴えた。
輝くんは驚いたような、戸惑うような、困惑した表情で聞き取りにくいだろう俺の言葉を聞いてくれる。

「一緒に、いて、ほし…です…っ、血も、たくさ、あ、あげ、ますっ…っだか、だから、俺のことっ捨てな…ぅ、で、…っ」
「薫…っ!!ごめん、ごめんな…っ」
「ふ、ぅ、あ、ぁああ、あ、ぁああぅ、わ、あああ」

輝くんは、ぎゅ、と勢いよく俺を抱きしめてくれた。
俺はもう、言葉もつむげなくなって、大声をあげて泣いてしまった。
勢い良く抱きしめられて、大声を上げて、身体中が信じられないほど痛かったけれど、俺を包み込んでくれる腕の温かさが、有り得ないほど幸せだった。





あれから一か月半ほどで、俺はようやく普通に過ごせる外見になった。
不良達にやられた傷はなかなかのもので、折れてはいなかったものの、数か所の骨にヒビが入っていたり、全身打撲と言いたいくらいに打撲だらけだった。
殴られ蹴られの過程であちこち切れてもいたらしく、擦り傷含め傷も相当な数に及んだ。
おかげであちこち包帯だの湿布だのなんだの巻かれ貼られ、すごいことになっていた。
数日検査も含め入院している間お見舞いに来てくれたきょんくんが、昔他校の集団と喧嘩した時もっと酷い状態になったことあるなどと笑って聞かせてくれたが次会ったら殴ろうって思った。
圭都は俺の姿を見たとき真っ青で、人目もはばからず大泣きして輝くんの悪口をつらつらと述べた。
親は…心底驚いていたけど、まぁ無事でよかったということになった。



「輝くん、今日はお弁当作ってきました」
「…は?」

そして、輝くんとは恋人関係に戻った。
輝くんは相変わらず血フェチで、俺の血が好きらしく、俺が怪我真っ盛りだったころは俺を見る度平静を装いながら生唾飲んでいた。
けれど血を舐めようとしたり、塞がった傷を見てもったいないだの言わなくなった。
それでも俺と恋人でいてくれるのが、血は関係なく俺のことを好きだって言ってくれているようで、むず痒くて嬉しかった。

「前々から気になってたんですけど、輝くん赤いモノばっか食いすぎで健康状態絶対悪い」
「…いいんだよこれで。別に死なねぇって」
「今は良くても将来的に絶対やばい。だから弁当作ってきました」
「…い、らねぇ…」

輝くんは相変わらず毎日毎日赤い食べ物ばっかり食べている。
ケチャップかかってればいいのかと思いきや、ケチャップで味付けされた野菜とかの半分くらいは残したりしている。
つまり赤いモノがすきなのはそうなんだろうけど、基本的に好き嫌いなのだ、と俺は気づいた。
栄養の偏り半端ない。

「嫌ですよ、俺。輝くんに早死にされたら困ります」
「あ?」
「ずっと、一緒にいてくれないと、嫌です」
「…っ」

言っててちょっと恥ずかしいので俯きながら俺は弁当を差し出した。
輝くんから返事はないが、おずおずといった様子で弁当を受け取ってくれた。
でもパカリと弁当の蓋を開けて物凄く顔を歪めたから、たぶん嫌いなものオンパレードなのだろう。

「…輝くん」
「…何」
「見てくださいこの指を」
「…?」

俺はなかなか食べようとしない輝くんに向かって手の平を広げ指を見せた。

「その弁当俺が作ったんです。でも慣れてないからたくさん指切っちゃって、血めっちゃ出ました。おそらくその弁当のおかずの3分の2は俺の血が入ってます」

俺がそう言うや否や輝くんは物凄い勢いで弁当を食べ始めた。
本当に相変わらずの血フェチの変態だ。普通血が混入いた料理なんて食べたくない。
その姿があまりに必死で、思わず笑ってしまった。
時々は血を舐めさせてあげようかな、と、一生懸命弁当を食べている輝くんを見て思った俺も、かなり変態なのかもしれない。






変態彼氏を愛してしまいました



「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -