10

昨日、輝くんにフラれてしまい散々泣いて、それでもなんとかフラフラと自力で帰宅しさらに一晩中泣いた結果俺の目はとんでもないことになっていた。
重たすぎて視界がいつもの3分の1だ。

「…もう絶っっっ対あの人に近づけさせたくない…」
「圭都…」

登校一番、俺のひっどい顔を見るなり圭都は悲鳴をあげた。
そのまま空き教室に連れて行かれ、何があったのかを一からすべて話すことになった。
その際圭都に輝くんが好きだったことを言っていなかったことが発覚して、そのことに関してのお叱りも受けながら昨日までのことを全部話すと圭都はものすごいむっつり不機嫌顔になってしまった。

「だいたい何で薫はあんな人がいいの?ずっと薫を傷つけてた人じゃん」
「…それだけじゃなくて…優しいとこも…あんだよ」

俺の返答を聞いて、圭都はあんぐりと口を開けた後、恋は盲目とはこのことか!と叫んだ。
俺は愉快な圭都の行動を見ながら、自嘲するように笑った。

「でも、もう、全部終わっちゃったから」
「…薫…」
「いらないって、言われたから…近寄るなとも、言われたし…うん。もう、終わったんだ」

そう、終わってしまった。
泣いてすっきりすることなんてなくて、もう今でも泣きだせそうなくらいだけど、どんなに泣き叫んだところで何も変わらない。
輝くんが、俺に飽きた…は、語弊があるな…俺の血に飽きたって言うならもうそれが全てだ。

「最初から…ちゃんとした恋人とか、そういうのじゃなかったんだし…」
「…でも…」
「輝くんは俺じゃなくて、俺の血が欲しくてそういう関係だっただけだ。俺だって最初はさんざん別れたいって…言ってたんだ」
「…」

そんな俺に、嫌だ別れたくないと輝くんを引き留める権利があるわけない。

「…でも薫、薫はまだ好きなんだろ?」
「…」
「大好きなんだろ?」
「…っ」

さっきまであんな人!と輝くんに対して憤慨していた圭都は、諭すように優しい声で問いかけてくる。
さらさらと、優しく俺の頭を撫でた。
そのせいで、また俺の目からボロボロ涙が零れはじめた。
ああ、もう、さらに腫れたらどうしてくれんの。

「すき…っ、わかれたく、なっ…」
「うん」
「他の、誰かがっ…輝くんの、隣にいるのとか、やだっ…やだよ、おれっ…ふ、ぅう」

ゴシゴシと流れる涙を手で拭いながら、フラれてしまった時からずっと思っていて、でも言葉にできなかったことを言葉にしていく。
引き留める権利なんてない。
けれど、あの人の隣にいられなくなるのは嫌だ。
俺はいつだったかのように、圭都に抱きついて泣いた。
やっぱ持つべきものは親友だ。

「カオリン!?」
「!?」
「へ?」

圭都に縋ってびすびす泣いていたら教室のドアが勢いよくガラっと開いた。
驚いてそちらを向くと、なんだか複雑そうな表情をしたきょんくんが立っていた。

「きょんくん?」
「…それ、輝のせいだよね…」
「え?え?」

きょんくんは俺の顔を数秒見つめ、途端に無表情になるとブツブツ何かを呟きながら去って行った。

「いいいいい今の小磯恭平…!?」
「ああ、うん」

突然現れて去って行ったきょんくんに、圭都はガタガタと震えた。
ああ、そうか、俺にとっては優しいお兄ちゃんみたいな人になってるけどあの人もめちゃめちゃおっかないことで有名な不良だったな。

「ああああんな人とも知り合いだったのか薫…!」
「ていうか兄ちゃんみたいな」
「小磯恭平を兄ちゃん!?…薫何者…」

きょんくんの行動はよく意味がわからなかったけれど、とりあえずきょんくんの登場に脅えきっている圭都を今度は俺がなぐさめた。






「一人で帰るのも久々だな…」

俺はトボトボいつもの倍以上の遅さで帰路を一人歩いていた。
圭都は気にしたが、俺の失恋ごときでバイト休むとかアホすぎるので無理矢理行かせたために俺は一人で下校している。
輝くんは、様子がおかしくなっても俺を送ってくれていたから、ひとりで帰るのは以前カツアゲリンチに合って以来だ。
いや、あれも最終的には輝くんに送ってもらったから、本当に久々の一人下校だな。
やめよう輝くんのことを考えるのは。
せっかく涙もすっかり落ち着いたとうのにまた鼻の奥がツンとしてきた。

「きみさぁ、カオルくんでしょー?」
「は?」

どうしても輝くんのことを考えてしまう頭を左右にぶんぶん振っていると、突然知らない奴から声をかけられた。
俺は振っていた頭を止めて顔をあげると、そこには数人の不良さん。
俺は一気に青ざめる。

「やっぱコイツっすよー」
「タキモトといつも一緒にいる平凡ヤロー」
「どういう関係だかわかんねぇけど、とりあえずタキモトが大事にしてるっていう噂だもんな」

不良達はニヤニヤと嫌な笑いを浮かべながらあっという間に俺を取り囲んだ。
やばい。会話の内容からしてやばい。
何をどうこうしようとか言ってるわけじゃないけど絶対やばい。命が。

「あああ、あの…?」
「いやー、ごめんねぇ。君に恨みはねぇんだけどさ」
「君のオトモダチのタキモトくんにはあるんだよー」
「だからちょーっとツラ貸してね」

ぎゃぁああああ予感あたったぁあああああ
不良達は俺の両腕をガッシリと掴んでどこぞへ歩き出した。
俺は完全に捕らわれた宇宙人スタイルでずるずると不良達に引きずられていく。
やばい、まじこれやばい。
妹の携帯小説で読んだぞ。
不良総長様と付き合った平凡ヒロインが、総長様の敵対チームの奴らに連れ去られる展開だ。
そして総長様が助けに来てくれてヒロインとの愛が深まる的なそんな流れだった。
だがしかしあの携帯小説と俺は今状況が決定的に違う。
助けに来てくれる総長様いない!

「ああああの、あのっ」
「んーなにー?」
「お、俺、輝くんとはもう、え、縁切られちゃって、俺に何かしても意味な…」
「えー、そうなの俺ら信じるわけねぇだろ」
「昨日も一緒に歩いてんの見たんだからさぁ」

その昨日フラれちまったんだよクソが!傷を掘り返さないでくれ。
とりあえず何を言っても信じてくれなそうな状況に俺はもう神に祈るしかなかった。




連れてこられたのは、輝くん達が集会場所として使っているのと似たような、元倉庫的な場所だった。
こんな場所があっちにもこっちにもあるから不良が生まれるんだクソ!
と、心の中で文句を垂れつつ俺は今大変ガタブルしている。
だって両手両足縛られて、ものすごいゴツイ絶対高校生じゃねぇよっていうようなチンピラみたいな不良達に囲まれている。
制服着てるから一応ただの不良なんだろうけど、本当コイツらカタギの人間じゃない。こわい。
内心俺はチビりそうなくらいビビっていた。

「おーいー、本当にこんなフツーの野郎があのタキモトのダチなんかよ?」
「だって何人も一緒にいるとこ目撃してっし。間違いねぇだろー」
「あーあーあー、ガッタガタ震えちゃって可哀想になってくんな」

可哀想と思うなら逃がしてくださいまじで。
俺はこんな小説の中の悪役不良がやるような王道な展開が自分に降りかかったことに未だに信じられないでいる。
歯を食いしばってなんとか恐怖で泣き出しそうなのを堪えていると、不良の一人が俺に近づき前髪をがっつり掴んで顔を持ち上げてきた。

「っ…いっ!」
「いやぁ、でもフツメンくんのくせにあのタキモトにくっついてたお前が馬鹿なんだよ」
「っ…」
「カモられるに決まってんだろ。俺ら、タキモトにちょう恨みあっけど、アイツには仕返せねぇからさー」

髪の毛を掴む力が増す。
ギリギリと引っ張られて痛みでじわりと目尻に涙が浮かぶ。
若干ブチブチいってる気がする。
ハゲたらどうしてくれんだ。

「わかるだろ?あいつの強さチートすぎんだよな。だからお前もタキモトとつるんでたんでしょ」
「ち、がっ…」
「まぁそんなのはどうでもいいんだけど、ね!」
「っぐ!」

言い終わると同時に前髪を離され、腹に拳がめり込んだ。
突然で何も身構えてなかった俺はモロでそれがはいり、変な声を出して後ろに吹っ飛んだ。
どんだけ強く殴ってくれたんだよ。

「飛んだねー」
「ぎゃはははお前鬼畜!いきなりは酷ぇだろー」
「いやいやこんなもんじゃねぇからさーまだまだフツメンくんには頑張ってもらいまショー!」

ぎゃはぎゃはと下卑た笑い声をあげながら、不良達は次々と俺に殴る蹴るの暴行を仕掛けてきた。
俺は両手両足縛られて、どうすることもできずに与えられる暴力をひたすら身に受けていた。
以前のカツアゲリンチの時の方がマシだった。
腹を蹴られて痛みに丸まればケツや背中を蹴られ今度はそちらにのけぞる。
そうすると顔面を殴られて髪を掴まれ引きずり回される。
唯一救いなのは、そこらへんに転がっている鉄パイプは使わず素手のみでの攻撃であることだな。
俺はもうすでにどこが痛いのか、殴られているのか蹴られているのかもわからなくなっていた。

「ぐ、ぅ…っは、っ!」
「はいはい、まだ寝ちゃダメだよ」
「ははははもうコイツ焦点合ってなくねー?」

痛い痛い痛い。
カツアゲリンチは、俺がカモられただけだった。
でもこれは、輝くんと一緒にいたからこうなったんだ。
輝くんのせいで今俺はこんなに痛いし、もう死にそうだ。
本当にロクなことがなかった。
出会い頭からボッコボコにされたし、その後は血が欲しいとか意味の分からない要求をされて恋人にさせられるし。
切られたり殴られたりして血舐められるし。
おかげで俺の身体結構傷跡だらけなんだぞ。
俺だって育ち盛りな男子高校生なのに弁当のおかずとられるし。
輝くんとの付き合いが始まった途端友達だって減ったんだぞ。
それに、不良の集会なんかつれてかれて酒飲まされて弱いことが発覚して俺のまだ見ぬキャンパスライフの夢が崩されたし。
そんななのに時々妙に優しかったり、あとかっこよかったりするからウッカリ惚れちゃって俺はホモにまでなってしまった。
それで最終的には簡単にもう飽きたとか言って捨てるし。
思い出せば思い出すほど最悪なことばっかりじゃねーか。

「おいボールあった!的当てしよーぜ!」
「いいねー!」
「ピッチャー振りかぶってぇ…投げましたぁ!」
「っが…っ!」
「はい腹ー!50点ー!」
「腹ヒットで50かよーじゃぁちんこに入ったら100点?」
「ぎゃははははは残酷ぅ」

あげく男としてもピンチがせまってるじゃねぇか。
軟球のボールとはいえあの力で股間に入ったら股間死ぬ。
俺男じゃなくなっちゃう。
俺は動かない手足を最大限動かして奴らの手を逃れ地面を這う。
しかしすぐに捕まってまた何発か殴られた。

「芋虫みてぇに逃げてんじゃねぇようっぜぇな」
「大人しくボコられてろよ。俺らのタキモトへの恨みはまだまだまだまだこんなんじゃ足りねーんだからさ」
「しっかり受け止めろって、な!」
「うっ…は、ぁ、ぐ…」

本当もう最悪。
全部輝くんのせいだ。
どう思い出しても、最悪なことばっかだ。

「ぁ、き…く…」
「おーい、なんか言ってんぞコイツ」
「呻いてるだけだろーきめー」

だけど、それでも無理だ。
思い出すだけで、あふれ出てきてしまう。

「ふ、ぅ…」
「あっは!ちょっとちょっとコイツ泣いちゃってんぞ!」
「まじかよ!ダセェ!」
「ははははははは!」

すきだ。
だいすきだ。
最悪でも変態でも、だいすきだ。
あの人のせいで、こんなことになってるのに、それでも大好きだ、輝くんが。
イカれてる、どうかしてる、俺は。
でも、それでも、きっともう俺は、あの人を嫌いになるなんて出来ないんだ。

「あー、もう虚ろじゃんコイツー」
「やべぇんじゃね?死んじゃったらさすがにさー」
「でもまだやり足んねぇんだけど」

会いたい会いたい会いたい。
もう近寄るなとか、言われたけど。
いらないとか、言われたけど。
俺、伝えてない。
すきだって、大好きだって。
もしこのリンチ地獄から生還できたら、伝えよう。
この痛みに耐えきれたら、きっと想いを伝えて輝くんに殴られたりキモがられたりしても平気でいられる気がする。
ああ、でもそうだな。
出来れば、馬鹿じゃねぇのとか言って、少し笑ってくれたら嬉しいかもしれない。

「おい、なんかコイツまじでヤバくねー?」
「えー、でも…」

ガァアアン、と倉庫中に凄まじい音が響いた。
俺の髪を掴んで顔を持ち上げていた奴も、それ以外の奴らもみんな、目を見開いて音の方を見た。
何、一体どうした。

「え…おい、ちょ…、なんで」
「まじかよやべぇんじゃねこれ…」

俺は突然掴まれていた髪を離されてそのまま地面に倒れこんだ。
俺も痛む体を引きずって音がした方に目を向けた。

「……え?」

やばい。
俺殴られすぎて意識レベルどうかしちゃったんだろうか。
それともとっくに気を失っていて、これは夢とか?

「あ、き…らく…ん?」
「薫!」

物凄い音がした方、そこには輝くんが立っていた。
俺は信じられない気持ちで、昨日から泣き腫らして、さらに今殴られまくって重くなりすぎた瞼を最大限持ち上げて目を見開いた。
輝くんは俺の姿を認めると、こちらに向かって走ってきた。
何だコレ、ちょっとデジャブ。

「おいとにかくボコれ!」
「人数いんだからいけんだろ!コロセ!」

こちらに向かって走ってくる輝くんに向かって、不良達は転がっていた鉄パイプを握りしめて向かっていく。

「てめぇらコロス!薫とりあえず待ってろ!」

叫ぶと同時に、輝くんは鉄パイプを持った不良達の中に飛び込んでいった。
神様、もし夢なら覚めなくていいです。





俺にも助けに来てくれる総長様がいました





第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
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