凶器は持参します

「時也、この長い髪は何」
「あー…えっと、妹の!」
「お前の妹ショートだろ」


ああもう何回目だコレ。
時也の家に遊びに来たら速攻ベッドチェックが習慣になってきている。
抱きつくでもなくキスをするでもなく、速攻ベッドチェック。
どうなのそれ。
しかも今日は最悪だ。
薄茶色の長い髪の毛数本と枕カバーに付着した桃色の口紅とかすかに残る女物の香水。
くっそ。
どうせやるなら痕跡くらい隠しておけよ。

「…えっとホラ友達的な…」
「友達的な奴とこんなものを使うんですか」
「ぎゃー!そんなもの出してこないでさすがに!」

今日はあまりにも酷かったのでゴミ箱チェックまでしたら使用済みの避妊具を発掘。
最悪だ!

「…もしかして俺が来る数時間前の出来事だったんですか」
「だってまぁまぁ俺好みだったし誘われたから、せっかくだしと思って」
「しね」
「ぎゃ!」

とりあえず足元にあった雑誌で頭を叩いておいた。
もう本当、どうしてこうなんだろうかこの男は。


一回目はさすがに泣いたし、傷ついたし、別れようと思った。
思ったのに二回目はやってきてもう本気で別れようと決意した。
決意したのに何故か三回目を迎えてしまってもはや涙も枯れ果てた。
涙というのは枯れ果てると心が荒んでくるようで、このベッドチェックと制裁という名の暴力を恒例行事化した。


「いてて、でも大丈夫安心して!一回限りって約束のもとだったから!」
「何が大丈夫なのか皆目検討がつかないんですが」
「俺、やっぱり一番は光輝だなって改めて思ったよ」
「うるせぇ」
「ぎゃ!」

今度はテーブルに置いてあった中身が半分くらい残ってるペットボトルで殴った。
本当に、何で俺こんな男と付き合ってんの。
ってか男と付き合ってて女と浮気する男ってどうなの。
それって浮気以前の問題発生してくるよね。

「ごめん、もうしないよ」
「信じられるか」
「本当だよ…俺には光輝しかいないもん」

うるうると仔犬よろしく見つめてくる時也。
見た目完全大型犬ですけどね。

「はぁ…」
「光輝?」
「これも何回目かわからないけどね、別に、女の子がいいなら別れていいんだよっつか別れよう」
「じゃぁこれも何回目かわからないけど、嫌だ」

そう、何度別れを切り出してもコレ。
おかしくない?ねぇおかしくない?
俺が女の子なんだったら、いやそれでも許せないけどまぁいいよ。最低な馬鹿男レベルだよ。
でも俺完全に男だからね。
よく光輝ってくびれあるよねとか女の子みたいだねとか言われるけどついてるモンついてるし、ついてないモンはついてないから。
それなのに、時也は頑なに別れを拒否する。なんなの本当。
最低な馬鹿男に加えて意味不明がつくんだこの男には。

「俺が浮気する理由わかんない?」
「妊娠させてしまうかもしれないというスリルを味わいたいから」
「は!それは確かに…!」
「やっぱしね」
「ぎゃー!ちょ、それはマジでしぬから!やめて!」

洋服箪笥の上に置いてあった「運動会 一等賞」と書かれた謎のトロフィーを手にする俺を真剣に時也が止める。

「っち」
「舌打ち?ねぇ今舌打ちした?」

とりあえずトロフィーを元の位置に戻して時也に向き直る。
本当に、整った顔をしているんだこの人は。
そのまま見つめあう俺と時也。

「光輝…」
「…」

そ、と頬に手を添えられて近づいてくる時也の顔。
ここまでドアップに耐えられるなんて。この顔があるから浮気とかするんだよね。
とんだ女性ホイホイだな。よし潰しておくか。

「…ねぇ今ちょう不吉なこと考えたよね」
「っち」
「え、舌打ち?また舌打ちなの?」

時也ははぁぁぁあと深い深い溜息をついた。
なんだよ、溜息つきたいのは俺の方だよ。

「なんで、わかんないのかなぁ…」
「なにが」
「もう27回目だよ?」
「結構中途半端な数だね」
「そうだね……ってそうじゃなくてね」

27回目。
そう、それは彼が浮気をした数で、俺が別れを切り出した数で、彼がそれを拒否した数。
…ついでに言うと俺が泣いた数。
涙なんてものはね、枯れ果てやしないんだよ。

「もう27回、俺って浮気してるじゃない。しかも女の子と」
「そうだね最低だね」
「でしょ?俺もそー思う」

ニッコリ笑って言う時也。
何が言いたいのか本気でわからない。
俺は眉間に皺を寄せて時也を見る。
時也はさらにクスクスと笑い出す。
…今日叩きすぎたかな…

「こんなに最低なのに別れないなんて、俺って愛さてるんだなぁって」
「は?」
「普通はね、浮気なんてそうそう許してくんないし。せいぜい2回が限度なの」
「…」

言いながら時也はじりじりと俺に近寄ってくる。
そしてそのまま後ろのベッドに追い詰められる。
ああ、結局またこのパターンか…

「浮気する度、光輝の愛を感じちゃうんだもん。もうやめらんないよね」
「…麻薬みたいな言い方すんな」
「あながち間違ってないかもよ?」

ドサリと押し倒されて、視界には天井と時也。
さらさらと俺の髪を撫でながら、ニコニコ笑う時也は、本当意味不明で最低で馬鹿なヤツ。
そしてそんなヤツって分かってて、ずるずる関係を続けちゃう俺はもっと意味不明で最低で馬鹿なんだ。

「次やったら本気で頭カチ割る」
「…トロフィーはしまっておかなきゃね」
「それってつまり次もやるって言ってるって分かってる?」

ニコリ、いい笑顔を見せてから俺の首筋に顔を埋める時也に俺は溜息をついた。










トロフィーは持参するかぁ


(…光輝、心の声は心の中で喋って)
(あれ)




END



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