フラグクラッシャーの計画





以前も言いましたが、俺が通っているのはありとあらゆる条件が揃った王道学園だ。
そんな学園に転入生がきました。つまりそういうことだ。もう分かるな?
ぅひゃあああああい!!!来たんですよ来たんですよ王道転入生が!
もう見るからに鬘なモサモサヘアーに瓶底眼鏡の元気っ子っていう見事な王道転入生スタイル!ぐっじょぶ!!!!!
そう、今までこの学園には何かが足りないと常々思っていたんですが、王道転入生がいなかったんですよ。
いやぁ、王道転入生がいないんだもん、俺が脇役平凡になれるはずもないよね。
主役がいないんじゃ脇役なんて存在しないんだから…!
まったく恋人欲しさに気が早っちゃってたわぁ、俺。
まぁもう今は直樹っていう恋人もいるし、脇役平凡になりたいという願望は無くなったのでそこはもういいんだけどね。
でもやっぱりすんごく興味あるっていうかコレ見なかったら俺腐男子と名乗っちゃいけないと思うんだ。
そんなわけで王道転入生といったらまずは食堂イベントでしょう!と思いながら俺は直樹を引き連れて日々食堂に通っている。
あー、早く生徒会御一行様が現れてイベント勃発してくれねぇかなぁ!

と、いうのが一週間前の俺だ。
現在はゲンドウポーズで目の前の光景を眺めている。
ちなみに某呟き的に言うなら不機嫌なう。
もう本当、むっちゃイライラしています。

「直樹!ホラ食えよ!遠慮なんていいからさ!」
「あ?あー…じゃぁ、一口なら…」
「えへへ、本当素直じゃないよな、直樹は!はい、あーん!」

見ました?見ました!?見ましたよねぇ!!!?
今の直樹さんです!俺の恋人の直樹さんです!
でもその直樹に「あーん!」とかやっているのは俺じゃない。だって俺は今ゲンドウポーズで不機嫌なうだ。
じゃぁ誰かって?冒頭の下り読めばわかるよね。王道転入生の野郎ですよ。
どうしてこうなった!
王道食堂イベント見ようと思って食堂行ったら丁度この転入生が生徒会に絡まれているところで、ひゃっふう!とかなってたら突然転入生がこっちに走ってきて直樹に激突。そのまま何故か王道転入生は直樹に一目惚れした。
そしてこの状況である。

「うまいか!?」
「まぁ、食堂のプリンだし。そりゃうまいよ」
「えへへー、もっと食えよ!」
「一口でいいって言っただろ」

そう言いながら転入生はプリン片手に直樹にぐいぐいと近寄っている。
何これどういうことなの?140字以内で説明しろ。今すぐにだ。

「おい平凡…?」
「あ?」
「え…」

俺はイライラ最高潮で目の前で繰り広げられる恋人の公開浮気に荒んでいた。
相変わらずのゲンドウポーズでそれを睨み付けていると隣から声をかけられ思わずそちらにも睨みをきかせてしまう。
声をかけてきたのは会長様で、俺の反応に驚いたようにビクリとした。あ、なんかごめん。
ちなみにここは食堂で、俺と直樹は転入生と生徒会一行様と転入生の友達だという爽やかイケメンと一匹狼不良に囲まれている。
そして遠巻きにこちらを見つめるチワワ達。
何これ何このカオス。
一見王道学園ものの王道構図だけれどだいぶ違う。
だってなんか生徒会役員達は生徒会役員同士でなんかイチャついてるし、爽やかイケメンくんはテーブルの下で一匹狼不良にイタズラしてるくさい。だってさっきから一匹狼不良が顔赤くしながらビクビクしてる。なにこれこわい。
そして王道転入生と直樹は何故かイチャイチャしていて、取り残されているのは俺と会長様だ。
こんなの絶対おかしいよ。

「平凡…顔がめっちゃこわいことになってんぞ」
「会長様…」

会長様は困ったような顔を浮かべながら、人差し指を俺の眉間にあてた。
うわ、俺の眉間めっちゃ皺よってた。
会長様はそれをほぐすようにグリグリと優しくマッサージしてくれる。
なんて優しいイケメンなんだ。外見だけでなく心までイケメンだなんて。

「どうした?」
「っ…会長さまぁああ!」
「ぅお!?」

俺は思わず会長様の胸元にタックルした。
なんて逞しいんだ。素敵!
会長様は戸惑いながらも背中に手を回してくれて、よしよしするように撫でてくれる。
もうこの優しさに全俺が泣いた。

「もう俺いっそ会長様と付き合えばよかった!」
「あ?」
「だって直樹冷たいし、浮気するし、俺のことゲロとか下痢とか言うし…!もう耐えられないぃい」

泣きつくように会長様にぎゅむぎゅむと抱きつく。
そうだ、本当、この人に惚れたらよかった。
まぁ生徒会長様とかそんなすごい人が俺の恋人にとか有り得るわけないけれど、でも優しくしてくれる。
俺の好きな甘々展開だって、この人なら叶えてくれる気がする。
直樹はいつまで経っても優しくも甘くもない。
俺のことが好きなんだって思ってたから、今まで平気だったけど、本当は俺のことからかってただけんじゃないの。
…やべ、まじでそんな気がしてきたぞ。
そう考えだしたらノリで泣きまねしていただけだったのが本格的に悲しくなってきて、じわりと涙腺が緩むのを感じた。

「じゃぁ…」
「え?」

垂れはじめた鼻水をズビっと吸っていたら頭上から優しい声が降ってきた。
俺は思わず顔を上げると、そこにはちょう真剣な顔をした会長様。
え、なんだどうした。

「じゃぁ俺にしちまえよ」
「へ…?」
「俺なら泣かせねーから。な?」
「っ…!」

俺は顔がぶわっと一気に熱くなるのを感じた。
やっばいどうしようこの人本当にかっこいいぞ!
こんなイケメンにこんな体制でこんなかっこいい台詞吐かれたらひとたまりもないだろ。
しかも俺は今酷く傷心中だ。
くらくらっときてもそれは俺のせいじゃないはずだ。

「かいちょ……ぐえっ!」
「いい加減にしろよ」

ふらーっと会長に傾きかけたとき、突然首に腕が回され勢いよく後ろに引かれた。
や、ちょ、締まってる!締まってるよ!なんぞ!?
俺は力の限り体をよじり腕の正体の方に振り向く。
いや、声でわかってるけどもね!?

「なお…っ」
「ちょっとお前来い」
「え、や、ちょっ…!」

直樹は俺の首に腕を回したまま席を立ちガタガタと音をたてながら人垣をわけていく。

「おいてめぇ待てよ!」
「直樹!どこ行くんだよ!」

後ろから会長様と転入生が叫んでいるが直樹は総シカトで俺を引きずりながら食堂を出て行った。
会長様ごめんね…なんか。
今度菓子折り持って謝りにいくね。だが転入生、てめーはだめだ。てめーは俺を怒らせた。
俺はズルズルと引きずられながらもう見えなくなった転入生を脳内フルボッコの刑に処していた。
そのまましばらく引きずられたどり着いたのは俺たちの寮部屋だった。
あ、俺と直樹は同室で、だからこそお互いが腐男子だと発覚したんだけれどもね。
そして寮部屋に着くなり俺は直樹の部屋に押し込まれ、ベッドに放り投げられた。

「なお、…っ」
「何度言えば分んだお前本当」
「直樹っ…?」

ベッドに倒れた俺の上に直樹はそのまま乗ってきて、押し倒されるような体制になった。
いやまぁ実際押し倒されているわけだけれど。
それにしても直樹の顔めっちゃ恐いんだけど。かつてないんだけどどうしようこれ。変な汗かいてきた。

「どんだけ折ってやってもまたフラグ立てるしさぁ。お前俺のだって自覚あんの?」
「フ、フラグなんて立ってないと思…」
「あぁ?」
「す、すみませ…」

むっちゃすごまれたのでわけもわからず思わず謝ってしまった。
けれど、おかしくないかコレ。
だって実際フラグ立てたの直樹の方じゃんか。あの転入生と。
俺が何したって言うんだ。
会長に慰めてもらってただけだろ、よしよし的な意味で。
それだって直樹があの転入生とイチャイチャあーんなんてリア充爆発しろなことやってたからいけないんじゃんか。
そう思ったら途端に恐怖は消え失せ、逆に苛立って直樹をギ、と睨み付けてやった。

「直樹がいけないんじゃんか!」
「はぁ?」
「あんなモジャモジャ転入生と仲良くして!しかも俺の目の前で!俺だって直樹にあーんとかしたことないのに!」

じわ、と再び視界が滲んだ。
ここで泣いたら負けな気がする。でも悔しい。

「俺だって直樹とイチャイチャしたいのにっ…直樹が嫌そうだから我慢してて、それなのに、あんな瓶底転入生と…っイチャイチャすっ…ぅっ」
「え、ちょっと待っ…」
「おれっ…俺ばっかりが直樹のこと、好きみたいでっ…やだ!もうやだぁ!」

我慢できずに俺はうわぁぁんと泣き始めた。
泣くならいっそ豪快に、だ。
最初に告ってきてくれたのは直樹だけど、俺だって直樹のこと大好きだ。
直樹の恋人でいられて嬉しいのに、なんで直樹はいつも冷たいんだ。
本当は俺のこと別にすきじゃないんじゃないの?
ああもうだめだこれ絶対涙止まらないよ。
俺は制服の袖でぐしぐしと溢れ続ける涙を拭った。

「はぁ…」

上から大きめのため息が聞こえたと思ったら、涙を拭っていた腕をぐ、と引かれ起き上がらされた。

「なお…?」
「なんか、とりあえずごめん」
「っ…」

困ったような顔をした直樹に謝られたと持ったらそのままぎゅ、と優しく抱きしめられた。
う、わぁ…何これ…
こんななんか優しく抱きしめられたの初めてじゃないの…?
俺はおそるおそる直樹の背中に腕を回した。

「ちょっと、お前がヤキモチ妬いてくんないかな、とは思った」
「…だからあーんやったのか」
「そ。だから、ごめん」

ごめんね、と有り得ないくらい優しい声で何回も謝りながら直樹が俺の頭を撫でる。
どうしようすっごい嬉しいんだけど何これ。
いつの間にか涙は止まっていて、俺は直樹の背中に回した腕に力を込めた。

「仕方ないから許してやるよ…」
「何様だこの下痢ゲロ野郎」
「…融合しないでくれないかな」

俺の機嫌が直ったことが分かったのか、いつもの直樹に戻ってしまったけれど、やっぱりコイツも俺のことが好きなんだなぁと実感してしまった。







フラグ修復しました


(じゃぁさっそくイチャイチャしようず!)
(何言ってんの?これから3日間会長に抱きついた罰で監禁だよ)
(…………え?)


END




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