それは、
ちょっと俺の最近の悩みを聞いてください。
数か月前行われた大学のサークルの新入生歓迎飲み会。
そこで奴と初めて話した。
俺の所属サークルは、まぁなんというか、遊びサークルなのだけれど、結構人気のサークルで、人数が軽く100人超えている。
そんなわけで奴とは1年の頃から同じサークルに所属していたらしいにも関わらず、言葉を交わしたのは本当についこの間。
ちなみに今は大学二年生の夏である。
奴はサークル内では人気のイケメンだったから、俺の方は一方的に奴を知っていた。
ていうかぶっちゃけ大学構内でも、その人目に付く容姿と明るい性格のために人気者だったから、知らないわけはなかった。
まぁ奴は俺の事なんか知らなかったと思う。
俺はなかなか友達は多い方だとは思うけど、それでも一般平凡大学生だからね。
それでさ、まぁ、その飲み会でたまたま奴と席が隣になって、初めて話したんだ。
そしたら結構趣味が合うことがわかって、すぐに仲良くなった。
うん。そう、仲良くなったんだ。めちゃくちゃ。
で、ここまではいい。ここまでは。
問題はここからでな?
その飲み会以来、奴は何かと俺に構ってくるようになったんだ。
もう何こいつエスパー?ってくらい俺の欲しいものとか、してほしいことを、言ってもいないのにしてくれるんだ。
なぜか知らないがめちゃくちゃ甘やかしてくるんだ。
ちょっと意味がわからない。
確かに仲良くなったけど、そんな甘やかされるほどのものだったかと言われると答えはノーだ。
ていうかもはや恋人なんじゃないかという勢いで甘やかされている。
そしてそれが嫌じゃなくて、むしろ奴が何かと俺に構うのが嬉しい俺がいることが何よりも問題なんだ!
何!?何でイケメンとはいえ男に構われて喜んでんの俺!?
他にも俺に構ってくれる友達はいるけどなんかそいつらと違うっていうか、もうなんていうの?
奴が笑顔で俺の名前呼びながら俺の所に走ってきてくれたりするとこう胸がきゅーって…あああああああもう何これ嫌っ!きもい俺!いや!
そんなわけでこれが俺の最近の悩みで、もう軽く寝不足だよ、俺。
「芦宮(アシミヤ)ー!」
ああ、ほら、言ってるそばからやって来ましたよ、奴が。
「おはよう芦宮」
「おぅ、おはよー、津田(ツダ)」
朝から爽やか笑顔で小走りで俺に駆け寄るイケメン津田。
うう、今日も眩しい…なんというイケメン。
「芦宮はいつも早いね」
「ん?普通だろ」
「そんなことないよ。結構みんな遅刻とか普通にしてんのに、芦宮は偉いよ」
「っ…」
そう言いながら津田は俺の頭をくしゃくしゃっと撫でた。
途端にきゅんとときめいてしまう俺。
ああ、もう嫌だ…
「ね、芦宮、今日も昼一緒にどっか行こ?」
「ああ、うん、いいよ」
毎日ではないけれど、津田はよく昼とか遊びとかに誘ってくれる。
人気者で、友達だってたくさんいるはずなのに、俺といてくれるのが嬉しかったりする。
「じゃぁ、またあとでね」
「おう」
爽やかに手を振って去っていった。
ああもうだめ。心臓ばくばくいってるなにこれ。
「あーしみやっ」
「ぅわっ」
はぁぁ、とわけのわからない動悸にため息をついていると後ろに突然重み。
「…離れろ須藤、重い」
「んー、芦宮今日もつれないな!」
「うっざい!」
背中からぎゅうぎゅうと俺に抱きついているのは学部も一緒でとってる授業もほぼ丸かぶりな友人Aこと須藤。
いい奴ではあるけれど軽いノリがとてもウザイ。
「もー、津田にはデレ―っとするくせに俺にはいつもツン全開なんだから」
「…なに言ってんだ」
「何赤くなってんのー」
須藤の言葉にドキっとしてつい赤くなってしまった。ほっぺ熱い。
津田にデレーっとしてんのか、俺。恥ずかしい…
「…芦宮?」
「なんでもねー」
俺は赤くなっている頬をつんつんとつついてくる須藤の手をバシリと払い落として教室に入って行く。
須藤も後ろからちょこちょこついてくる。
「もうー可愛い奴め!」
「はぁ?」
やっぱり須藤はウザい。
「芦宮ー」
「あ、おー、今行くー」
授業が終わり、片付けていると、教室の入り口から津田の声。
他の学生が津田をちらちら見ながら教室を出ていくのを全く気にもしないで、ニコニコと俺の所へやってくる。
ああまた、胸がどくどくと…
「ね、今日はどこに…」
「津田くん!」
鞄にノートやら何やらしまっている俺の隣に立った津田が相変わらずな笑顔で何かを言いかけたところで、別の声に遮られた。
見ると何やらおっぱいの谷間全開で生脚大露出のケバイ女の子がニコニコとこちらに向かってきていた。
「もう授業終わりなんでしょ!?一緒にお昼食べようよー!」
「え、あの…」
「あ、私コース違うけど同じ学科なんだよー。ずっと津田くんと話してみたくてぇ」
おっぷ臭い!何この人臭い!
香水!?香水てこんな臭いもの!?
俺は思わず顔をしかめてしまった。
しかし女の子の方は俺なんて存在していませんとでも言うように津田にすり寄っていく。
「だからぁ、お昼一緒しよーよ!私おいしいお店知ってんの!」
「や、だから…」
女の子は津田の腕に自分の腕をからめておっぱいをぐいぐい押しつけている。
津田は体を引きながら、断ろうとしているのか言葉を紡ごうとするが女の子の方が、まるで津田の意見聞く耳持たないとでもいった風にマシンガンに喋り続ける。
俺は呆然とその光景を見ていた。
「ね、ほら、行こうっ!」
「おいっ…」
「だめ!」
ぼぅっと見ていたら女の子はぐいぐい津田を引っ張って行こうとしたので、俺はついガタリと立ち上がって女の子が掴んでる腕とは反対側の津田の腕をつかんだ。
「は?何あんた?」
「今日は俺が先約で津田に用があんだから、だめ」
「はぁあ?」
女の子はまるでゴミでも見るかのように俺を睨み付けた。
こえぇ。
でも俺も負けじと睨み返す。
「ちょっと、何なのっ…」
「放して」
「え、津田くん…?」
女の子が尚も津田の腕にしがみついて俺を睨んでいると、津田が冷たい声で女の子の手を振り払った。
「俺、芦宮と飯食うから、あんたとは行かないから」
「え、ちょっと…」
「行こう、芦宮」
「へ…?」
津田は俺が津田の腕を掴んでいた手を一回放してから掴み直して、ぐいぐい引っ張って教室を出た。
ちら、と振り返るとそこでは「まじありえねぇ」と汚い言葉使いで津田と俺を罵っている女の子が見えた。女子こえぇ。
「あ、あの、津田」
「ん?」
ぐいぐい俺を引っ張ったまま、構内でもあまり人気のない場所まで連れてこられていた。
あれ?昼飯に行くんじゃなかったのか。
「と、とりあえず何かごめ…ん」
「何が?」
「さっき…なんか俺、キモかった…よな」
女の子に迫られてるのを見て、ついカっとなってしまった。
津田が女の子と行ってしまうかもと思ったら嫌で仕方なくて、ついその腕を掴んでしまった。
けれど、それってよく考えたら男で、友達な俺が取る行動じゃないよな、普通。
もう俺、本当おかしい…何やってんの。きもい。
「やっと意識してくれたの?」
「そうだよな、キモ………え?」
「やっと、俺のこと見てくれたの?」
てっきり「本当キモイよどうしたの」くらい言われると思ってたのに、降ってきたのはよくわからない言葉で、マヌケな声を出してしまった。
「さっき、ヤキモチ妬いてくれたんだろ?」
「え、は…え?」
「あんな可愛いことしてくれちゃってさ。顔ニヤけちゃったじゃんか」
津田はそう言いながら俺の頬に手を添えた。
瞬間どきりと跳ねる心臓。
何これ何これ何これ。
「俺は、ずっと芦宮のこと見てたよ」
「あの、それ…どういう…」
「俺、芦宮の事、好きだよ」
そう、ニコ、と言われ思わず目を見開く。
何だかくらくらする。
顔中が熱くなって、心臓がさっきよりもずっと早く跳ねる。
俺は後ずさって津田との距離をつくる。
「去年一緒の授業が一個あって、その時のテストで俺シャーペン忘れちゃって、やべーって困ってる時にさ」
「あ…ぅ…」
「たまたま隣に座ってた芦宮が、黙って貸してくれたんだ」
うっすらと、テスト中に誰かにシャーペンを貸した記憶はあるが、あれが津田だったなんて…
「あまりにも男前だったから、ついきゅんとしちゃって、芦宮が好きなものとか色々調べて近づいたんだよ」
「あ、の…でも俺…男…」
「うん?関係ないよ。もともと俺、両方いける方だったから」
ニコ、といい笑顔で爆弾発言をかました津田に俺は別の意味で眩暈。
嘘だろ。
「あり、えない…」
「そうかな」
「そ、うだよ…」
俺は俯いた。
さっき後ずさって作った距離は、津田がまた俺に近づいたことによって簡単に埋まってしまった。
男に告白されて、しかも好きなものとか調べて近づいたとか何かこわいこと言われているのに、相変わらずドキドキと鳴っている心臓。
ああ、もう
「ね、もう認めちゃいな、芦宮」
「っ…」
耳元で声がしたかと思うと、ぎゅ、と背中に腕を回されて抱きしめられた。
「認めちゃって、ここに、おちてきなよ」
ふ、と囁くように言われ、腰から溶けそうになった。
何ていう声しているんだこのイケメン野郎め…
俺はぎゅぅ、と、津田の背中に腕を回して抱きしめ返した。
もう、言われなくてもとっくにおちてる。
これは、恋だ。
(…おい、アイツらとうとうくっついたのか?)
(みたいだねー。あーあ、俺の可愛い芦宮がー)
(とりあえずこれで津田の芦宮語りから解放されるんだな…!!!)
(これからはノロケが待ってるんじゃないー?)
(…………)
END
お待たせしましたぁあああ
みや様リクエストの「人気者×平凡」でした…
結構具体的にリクエスト頂いてたんですけど…応えられているのやら…
すっごい待たせてこんなかよ!みたいな感じですが。
一万打企画参加ありがとうございました!