どこまでいってもぼくはきみのともだちです


あれ以来、アオイが学校に来ていない。
アオイの不良友達というか、それ関係のつながりの人たちにもおそるおそる聞いてみたけれど、あの日以来アオイを見た人はいなかった。
なんだかとても嫌な胸騒ぎがした俺は、アオイが一人で住んでいたアパートへ向かった。
あれ以来なるべくアオイのことは考えないようにしていた。
人美さんがいてくれるから、どん底まで落ち込まないで済んだけれど、やっぱりアオイの言葉とかあの冷たい目だとかを思い出すと今でも泣きそうなくらい心が抉られた。
だって本当に大好きな、一番信頼していた友達だったから。本当に、アイツがいつか殺人とかしちゃっても親友だって言える自信があるくらい、友達として一番大好きだったから。
それで、だからこそ、あれだけ酷いことを言われてしまっても、まだ心のどこかでアオイのことを信じている俺がいて、ついここに来てしまった。
アオイの部屋の前で、インターホンを押す。
ピンポーンという音が響くだけで何も起こらない。
何度も何度も押すが、扉が開くことは無い。

「いないのかな…」
「あのー…?」
「っ!」

そろそろ諦めようかと思っていた俺に、突然声がかけられて俺はビクリと肩を震わせた。
声をかけてきたのは中年の優しそうなおばさんだった。
俺は思わずペコリと頭を下げた。
そんな俺におばさんはぱぁ、と突然顔を明るめた。なんだなんだ

「あなたもしかして、"アカネ"くん!?」
「え、そ、そうですけど…」
「青伊くんのお友達の"アカネ"くんよね!?」
「あ、え、っと…そうです…?」

もう今は、友達と言っていいのかわからないけれど、俺は一応頷いておいた。
するとおばさんはちょっと待っていてと言っていそいそとどこかへ行った。
何なんだろうあの人は。俺のことを知っているなんて。
しかもアオイの友達だと思ってるってことは、アオイと親しくてアオイから俺の話を聞いてたのかな。
あれ、でも待てよ、アオイ確か俺のこと暇つぶしだとかなんとか言ってたよな。
それなのに、友達って認識されてるなんておかしいんじゃ…
俺がぐるぐると考えを巡らせていると、おばさんがパタパタと嬉しそうな顔をして戻ってきた。
その手には白い封筒があった。

「お待たせ。あ、私ね、このアパートの大家してて、青伊くんとすごく仲良かったのよ」
「あ、そうなんですか…」
「いつもあなたのお話を聞いていてね、一度会ってみたいと思ってたの。本当に可愛い子なのね」
「え、いや…」

おばさんはそれはそれは嬉しそうに俺を見つめていた。
アオイは親と不仲で、高校あがった時からずっとここで一人暮らしをしていた。
アオイにとってきっとこの人はお母さんみたいな人だったんじゃないだろうかって、すぐに思った。
だって本当に優しそうだこの人。俺も思わず顔がほころぶ。

「それでね、もしアカネくんがここに来たらこれを渡してほしいって言われてたの」
「え…」
「赤毛の可愛い子が来たらその子だからって言われててね。本当にその通りだったから、すぐにわかったわ」

そう言いながら手渡されたのは、白い封筒だった。
表には汚い字で「アカネへ」と書いてあった。
それは何度も見たことがあるアオイの字だった。

「急に出ていくことになって、すごく寂しかったんだけどね。でも最後のあの子の頼みごとが聞けてよかったわ」
「あ、りがとうございます…わざわざ…」
「ううん。別れるの辛くなっちゃうから、あなたには何も言わずに行くって言っていて…あんなに大好きだったあなたにちゃんとお別れもできないなんて可哀想だったから…」
「え…大好き…て」
「青伊くん、あなたのこと大好きだったのよ。ご飯いつもうちで食べててね、話題はいつだって、あなたのことだったんだから」

会えてよかったわ、ともう一度言っておばさんは去って行った。
俺は何も考えられなくて、ふらふらと、はじめてアオイと会った公園に向かった。
あの日アオイはボロボロで、痛みに涙を流しながら倒れていた。
恐かったけれど、泣き虫な俺はその分他人の涙に敏感で、つい手を差し伸べてしまった。
最初はめちゃくちゃ睨まれたけど、持っていたハンカチを濡らして、痛みで動けないアオイの血を拭っているうちに、笑ってくれた。
それがアイツとの出会いだった。
まるで漫画みたいだなって俺は言ったけど、漫画だったら不良の方は泣いてないはずだろかっこ悪いとバツが悪そうな顔をしていた。
俺は公園につくと、空いていたベンチに腰をかけて、封筒を開いた。
中には一枚の紙が入っていて、そこには汚いアオイの字がたくさん書いてあった。
俺の瞳はダムが決壊したみたいに、ぼろぼろぼろぼろ止めどなく涙が零れた。
泣き虫だけど、こんなに泣いたことは無い。
公園で、人がいるだとかそんなこと全部無視して俺は声をあげて泣き続けた。
汚い、下手したら読めないくらいの字で書かれた手紙を何度も何度も読み返しながら、俺はずっと泣き続けていた。







ひとみと両想いになれてよかったね。
ひどいこといっぱい言ってごめんね。
本当はオレ、アカネのこと大好きだからね。きっとひとみよりもアカネのこと大好きだよ。
ずっとアカネといたかったです。
でもきっとオレがいたらアカネはしあわせにはなれないだろうから、オレは遠くにいくことにしました。
どうかアカネはたくさんたくさんしあわせになってください。

オレは遠くにいくけれど、どこまでいってもオレはアカネが大好きです。
さようなら

追しん、









(「追しん」の後の文字は、俺の涙なのか彼の涙だったのか)
(滲んで見えなくなっていた)


END



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テーマ「人外ファンタジー」
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