フラグクラッシャーの企み


いきなりだが俺は腐男子だ。
ついでにいうと平凡腐男子だ。ただしバイ。
女の子にも勃つが男が好きだ。ゲイ寄りのバイだ。
男好きだったらそれお前腐男子じゃねーよって言われたが、何と言われようとと腐男子だ。
だってゲイやバイの人みんながBLを好きなわけじゃない。むしろ嫌悪してる人の方が多いんじゃないか。
だけど俺はBL好きだ。萌だ。つまりこれ腐男子だろ。
ちなみに好きなカップリング傾向は美形×美形とか美形×平凡とかだが、俺の男の好みはガテン系だ。スジ筋万歳。
そして俺は腐男子に課せられた使命がごとく全寮制男子校に入学した。
もう日本中探しに探してやっとみつけた王道設定に近い金持ち学園だ。
ありがたいことに俺の家は裕福だったので、よく腐男子が王道見たさに奨学生目指してバリバリ勉強しているのを見かけるが俺には必要なかった。
ここぞとばかりに親におねだりかまして普通に勉強して高等部からその学園に入学した。
そうして俺の色んな意味での薔薇色高校ライフが始まった。
それはもう、夢のような場所だった。
苦労して見つけた甲斐あってそこはこれでもかというほど王道設定満載の学園だった。
人気ランキングで決まる生徒会に、美形を取り巻く親衛隊、タッチパネルで注文するレストランのような食堂に豪華絢爛な建物達。
さらに生徒会役員は俺様生徒会長に始まり腹黒副会長、無口ワンコ書記、ぶりっこ小悪魔バリタチ会計、チャラ男と双子事務局。
学園のあっちゃこっちゃで行われるにゃんにゃん行為に、きゃんきゃん騒ぐチワワ達!おまけに担任はホスト教師ときたもんだ。
みんな揃ってるぅぅううううううう!!!!!
もう俺は息も絶え絶えだったね。こんな幸せあっていいのか不安になって何度も夢じゃないかとほっぺつねったね。

それでさ、よく腐男子は「俺は見る専門だ!」とか言ってるの見るけど、俺はフラグ立つのウェルカムだったの。
っていうかあわよくば王道学園の脇役腐男子になってフラグ立って彼氏出来たらいいなとか思ってたの。ちょう期待してたの。俺恋人できたことなかったし。
でもさ、現実そんな甘くねーよ。なんだよ脇役腐男子って。
だいたいゲイの皆さんって結構面食いな方多いのよ。当然だよ。だからこの学園美形が人気なんじゃんね。
それがお前…小説のようにこんな平凡にフラグなんて誰が立てますかってんだよ。ちょっと考えればわかることじゃんよ。
俺だって嫌だよこんなキモヲタ平凡腐男子なんて。いいとこないじゃねーかよ。


「でさ、もう俺は見て楽しむことにしたわけよ」
「お前腐男子の風上にもおけねーな」

もちゃもちゃパンを食べながら俺はこの学園で出会った腐男子仲間のくせにイケメンな直樹に愚痴をこぼしていた。
そう俺は腐男子でBLウォッチング大好きだが、イチャイチャする生BLを拝んでいたら恋人が欲しいという欲求が大爆発した。
だって全国の腐女子、腐男子のみなさん、素敵BL漫画ないし小説を読んでいて「恋してー!こんな風に愛されてみてー!」って思ったことありません?
それを今俺生で見ちゃってるからね。ライブですよライブ。生BLなうってな感じですよ。
リア充になりてぇよ俺は。…まぁある意味リアルは充実してますがね。薔薇色的な意味で。
だけどそんなあふれ出る欲求とは裏腹に俺には一向に恋人が出来ない。
二回くらい好みのガテン系の先輩にアタックかましてみたが「お前みたいなベストオブ平凡は圏外だ」と言われた。

「ガッデム!!!!!」
「うをっ!」
「現実なんて嫌いだ!小説の中なら平凡はモッテモテなのに!平凡なら平凡なだけフラグガンガン立つのに!」
「…小説の中の平凡くん達はお前と違って可愛いからね」

直樹は俺の叫びに一瞬ビクリと体を震わせたが、俺のダダ漏れな心の声を聞いて呆れた目で俺を見た。
俺は直樹の言葉に固まる。

「え…」
「なんかお前怖いもん。かわいくない。外見は総受けフラグの平凡で言うことないのに、中身がとんだ野獣じゃねぇか」

直樹は俺との距離を作った。
おいまて何で引いてんだお前。

「俺は美形×平凡が大好きなんだ。そんでお前を見たときはそのあまりの平凡さにガッツポーズまでした。一時は俺のエンジェルだったんだお前は」
「まじでか。照れんだけど」
「顔赤らめんなウザい。今ではお前は俺の理想を粉々に打ち壊した憎い…おっさんが吐いたゲロみたいな存在だ」
「おい馬鹿言いすぎだぞ」

直樹はぺっと吐き捨てるように言った。
その目は完全に道端にある犬のうんこを見るようなものだった。

「いいか直樹…俺がいくらゲロみたいな存在であってもだな」
「ただのゲロじゃない。おっさんが吐いたゲロだ」
「おいいい加減にしろ泣くぞ。俺が」

傷つくんだぞ、と続くはずだった俺の言葉を間髪入れず訂正してきた。
そんなに俺が憎いのか。本当に泣くぞこの野郎。
俺は直樹を睨み付けながら、食べ途中だったパンをかじり、咀嚼した。
もう直樹の方は見ない。またあんな目で見られたら絶対泣くぞ。


「打ち壊してくれたんだよ、お前は本当に」
「ああ、もういいよわかったよ悪かったから。もう俺のライフはゼロだよ」
「俺、ノンケだったのにさ」
「あ?」

俺は思わず顔を上げた。
そこには犬のうんこを見るような目をした直樹はいなくて、むしろ切なげに顔を歪めた直樹がいた。
え、なんだどうした。てかお前今何て言った?

「見る専門だったし、万が一自分にフラグ立ったらバッキバキにしてやろうと意気込んでこの学園入ってきたんだよ俺」
「う、うん?それはもう初めてお互い腐男子って発覚した時に聞いた…ぞ?」

直樹はさっき自分で作った距離を今度はじりじりと埋めて俺に近づいてきた。
なんだなんか怖いぞお前。え?なんだこれ。
近寄る直樹に俺は思わず後ずさるが、伸びてきた腕に捕まった。
目の前の直樹の表情は真剣そのもので俺はドキリとする。
え、ちょ、まさかこれってなんかのフラグ?

「それをお前…こんなおっさんのゲロみたいな野獣系平凡に…」
「ねぇお前もしかして俺のこと嫌いなのか?嫌いなのか?」

大事なことだったので二回聞いてみたが直樹はそんな俺にため息を吐いた。
あ、もうフラグとかねぇわこれバキバキだわ。
ってか直樹ノンケだからフラグも何もないか。ね。
俺ちょっとテンパちゃってた。

「直樹?」
「あのさ」
「うん?」
「なんで総受け平凡にならないかって?モテモテにならないかって?そんなの決まってんだろ、ってかいい加減気づいてくんない?」
「だ、だから、俺がゲロだからだろ?」

直樹は俺を掴んだ腕に力を込めて俺を引き寄せた。
直樹の顔はだんだんイラ立ったものになっていっていて、でも俺は言っている意味がよくわからずおろおろと首を傾げてしまう。
俺のモテない意味はさっきから直樹が自分で言ってるのに、尚俺に聞いてくるってどういうことだ。

「ああ、まぁそれもあんだけどさ。あとおっさんのゲロだっつてんだろ」
「もう泣いていいかな。いいよね。泣くぞ」

直樹の言葉に俺はグスリと鼻を鳴らした。
視界がかすんで見えないや。
直樹の馬鹿野郎。イケメンだからって何でも許されると思ってんのかこの野郎。
びすびすと泣く真似をする俺の目元を、ベロリと生ぬるい感触が拭った。

「!?な、おっ…!?」

ビックリして目をかっぴらくと、見たことないほど悪い顔してペロリと舌をだしている直樹の顔があった。

「総受け?モテモテ?ガテン系がすき?んなフラグ許さねーよ」
「え、ちょ、直樹…?」
「見る専ノンケっつー大事なアイデンティティぶっ壊してくれた責任は、フラグ回収ってカタチでとって貰うからな」

覚悟しとけよゲロ野郎。
そう言って直樹は俺の唇に噛みついた。








フラグ回収させられました



(直樹…俺甘々展開が萌なんだが!)
(残念俺はヤンデレ萌だ)
(!?)


END

4月の拍手お礼でした!
いつも拍手ありがとうございます。



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