朝チュン関係


チュンチュンと小鳥たちが歌う爽やかな朝。
目覚めると隣には男…それも知った顔が寝ていました。


「ぅ、ん…」
「っ!」

隣で寝ていた奴がゴソリと音を立てて寝返りを打った。思わずビクリと肩が跳ねる。
俺はおそるおそるもう一度、隣で寝ている奴の顔を覗く。

「んー…」

艶やかな黒髪に滑らかで白い肌、長いまつ毛に薄い唇。うん。間違いない。我が学園の超美形カリスマ生徒会長様だ。
会長は俺が起きていることにより若干ズレた蒲団が気にくわないのかモゾモゾと動くが起きる気配はない。
ちなみに会長は服を着ていない。
俺はガタガタと震える手でサイドボードに丁寧に置いてある眼鏡を手に取り目にかけた。
落ち着け俺。落ち着くんだ俺。
会長が裸で寝ているのはこの人が裸族なんだ。
そう、そうに違いない。
普段からワイシャツを第四ボタンくらいまで開けて胸元全開で歩いているけしからん人だぞ。
そう、だから、下…せめてパンツを履いていればセーフだ。
俺はペラリと蒲団をまくった。
そこには輝かしいほど丸出しの会長様の下半身があった。
はい!セフトォオオオオオオオオオ
俺は静かに蒲団をかけ直した。
思い出せ俺。一体何があったというんだ…



俺は風紀委員長だ。
学園の風紀を取り締まり、自身も節度あり規律のとれた学園生活を送らなければならない。
もちろん俺はそうしていた。
これでもかというくらい真面目に生きてきて、それ故チャラついた生徒会役員とはしょっちゅう衝突していた。
生徒会連中が嫌いなわけではなかったが、学園の風紀のためにも、それは仕方のない事だった。
そして昨日もいつものように衝突した。
原因は今この学園を騒がせている転入生のことだ。
美形ホイホイというあだ名がつくほどにあの転入生は学園中の美形という美形を落していった。
美形で構成されている生徒会は一週間で全員落されたという噂だ。
そのせいで生徒会連中は仕事をしなくなり、奴らの親衛隊も過激になった。
完全に校内の風紀が乱れに乱れていた。
このままではいけないと俺は勇んで生徒会室に向かったが、そこには誰もおらず仕方なく生徒会長の部屋に向かったんだ。
そう、ここまではそうだ。何も問題がない。
そしてこの後部屋に入るといまだ未成年の分際で晩酌中だと言いながら高級な酒を煽りべろべろに酔った会長がいたのだ。
これでは話にならない、と退室しようとしたのを絡み酒らしい会長に捕まり飲まされてしまったのだ。酒を。俺、風紀委員長なのに!
だってアレめっちゃいいワイン…げふん、いや、酒の話とかいいんだよ。そう、問題はここからだ。
何が問題かってここから何も覚えてねぇ。
微塵も思い出せねぇ。とりあえず俺も会長同様べろべろに酔ったことはこのガンガン痛みを訴える頭が物語っている。
で、この状況である。

「おいおいまじかよ嘘だろ…」

俺は多分今真っ青だ。漫画とかだったらこう、縦線入ってる感じの。
そして会長は全裸なのに俺は半裸なところがまたこわい。

「んー…ん、ん…?」
「あ…」

俺が内心ああああああああああああああと叫んで絶望していると、隣で会長が目を覚ます気配がした。
会長の方を向くと目をこしこしと擦りながら、まだ頭がぼんやりしているのだろう顔で俺をじっと見つめてきた。

どきん。

いやいやいやいやどうした俺。どきんて何。確かにこの美形にそんな仕草されたらくそ可愛いけど違うだろ。

「あー…成瀬、おはよ…」
「あ、ああ、おはよう…白澤」

いまだにぼんやりとした顔のまま俺に挨拶をする成瀬。
え、結構普通なんだけど何コレ。
こいつも結構酔ってたから色々覚えてないはずだろ
俺的にはいつもの勢いで「何でお前がここにいんだよきめぇ!」ぐらい言われるかと思ったんだが。

「成瀬…」
「あ?」
「おはようのキスは…」
「へあ!?」

俺は驚きのあまり変な声が出た。
いやいや待て。おはようのキス?おはようのキスってなに。食べ物?俺知らない
そんな俺の動揺を余所に、白澤会長はんー、とか言いながら目を瞑ってキスをねだるような顔をしてくる。

きゅん。

いやいやいやいやだから違うだろ俺目を覚ませ。きゅんじゃねぇよやめろ馬鹿。

「し、白澤…」
「あー?」
「っていうか…なんで俺お前と寝てんだ…?」

しかも裸で。
俺の言葉を聞くと白澤は一瞬目を見開き、すぐに不機嫌な顔に戻った。

「何…もしかして成瀬覚えてねーの?」
「何…を…?」
「昨日、あんっっなに激しく俺のこと突きまくったくせに」

やめてぇぇえええええええええええ
やっぱりそうなの!?俺が半裸で会長が全裸で俺の腰に一切痛みがなく先ほどから目が無意識にシャットアウトしていた会長の体中に残ってる赤い痕でなんとなくそうかなとか思ってだけど!
俺まじやっちまったの…!!!?

「い、いや、あの…俺、酔ってて…」
「ああ、かなりな。そんでいきなり俺のこと押し倒してくれたんだぜ」

酔っぱらった俺ぇえええええええ!!!
だめだこれそうだ落ち着こう。まずそこからだ。そしてタイムマシーンを探すんだ。

「ごごごご、ごめ、あの…俺…」
「ま、かなりべろんべろんだったからな、そうじゃねぇかとは思ってたんだけどよ。やっぱ切ねぇのな」
「っ…!」

そう言いながらむくりと起き上がった会長は切なげに眉毛を寄せた。
その顔を見た途端ズキリと心臓が痛んだ。

「あの白澤…っ」
「つーか、まぁコレ狙って酔わせたの俺だし」
「は…?」

会長は全裸のままベッドから下りて、床に散らばった服の中からワイシャツを一枚手に取って羽織った。
そして俺に背を向けたまま言葉を続けた。

「酔った振りして部屋に誘い込んでお前ベロベロに酔わせて、既成事実でも作ってやろーかと思ったんだよ」
「な…?」
「俺、お前のことすきなの」

ちらりと顔だけこちらを向いた会長に、俺の心臓はどくりと今までで一番高く鳴った。
なんだそれ聞いてない。

「お前、転入生…寺田が好きなんじゃ…」
「好きじゃねぇよあんなKY野郎。っつかアイツてめーのこと狙ってたんだぞ。牽制かけんのに必死だったつーの」

頬を少し赤らめてぼそぼそという会長に俺の頭の中で何かがぷちんと切れた。
俺はベッドから身を乗り出して会長の腕をつかみ、勢いよく引っ張ってベッドに戻した。

「ぅ、わ…っ!?」
「なんなんだお前」
「あ?」

俺は会長を押し倒すような体制で、会長の顔をじっと見つめた。

「な、るせ…」
「ごめん。覚えてないのは確かで、それは謝る。本当にすまなかった」
「いや、だからそれは俺が…」
「でも、俺はラッキーだと思ってる」
「え…」

会長の瞳が困惑に揺れる。
俺は会長の頬をさらりと撫で、顔を近づけた。
ビクリと体を震わせて目をぎゅと瞑る会長。
おいおい嘘だろ可愛すぎんだろこのカリスマ会長。煽り方もカリスマだな。

「白澤、酔った勢いでこんなことになったとはいえ、俺いまお前にめっちゃときめいてる」
「なる…」
「白澤が本気なら、もう一度抱かせてくれ。今度は酔ってない俺に」
「っ…」

さら、と綺麗な黒髪に手を通すと会長は恐る恐る目を開けた。
そして震えながら俺の首に腕を回し、返事の代わりとばかりに抱きついてきた。
ああだめだ。何この人可愛い。
昨日までなんとも思ってなかったんだけどなぁ








朝チュンから始まる関係ってのも悪くない


(もうワイシャツあんな開けたらダメだからな)
(ああうん。もうしねぇよ。もともとお前の気を引きたかっただけだし)
(!?(可愛すぎるだろなにこの生き物ォオオオオオ))



END



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テーマ「人外ファンタジー」
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