おっぱいなくても君がすき


「うわぁぁああん!男なんて大嫌いだ!」


ばちこん。
夕暮れに染まる教室。
そんなロマンチックな場所で俺は涙と鼻水でベロベロに泣き腫らす友人を隣に、文化祭の資料をクラス分ホッチキスで留めるという作業に明け暮れていた。
なんて面倒くさいんだ。文化委員会になんてなるんじゃなかった。
文化委員は文化祭の間という期間限定で動く委員会だと聞いて、一年中仕事のある他の委員会より楽だと思ったんだけどな。とんだ思い違いだった。

ばちこん、ばちこん、ばちこん

俺は無言で三枚の紙を一部の資料にしていく作業を繰り返していく。

「ちょっと敬太、聞いてんの!?」
「ああ、聞いてる聞いてる。男が嫌いなんでしょ」

俺はズビズビと鼻をすすりながら息巻く友人に見向きもせず資料作りに没頭する。

「そう!もう嫌だ!男なんてみんなおっぱいが好きなんだろ!?どうせ無いよ!俺にはおっぱい!」
「あ、芯きれた…、龍取って」
「…」

涙をボロボロ零す友人、龍は無言でホッチキスの芯を取り俺に渡す。
その間も鼻水はズルズルとすすられている。

「てか龍は好きじゃないの、おっぱい」
「俺はちんこが好きなんだ…ぐすっ」
「龍はおっぱいよりもなんかもっと大事なものが無いんだと思うよ」

龍はは男が好きだ。いわゆるゲイ。
俺とコイツが出会ったのは高校に入ってから、たまたま隣の席になったことがきっかけで今でもつるむ友達になった。
そして入学から今に至るまで、コイツは好きな人が出来てはすぐに告白して振られてを繰り返している。
ちなみに今は二年生の秋だ。

「敬太はすきなのかよ、おっぱい」
「すきだよ」
「巨乳?」
「ううん、ちいちゃいのがいい」

俺の返答にマニアック!変態!と叫ぶ龍。
いつのまにか涙と鼻水は止まったようで、今度はケラケラと笑っている。
俺はそれを聞きながら黙々と資料を作る。

ばちこん、ばちこん、ばちこん

「俺今度こそ絶対いけると思ったのに…」
「それ、去年の保健委員の時にも言ってた」
「ああ…そんなこともあったね。あの保険委員長俺を振っておきながら別の男と付き合ってた…」

思い出しているのか遠い目をしながら、俺の作成した資料をとんとんと上下をそろえて整頓していく。

「なんで絶対いけると思うの。こんなこと言うのもアレだけど龍は自慢出来る顔じゃないよ?」
「敬太酷ぇ。そりゃ…俺は自他ともに認める平凡顔だけどさー…」

まとめた資料をばさりと空いた机に投げ出す。
整頓した意味ないじゃないか。
俺は投げ出されバラバラになった資料たちを一瞬見やり、まぁいいかと思いホッチキスで留める作業に戻る。

ばちこん、

「でも、委員会も同じの入って結構話せたし…頭撫でてもらったり、可愛がってくれてたんだもん。そりゃ期待するでしょ」
「頭まで撫でてもらってたの?そりゃ期待するね」
「でしょ」
「うん。でもそれは相手もゲイだった場合だけどね」

ノンケなら、先輩の男が後輩の男の頭を撫でるくらい、期待もなにも持たせるような行為じゃない。
当たり前に行われることとまでは言わないけれど、そこには純粋に自分を慕う後輩を可愛がる意味しか存在していないだろう。
この男はノンケにばかり惚れるくせに何故それがわからないのだろうか。

「うわーん…木村先輩ぃいいい」
「もう諦めたら」

再び今日振られたらしい想い人の名前を言いながら泣き始める龍。
コイツは惚れやすいくせに、ひとつ恋が終わるたびにわーわー泣く。
恋をしている間は本当に乙女みたいにきゃーきゃー騒いで、その人ばかり見ている。
ひとつひとつの恋が重いのだ。
普通こんなに惚れっぽい奴って、もっと一個一個軽いものじゃないんだろうか。

「敬太はいつも冷たい…」
「振られる度にこうして話聞いてやっている俺になんてこと言うんだこの子」
「えへ、ありがと。…でも、冷たいよー」

龍はテヘペロと言いながら舌を出して笑ってから、苦笑いをした。

「きっと敬太も誰か好きになったらわかるよ。振られたからってそんな簡単に諦めらんないってー」
「…そう」
「そー」

俺は龍の言葉に軽く相槌を打って、でも手は止めない。

ばちこん、ばちこん、ばちこん。

「じゃぁ俺もうわかってるな」
「え?」
「これでもかってくらい、わかってる」
「…けーた?」

ばちこん、
最後の一部を留めて、俺はさっき龍がぶちまけた資料を整頓するために足を動かす。
龍が俺の動作を眺めながら首を傾げる。
バラけた資料をかき集め、上下をそろえる。

とんとん、とん

「いいんじゃない。文化委員長、地味でオタクっぽくてつまんない男っぽいじゃん。きっと付き合えてもすぐダメになるって」
「ちょ、敬太酷ぇ!木村先輩になんの恨みが…!」
「ん、資料出来た。龍、教卓の中入れといて」
「お、おう」

俺は整えた資料を龍に渡す。
龍は一瞬驚いて、おずおずと俺の手から資料の束を受け取るとそそくさと教卓へと向かった。
俺は資料作りのために動かしていた机をもとの位置に戻していく。
ガタガタという音が静かな教室に響く。

がたん、がたがた、

「そーいえばさー!」
「ん?」

机を移動させるガタガタという音に負けないように龍が声を張って話しかけてきた。
俺はいったん手を止め、教卓の所に立つ龍を見やる。

「お前いつも俺と同じ委員会入るよな」
「…そうだね」
「実はお前も委員長狙ってたりしたの?」

こてん、と首を傾げて聞いてくる龍はなんて残酷な奴なんだろうか。

「それ、本気で言ってたらお前ちんこもぎ取ってやるからな」
「!?な、なんでっ…」
「女になりてぇんだろ。丁度いいじゃんか」
「い、嫌だ…!なんかよくわかんないけどごめんなさい!」
「よし」

俺は龍の半泣きの謝罪に満足して再び机を動かす。

がたんがたん、

あんな、つまんない奴ら、誰が好きになるっていうんだ。
何でいつも同じ委員会だからって俺が委員長共を好きだと思うんだ。
お前と一緒にするな。
俺の頭の中を色んな言葉が駆け巡る。

「つーかさ、」
「んぇ?」
「いい加減やめなよ、あんなつまんない奴ら好きになんの」
「敬太?」

俺は机を全部もとの位置に戻し終わって、まだ教卓に立つ龍の方を向く。

「お前が、あんなんとかのモノになるとか、興醒めだよ」
「え…と?」
「ね、だから、俺にしとかない?」

ばさばさばさ。
龍はせっかく俺が整えた資料を見事床に全て落した。









俺ならおっぱいなくてもお前のこと愛せるよ


(あ、ああああの…っ敬太、俺もっ…)
(あと、お前の好きなちんこもついてるよ)
(……台無しだよバカヤロウ)



END




人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -