『いーい、公人。この間みたいな無防備なのはダメよ』
「無防備って…」
『男はみんな狼よ。いままでは色々応援してたけど、こんな両想いになってすぐただれた関係になるなんて私許さないからね』
「……ただれた…」

浅田と両想いになってから、放課後デートやら一緒に登下校は当たり前のようにしていて、くすぐったいが幸せな日々をすごしている。
そして今日初めて浅田の家にお呼ばれをした。
その道すがら、ミルクさんはクドクド説教を続ける。
男は狼って…俺も男なんだけども。



きみに必要なこと*ななつめ



浅田を好きだって自覚して、かくして俺らは恋人的なものになったわけだ。
つまりそれって恋が成就したことになる気がするのだがミルクさんは相変わらずおっぱいもちんこもつけたまま俺の傍にいる。
別に嫌じゃないし、出会いが出会いだったせいでミルクさんになら何見られても今更そんなに恥ずかしくないので不自由はしない。
いつも傍にいるけど、俺が誰かといる時は基本静かにしてて空気化してるのでさほど気にもならない。
むしろ、何故かわからないけれどミルクさんが傍にいることはすごく安心する。
守護天使的な感じなのだろうか…キューピッドだけど。
そんな事を考えているうちに、浅田の家の前まで着いていた。
一般家庭より少し裕福なのであろうことが伺える大きめの家だ。いいな…
チャイムを鳴らすと中からドタンバタンガタガタという音を立てて、勢いよく浅田が扉を開けた。

「キミちゃんっ!」
「お邪魔します」
「うん!いらっしゃい!入って入って!」

浅田はこれでもかというほどの笑みを見せながら俺を家の中に引きいれた。
玄関も広くて綺麗だ。
そのまま浅田に手を引かれ二階に上がり、浅田の部屋に通される。

「ここ、俺の部屋!飲み物とってくるからここでちょっと待ってて!」
「あ、うん」

なで、と俺の頭をひと撫でした浅田は相変わらずのニコニコ顔で下に降りて行った。
俺は一人浅田の部屋に残され、どうしたらとおろおろしながら部屋を見渡す。

「…浅田のにおい…」
『変態くさいわよ、公人』
「っ、し、仕方ないだろ!か、仮にも…す、好きな人の…匂い…なんだし」

俺の言葉にくすくすと笑うミルクさん。うざい。
俺はそんあミルクさんを無視して鞄を部屋の隅に置き、ローテーブルの前に座る。
背後にはベッド。
そこにものすごい顔をうずめたい衝動に駆られるが、また変態くさいと言われるのが嫌なので我慢。
そうしていると浅田がお待たせーと言いながら手にオレンジジュースと思われるものを持って戻ってきた。

「オレンジ平気?」
「うん、すき」
「よかった。はい、どうぞ」
「ありがと」

浅田は俺にオレンジジュースを渡して隣に座る。
その近さに一瞬どきりとするけれど、俺はあまり動揺してない風を装ってジュースをちびちびと口に入れていく。
けれどその間も浅田の視線がものすごく突き刺さる。

「…なに」
「ん、いや、幸せだなって、思って」

そう言って浅田は手を伸ばして、俺の手からオレンジジュースを取り上げローテーブルに置いた。
そのまま反対の手を俺の頬に伸ばしてきて、顔を近づけてくる。
あ、キスされる。

「ん、」

目をつむればちぅ、という小さなリップ音とともに唇に柔らかな感触。
そのまま数回、唇だけじゃなく顔全体に柔らかい感触が降りそそいでくる。
頬に触れている手とは反対の手で、体をぐいと引き上げられ、背後にあったベッドにぽすりと乗せられた。

「あ、さだ…」
「あっは、さすがに今日はシないし、そんな緊張しなくていーよ」
「う、うん…」
「でも、ぎゅーてしていい?」
「うん」

浅田のベッドに横たわる俺の横に、浅田も同じように横たわり微笑む。
俺は浅田に手を伸ばして浅田の問いかけに応え、抱きしめてもらう。
なんだこの幸せ。たまらない
胸がきゅう、となるのに苦しくなくて、むしろ心地いい。

「キミちゃんさ、俺のどこ、好きになってくれたの?」
「ん?」

俺が浅田にしがみついて幸せに浸っていると、問いかけられた。

「俺、キミちゃんに好きになってもらえる自信なかったんだよ」
「え…」
「顔とか、そういうとこで好きになってくれんなら最初から好きになってくれてたろうし。顔以外俺ぶっちゃけいいとこないと思うんだよね」

軽いナルシスト発言をしているが、浅田は不安そうに苦笑いしていた。
確かに顔だけなら、とっくに好きになっていると思う。男の俺から見ても美形だ。羨ましいというより、憧れてしまう感じの。

「だから、ね。どこ好きになってくれたのかね、って」

浅田はさらさらと俺の髪をいじりながら聞いてくる。
その手つきは優しくて気持ちいい。俺は思わず頬をその手にすり寄せながら、浅田のどこに惚れたのか考える。

「やさしい、とこ…かな」
「優しい?俺が?」
「うん。なんつーか、さり気ないの。すっごい優しいんじゃなくて、ふとした瞬間にそう思う」

心地いい優しさ。それは、なかなか出来るものじゃないと思う。
そうしても気を使われてる感じや、偽善ぽいのは拭えない。それらは決して悪いことだとは思わないけれど、長時間一緒にいると疲れてしまうこともある。
浅田はそれを感じさせない。本当にさりげなく優しくしてくれて、それが当たり前で、お礼を言うことの方が迷惑なんじゃないかと思わせてしまうような不思議な優しさ。

「そ、っか…」
「うん。あとは俺みたいな引きこもりにも笑いかけてくれたことかな」

他人に笑いかけてもらうなんて、近頃では家族にもされていなかった。
俺が引きこもってからというもの、家族は俺に気を使っているようで、心からの笑顔を見ていない気がする。
だからきっと、もう最初から俺は浅田に魅かれていたのだろう。
そう思うと少し恥ずかしい。

「浅田は…」
「ん?」
「浅田は俺なんかのどこがよかったんだ」

恥ずかしいのを紛らわすように聞き返してみた。
でも実際こんな引きこもりでオタクで地味な俺のどこをそんなに好きだと言ってくれるのかには興味がある。

「んー、俺はねぇ、なんかこう、とすんって、キたんだよね」
「…え?」
「なんだろ、あー、あの、射抜かれたっていうかね。急にとん、って。んん、表現難しいな…」

浅田はうーんと唸りながら言葉を探していた。
俺はもうそれがほとんど耳に入っていなかった。
つま先から冷えて、何もかもが沈んでいく感覚が俺を襲った。
ああ、そうだ。
俺は何を勘違いしていたんだろう。

「とりあえずね、なんか急にビビっときて、もう次の瞬間にはキミちゃんが好きでたまらなくなってたの」
「あ…さだ…」
「きっと運命だったんだよ。そういう」

だってもうキミちゃん以外考えられない。
そう言いながら俺の顔にまたキスを降らせてくる浅田。
俺はゆるゆると浅田の背中に腕を回して、しがみつくように抱きついた。

『…公人?』

俺の様子に気づいたのか、ずっと黙っていたミルクさんが心配そうに声をかけてきた。
そう、勘違いしていた。
浅田が俺を好き?
そんなわけないだろ。

「…キミちゃん、すごい好きだよ。全部、なにもかも」

浅田は、ミルクさんのキューピッドの矢で俺のことを好きになったんだ。
俺のどこを好きになった?答えられるわけがないだろ。
"ほんとう"は好きなんかじゃないんだから。

聞こえてくる浅田の声に、俺は何も答えられなかった。









あやまちに気づくこと







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