俺が守った世界で君は笑って暮らすんだ



魔王に苦しめられていた世界を救った勇者様は、あがめられその後も名を語り継がれていきました。ちゃんちゃん。


よくある話だ。
実際アイツは、昔そういう勇者様がいましたって話を聞いて、じゃぁ今度は俺が!って感じで立ち上がったんだから。
人間の世界が欲しくって魔界から強大な力とともにやってきて、人間界滅ぼそうっていう魔王から世界を救おうってな。まったくご苦労なこって。
まぁ適当に頑張ってくれよとか思ってたのに俺まで巻き添え。一緒に行こうって言うんだもんよ。
最初はぶっちゃけだるかったし、そういうの他人に任せておけばよくね?って思ったんだ。
俺、そういうのに巻き込まれて死ぬなんてごめんだしさ。嘘だろ?みたいなさ。

アイツは昔から凄かったんだよ。
魔法はちょっと苦手だったみたいだけど、それ以外はズバ抜けてたね。
剣術も武術も本当、何もかも。魔法だって、苦手っつたって、一般の奴らからしたらそらもう凄いもんだったんだから。
戦士は魔法が使えない、魔法使いは体力やら戦闘力やらは並の人間と同じ、僧侶は派手な攻撃呪文は使えない。
でも勇者はそれが全部出来んだよ。全部出来るの。
もうアレよ、戦闘力バリバリ備えた賢者みたいな。反則じゃね?って思うね。
だからアイツはもうきっと生まれながらにして勇者になるべくしてなったんだよ。

俺?あー、俺はね、そういうの無理。ね。本当平凡だったの。
そう、「だった」の。
アイツが一緒に世界を救いに行こうなんて中二病くさい事言っちゃって、俺の手ぐいぐい引っ張って世界中連れまわしてくれちゃってね。
気づいたら俺勇者様御一行の一人。本当恥ずかしかった。
おかげで俺も脱平凡ですよ。まいったね。
アイツが行く先々で引き込んでいく仲間はみんな元から凄い奴で、本当勇者様御一行の名に恥じない奴らばっかりだったよ。
俺だけが平凡で、もう着いて行くのにいつも必死。
一回アイツらに着いていけないし、ぶっちゃけ凡人の俺が魔王軍と戦うとか並大抵のことじゃないから、怖くなってねぇ…逃げ出したこともあったんだけど、まぁ…アイツ放っておくことも出来なくて結局戻っちまった。
俺が戻った時のアイツったら、もう本当に普通な顔して「おかえり」ときたもんだ。
え?って感じじゃね?俺逃げたんだよ?馬鹿じゃないのお前大丈夫?
って、俺はそのままアイツに言ってやったらアイツ、ニッコリ笑って「だってお前はそんな奴じゃないって俺知ってるから」だと。
はずかしぃぃいいい!!!!
何この青春くさい感じ!やだもう鳥肌!とか言いつつ、その時はアイツのその言葉が嬉しくて俺ちょっと泣いちゃったりもしちゃったんだけどね。あ、内緒ねコレ。
で、ああもう面倒くさいなぁとか思いつつ、結局俺はまたアイツと打倒魔王の旅に繰り出しちゃってさぁ。
ああ、もうさすがにあれ以来逃げることはしなかったけどなー
逆にもうここまで来たらアイツらの少しでも役に立てたらいいなとか思い始めちゃって。
だってそうっしょ。塵ほどでも、アイツらの力になれるってんなら、嬉しいじゃんか。
凡人ごときが勇者様方のお役に立てるんだぜ?
そう考えたらなんかめきめきやる気みなぎっちゃって、俺もちょう努力しちゃってさぁ。
いやー若かったよね。結構今考えるとありえない修行とかしてたもん。今同じことやったら死ぬね、絶対。

で、魔王倒したわけよ。
魔王倒すのにも本当苦労したね!一時はもうダメかと思ったもんね。本当に。
でも、悔しいじゃん。
こっちはやりたくもない魔王討伐に半ば強引に参加させられて、人生変えられて、ここまできたのに負けるの?そんな馬鹿な!
アイツがどんだけ魔王倒すために努力したか知ってる?
元から凄い奴ったって、アイツだって並々ならぬ努力をしたんだよ。たくさん葛藤したの。
一時は逃げようともしたんだよ。あ、これ最重要機密ね。
でも、アイツは世界を救いたいって、相変わらずな中二脳で、言ってのけて魔王の前までやってきた。
俺はそれをずっと傍で、本当に最初から、全部見てきてたの。
それをお前、あんな魔王とかマント付けちゃって頭に変な角生やしちゃって何世紀前の服?みたいな恥ずかしい服平然と着たふざけた奴に、アイツの頑張ってきた色んなもの壊されるなんて冗談じゃなねぇって思ったね。
だから、俺ついさー…あー、アレ恥ずかしかったんだけどさー…
魔王に負けそうになってヘコじゃってる仲間達に、…アイツに、叱咤してっやったのよ。
立ち上がれよ!俺は諦めないぜ!お前らが諦めても、俺は戦う!みたいなね。
もうちょうイキってたよ俺。テンションあがってたんだろうねー、魔王前にしちゃってさー…あー本当恥ずかしい。
だけど結果的にそれでアイツが立ち上がってくれて、魔王倒してくれたんだ。だからよかったよね。恥ずかしい思いした甲斐あったよね。うん。

そうして言い伝え通り、勇者様は世界を救ってあがめられて、語り継がれていきました。



「…ってなるハズだったんだよ」

俺は分厚い書物と、魔法陣が描かれたたくさんの紙と、その他もろもろに埋もれた部屋で呟いた。
部屋に響くのはガリガリという紙の上を羽ペンが走る音。

「それなのにさー、本当…約束が違うじゃねぇかっつー話だよ」
「…ねぇ」
「あんたもそう思うっしょー?」

そう言って俺は羽ペンを走らせていた手を止めて後ろを振り向く。
そこには、何とも言えない顔をしたかつての仲間がいた。
仲間といってもパーティのメンバーではないけど、でも、当時俺たちを色々と支援してくれた、大事な仲間。大国のお姫様だ。

「……そうね」
「ね」

振り返った俺から目をそらすようにお姫様は顔をそむけた。

「俺さー、あの語り継がれてきた勇者達はみんな、魔王討伐中にフラグ立ったお姫様と結婚して、国を、世界を守りながら幸せに暮らしていったもんだと思ってたんだよね」
「…」
「まぁ、アイツの前の勇者様はそうだったかもしんないけどさ。ソイツは俺の勇者じゃないし、関係ないっていうか、ね」

俺は羽ペンを机に置いてガタリと音を立てて立ち上がった。
本の山をひょいひょいと飛び越えて、紙はがさがさと踏みながら、お姫様の前まで行く。
俺が目の前に立つとお姫様はビクリと体を震わせて、俯かせていた顔を上げた。
その顔は、恐怖と、困惑と悲しみが混ざってなんとも言えない表情になっていた。

「ね、ねぇ」
「ん?」

震える声で、お姫様は俺に話しかける。
俺はお姫様の前に立ってニコニコと笑うだけ。

「本気なの?」
「何が?」
「この、世界を…壊すって…」

お姫様の目にはうっすら涙が溜まり始めた。
でも溜まるだけで決してそれを流さないんだこのお姫様は。昔からそうだった。

「あなたが…あなた達が救ってくれたこの世界を…本当に壊す気なの?」

お姫様は、俺の背後に広がる本の山と紙を見つめる。
それらは全部全部、世の中で禁じられたもので、本来こんな風に一か所にあっていいものでも、紙に書き起こしていいものでもない。
俺はお姫様の言葉に、さらにニッコリと笑みを深くして、足元にある紙を一枚拾った。

そう、俺は、この世界を壊そうとしていた。

「魔王もさぁ、なんでこんな世界が欲しかったんだろうね」
「…っ」

ぐしゃり、手に持った紙を握りつぶした。
その音にお姫様は再びビクリと体を震わせる。

「言っておくけどね、俺は、一度だってこの世界の…あー、人間のために戦ってたことなんてねぇよ?」

ぐしゃぐしゃにした紙を足元に捨てる。
かさかさと音を立てて少し転がったそれはお姫様の足にぶつかって止まった。

「アイツが、人間を守るから、俺もそうしただけ」
「…」
「ぶっちゃけあいつが魔王側で魔族従えてこの世界をどーにかしようってんだったら、俺はそうしたぜ?」

俺の顔からは、いつからか笑みが消えていた。
お姫様の顔からは、もう悲しみの色しかなくなっていた。

「誰が泣こうがこの世界が滅びようが知ったこっちゃないの。俺はただ、アイツが笑って暮らせる世界があればそれでよかったの」

それなのに。
世界は裏切った。
アイツが人生全部をかけたって言っていいくらいのもんかけて救った世界は、人間どもは、アイツから笑顔を奪った。
魔王を倒した英雄。ありがとうありがとう。でも魔王より強いだなんていつか脅威になるかもしれない。今のうちに。
そう言ってアイツは世界にころされてしまった。
残ったのは、アイツが世界を救ってくれたっていう、話だけ。

「ありえなくね?ふざけてね?一番頑張ったアイツが一番不幸になっちゃったとか、嘘でしょ。そう思わない?」
「そんな…っ」
「だっからさぁ、もうぜーんぶ、ぶっ壊しちゃおうって…」

ポロリ。
そこまで言って俺の目から生暖かいもんが流れたのがわかった。
ああ、もう、やだなにこれ、はっずい。恥ずかしい!

「あの…っ」
「思って、たんだよ。思ってたの。本気で、もうこんな世界いらねーって。アイツ奪った人間なんていらねぇって」
「…」
「俺ごと、全部何もかも、跡形もなく消えちまえって…」

ボロボロボロと止まらない涙。
どうしてくれんのこれ。
目の前のお姫様は困惑の表情でおろおろと俺を見つめる。

「でもアイツがね、最後に言った言葉が、やっぱりどうしても、俺を引き留めるんだ」

ぐしゃり、顔をぬぐう。
いらないって思った。
アイツを奪った人間たちなんて、アイツのいない世界なんて。
勇者のいなくなった、魔法使いなんて。
全部全部いらない。必要ない。消えてしまえばいいと思った。
けれど、そうしようとする度に、思い出してしまう。
最期に、笑いながら言ったあいつの、最後のことば。

「…同じか、わからないけれど…私も聞いたわ」
「っ、…っ」
「まだ魔王軍との戦いのさなかに、あの人はあなた以外のパーティみんなに言っていたの」

そう言いながら、泣き崩れている俺を、お姫様は優しく抱きしめた。

「とても優しい声で、愛しいもののことを想うその顔で、あの人は…」

震える声でお姫様が紡いだのは、アイツの言葉と同じソレ。
残酷なそれは、でも温かく、俺の中に再度響いた。









どうか世界を恨まないで、俺の魔法使い



(この世界があったから俺は君と出逢えたんだ)
(だからこれは、そんな世界をつくってくれた人間達へのほんのお礼)



END


勇者×魔法使いは私のルーツ。





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テーマ「人外ファンタジー」
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